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2019年2月の記事一覧
【児童文学】忘れちゃいけないお弁当
コンコン、と遠慮がちに、僕は父さんの仕事部屋のドアをノックした。返事がないので、開けてみると、父さんはパソコンとにらめっこ。うー、とか、あー、とか言いながら、頭をかきむしっている。僕は父さんの背後に立つと、その後ろからパソコン画面をのぞきこんだ。白く光るディスプレイには、書きかけのデジタル漫画が見えた。
そう、僕の父さんは、漫画家だ。そうして、小学五年生の僕を育てている。母さんは、二年前病気で亡
【小説】こたつから出てこない
姉がこたつから出てこない。文字通りの意味だ。夕方六時にバイト先から家に帰ってくると、朝僕が出て行ったときに見た姿勢と同じ状態で、姉の紗那は居間のこたつに寝そべり、NHKのニュースを見ていた。紗那の視線はテレビを本当に見ているのかいないのか、ただ虚空を見つめているようにも見える。
ひきこもりとこたつは、異常に相性がいい。僕はもうずいぶん前から持っている諦念とともにそう考えた。僕はコンビニで買ってき
【小説】朝から夕方までの喫茶店
厨房の流しで手を洗ったあと、礼子は業務用冷蔵庫の正面にかけてあるタオルで手をぬぐい、タオルかけのすぐ上にマグネットで留めてある、予定をマジックで書き込みすぎて真っ黒になった一月のカレンダーをめくった。
今朝から、二月になる。美大時代のイラストレーターの友人が「仕事をした記念に」と礼子にくれたこのカレンダーは、水仙と福寿草が水彩のていねいな筆致で描かれている、とても洒落たものだった。
そんな良い