「お化けの恐子とライムくんの、歴史の時間。」〈短い小説 〉

「お化けと神さまとライムくん。」の続きのお話です。)


お化けの恐子は、またもひどく怯えていた。

恐子はライムくんのお化けの生徒となって、ひと月が経とうとしている。ライムくんは学校の先生にも、恐子と同じような恐怖を与えていた。

恐子には、その気持ちが痛いほどに分かり、心の底から先生に同情したのであった。

ある水曜日の歴史の時間、先生が縄文時代の人々の生活を、教科書に沿って生徒たちに分かりやすく教えていた。

熱心で少し真面目すぎるところがあるが、"いい先生"だと、恐子はライムくんの後ろでふわふわ浮かびながら、感心したのだった。

すると、いきなりライムくんが立ち上がった。

恐子は嫌な予感しかしなかった。そして、お化けの嫌な予感は大体当たる。

「せんせー!なんで、そんな昔の人のことがわかるんですかー!?」

「…また君か。それはだね、偉い学者の人たちが遺跡とか縄文土器とかを見つけて分かったんだよ。すごいことだよね?」

「なんで、その偉い学者の人たちの言うことが正しいとわかるのですかー!?」

「…それは、誰よりも歴史に詳しくて勉強をたくさんした人たちなんだから、その人たちが正しいのは当たり前なんだよ。」

「ぼくは信じられません!勉強をたくさんしたから間違えないなんてことないと思いますし、もしかしたら、その遺跡とか縄文土器とかは宇宙人が仕込んで、騙したのかもしれないし、偉くて勉強をたくさんした人だから、その人の言葉を信じるっていうのは、危険極まりないことだと思います!」

「ライムくんは、本当に想像力が豊かだね。しかし、それが教科書に書かれている以上、今はそれが事実で正解なのですよ。」

「じゃぁ、先生は、教科書に"安定こそが成功だ!自分の意思など捨てて、ただ人の言うことを聞けばいい!"と書かれてたら、それが事実で正解だと生徒に教えるんですか?そもそも先生って何を教える人ですか?勉強ですか?ルールですか?それだけだったら、先生なんて必要ないんじゃないんですか?教科書に載っていない"大切なこと"を教える人なんじゃないんですか?生徒の個性を伸ばす手伝いをする人なんじゃないんですか?」

「っつ…それは…先生は…うぅ。」

先生はたまらず顔を抑えて教室を出て行ってしまった。

教室のどこかで鉛筆が転がる音がした。そのくらい、みんな静まり返っていた。

ライムくんは、スッキリしたように鼻歌を歌いながらノートに落書きを始めた。

恐子は、ふるふると震えながら、すっかり怯えきっていた。

すると、ライムくんは後ろを振り返り、笑顔で恐子に言った。

「じゃぁ、今日の宿題だすよ?あと、ぼくにも教えて欲しいことがあるんだ。未来の学校のあり方について、恐子はどう思う?ぼくが思うには…」

お化けの恐子は、今度こそ神さまに頼みこみ、ライム先生のお化けの生徒をやめさせてもらおうと、静かに心に誓った。

山形県に住んでいる小学4年生です。小説や漫画を読むのが好きで、1年生の頃からメモ帳に短い物語を書いてきました。今はお母さんのお古のパソコンを使って長い小説「皐月と美月の夏。」を書いています。サポートしていただいたお金は、ブックオフでたくさん小説を買って読みたいです。