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スキを集めた物語ベスト10

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これまでの物語の中で、読者のみなさまに特にスキを集めたショートショートをセレクトしています。【月毎更新】
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#小説

株式会社おっちょこちょい|ショートショート

「あなたが新入社員?」 「はい、そうです。よろしくお願いいたします」 入社初日。めちゃくちゃ緊張する。担当の上司の人、優しそうな人で良かった。 「今日はまず仕事の様子を見てもらうところからね」 軽く案内するわね、と一通り会社の中を連れ回された後に、いよいよ、という感じで上司は向き直った。こちらも自然と背筋が伸びる。 「でも、その前に、どうしてこの会社に入ったの?」 「はい、自分自身の性質を、世の中の役に立てたいと思い……」 「ちょっと、面接じゃないんだから。もっと楽に話し

月の名所|ショートショート

今年は、家族で月の名所に行ってみようということになった。 とても楽しみだ。 月の名所にも、いろいろな場所があるが、車でしか行けないところにしよう、と話した。家族でドライブだ。 今年の春は、家族で引っ越しを経験して、お花見どころではなかった。 花の名所に行けなくても、月の名所に行けばいい。 引っ越してきてから、慣れない環境に体を馴染ませることばかりを考えていて、なかなか外を出歩いていない。 ピクニックのように、食事を持っていきたい。 どうせ、外では食事ができないので、家族で

1分草|ショートショート

それは世紀の大発明だった。 私がその大発明に気づいたのは、海外の特許について調べていた時だった。 雑誌記者の私は、海外でのニュースをいち早く仕入れ、それを日本に伝える記事を担当していた。 「Just One Minute」と見出しのある海外誌の記事を読み進めると、タネを撒いてから1分で食べられる大きさにまで成長するという食用植物が開発されたらしい。成長の速度を早める品種改良を重ねた結果だった。 記事を読むと、豆苗のような植物で、タネに水をつけて1分ほどで10センチ弱にまで

告白雨雲|ショートショート

「できたぞ!」 博士の雄叫びを聞きつけた助手が、研究室に飛び込んできた。 「どうしました?」 博士は落ち着いた笑顔で応えた。 「なんでもない」 博士は慎重にドアを閉める。 「誰にも見られてはならん」 博士はフラスコの透明な液体を揺らしながら、微笑んだ。 この透明な液体こそが、長年の研究の成果、「愛の妙薬」であった。たった一滴でたちまち恋に落ちる。 博士はこの大事な研究成果を自宅で保管しようと考えた。 フラスコに栓をし、家路を急ぐ。博士は研究のため三日三晩寝ていなかった。