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お気に入りの物語ベスト10

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これまでの物語の中で、スキの数に関係なく作者自身が気に入っているショートショートをセレクトしています。【きまぐれ更新】
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2021年11月の記事一覧

天職|ショートショート

「申し訳ございません。本日の便はすべて欠航となりました」 三途の川の船着場は、混雑を極めていた。ここ数日の渡し船の整備不良により、あの世に渡る予定の死者が列をなして順番を待っていた。 「いつまで待たせる気だ! こっちはもう死んでるんだぞ」 「申し訳ございません」 死んでいるのだから、待っていてもいいはずなのだが、生前のせっかちは死んでからも続くらしい。 手伝えることがあれば、と人を掻き分けながら係員の方へ向かっていると、同じように人の間を縫うように進む青年がいた。 「すみ

みんなでジュリエット|ショートショート

「はい、ではジュリエット役をやりたい人?」 さっきまで熱を帯びたざわめきが教室を満たしていたが、先生のこの一言で水を打ったように静かになった。 学園祭のクラスの出し物が演劇『ロミオとジュリエット』に決まった時は、クラス一同落胆した。食べ物の出店や、お化け屋敷を期待していたのに、よりにもよって、ラブストーリーの演劇とは。 他のクラスの奴らが冷やかしに見に来ることを想像しただけで吐き気がする。 「先生」 クラスのひとりが手を挙げ、皆は一斉に振り返った。 「何人かでジュリエット