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夏の星々(140字小説コンテスト2024)結果発表

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

夏の文字 「高」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

「季節の星々賞」として入選3編+佳作7編(計10編)を選出しました(応募総数660編)。ご応募いただきありがとうございました。

選評(評・ほしおさなえ)とあわせて受賞作は後日hoshiboshiサイトへも掲載します。
また、優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。

入選の方々には特製の賞状(ほしおさなえによる手書きのお名前入り)と、図書カード(1000円分)を贈呈いたします。

年4回のコンテスト後に、各回の入選作のなかから大賞を1編選出します。
年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

受賞作

入選(3編)

波璃飛鳥
線香花火の中には花火蟲が棲んでいることがある。花火蟲が入っていると、火花がいつもより少しだけスペクタクルになる。パチパチと弾ける火花が消えるまでのあいだに、花火蟲は出会い、恋をし、子を作り、老いて死ぬ。花火蟲の子どもらは夏の甘い夜風にのって空高く舞い上がる。遠くへ、遠くへ。

空見しお
黄昏にひとりぼっちの日は、人差し指を高く掲げて呪文を唱える。「鬼ごっこする人、この指とーまれ」。集まってくる影は、子どもの形をしていたり、していなかったりする。「じゃあ、君が鬼ね」。選んだ影が僕に向かってうねるのを、かいくぐって笑う。僕の影は、もう、子どもの形をしていない。

如月恵
土手道で鬼ヤンマとすれ違う。肩の高さ辺り、道と平行に真っ直ぐ飛んで来た。譲れない縄張りでエメラルド色の複眼がギロリと動く。睨まれた。夏の終わり、亡骸が落ちていた。黒と黄の縞模様も鮮やかな完全標本だ。目の光だけが消えている。土手道にそっと置く。夕空高く昇って行く夏の幻影が見えた。

佳作(7編)

三日月月洞
その女は実に高慢な質であった。高慢なまま生き、高慢なまま、1人で死んだ。女は地獄に堕ちてなお高慢であったが、1つだけ生前と違った。鬼と結ばれたのだ。腹に子が宿りし頃、女は初めて、己が高慢を恥じた。が、当然閻魔は激怒する。女は桃にされ、その伴侶は島流しに。長い物語の始まりであった。

紫冬湖
重く閉ざされた窯の扉を開く。高温で焼成した空気の名残が漂う。まだ完全に冷めきらない空間で、棚板の上に鎮座する土物の器たち。どれ一つ同じ表情はない。色のむらも釉薬の垂れ方も十人十色な器たちが奏でる大合唱に、耳を澄ませる。釉薬に貫入が入る音が、まるで風鈴の見本市のように涼やかに鳴る。

伏見サマータイム
その山は、標高が二mしかない。海岸に広がる平べったい山だ。江戸時代に海の様子を見るために人工的に作られたらしい。満月の夜にこの山を登ると、鬱蒼と木々の生い茂る山の中に迷い込み、一晩中彷徨うことになる。手作りの山が、本物の山に憧れて化けるんだと、亡くなった祖父はよく言っていた。

草野理恵子
僕たち家族は歩く木になった。僕は体を斜めに切られていたので人間だったら死んでいた。木になっていてよかった。一部を失いながら僕は歩いた。それが仕事だ。「ほらいい子にしていないと歩く木になりますよ」見世物として町から町へ移動した。移動動物園みたいで胸が高鳴った。暑い夏休みが来る。

もちょき
みんな知らないかもしれないけれど、死んだ人の心は海にかえって、悲しい記憶だけ砂になってビーチに戻される。そのままにしておくと高く積もった砂浜は壁になって山になる。だから人魚たちがやってきて掃除する。砂をよく噛んで飲み込む。それを深海へせっせと吐き出すと、立派なサンゴ礁ビルが建つ。

狭霧織花
やけに高さのある階段を、のぼりづらくなったのはいつからだろうか。手すりもないので手をついて歩くうち、壁にはいつの間にか線ができていた。「ありがとうね」尻に感じたぬくもりは、相棒の鼻面だ。ぐいと押し上げられて自然、膝が上がる。もう少し頑張ろうか。優しい君が一緒に歩いてくれるうちは。

森林みどり
喜びは一瞬で、長い静寂が続いた。しばらくして、高みから天恵のように小海老の死骸が降ってきた。私は口をパクパク開けてそれを食べた。それからまた静寂が来た。透明な壁に突き当たっては、方向転換してまた泳いだ。訪れがいつあるか知らなかった。永遠のようだった。長い空白の中を私は待った。

part1 part2 part3 part4 part5 part6 予選通過作 結果発表

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