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2014年11月の記事一覧
バターチキン(chapter 3:完結)
玉ねぎがしんなりした鍋の中に、鶏もも肉とカレー粉とヨーグルトを入れる。ヨーグルトはこのカレーに欠かせない隠し味だ。砂糖や塩コショウを入れた後、今度はトマト缶とコンソメを混ぜ来んで、くつくつと煮る。大きな炊飯器でご飯も炊いている。さて、サラダのために、わかめも戻しておかないと。
手際よく調理を進めながら、麻子はいつでも森沢のことを考えている。自分に、ものを食べる喜びを教えてくれた人のことを。ぼろぼ
バターチキン(chapter 2)
大学での専攻は英文科だった。通訳の仕事をしたいという夢を抱いて、小さな田舎から出てきた18歳の自分が、もし32歳の今の自分を見たら、なんと思うだろう、と麻子はいつも苦笑する。それほどまでに、自分に何ができて何ができないのかを、見極める力すら若いころにはなかった。
帰国子女ばかりの東京のキャンパスで、麻子は必至に授業についていこうとした。バイトしたお金はすべて洋書や英語の教材に費やした。血統書つき
バターチキン(chapter 1)
葉山麻子は勤め先の会社でたった一人の管理栄養士である。誘われて入った小さなIT企業で、毎日社員にお昼の食事を提供するのが麻子の仕事だ。6人の社員と、自分と社長の食事のために、朝から買い出しに行き、割り振られた金額内で食材を買い、午前のうちに給湯室兼キッチンといった狭いスペースで、8人分の食事をつくる。会社の周りにコスパのいい食べもの屋がいままで少なかったので、このプチ社員食堂は、なかなか皆に盛況だ
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