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夏の星々(140字小説コンテスト2024)応募作 part1

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

夏の文字 「高」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

7月31日(水)までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去の受賞作などは以下のリンクをご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。

優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

雑誌「星々」既刊ご購入▼


応募作(7月1日〜4日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

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7月4日

限界高校生
『もしも、この手があの空へ届くなら』
そう思いながらあの高い空に向かって手を伸ばす。
ねぇ、貴方は今どこいるのかしら。
そう問いても答える声はなく。
『逢いたいわ。貴方に』
私も寂しい時があるの。
今日もあの高い空に手を伸ばす。
この手が届かずとも、思いが届くように。

二川椿
吾平が捕まったそうだ。一年前の窃盗を最後に姿を消したので死んだと思われていたが隣町で棒手振りになっていた。駆けつけた役人に言ったのは「足元の大きな影に唆されて盗みを働いてきたが、今は悪い事をする気も起きねえ。ほら、お天道さんに高いところから照らされて、こんなに小さくなっちまった」

るるる
ある占い師が、わたしの前世は砂漠をキャラバンと旅したラクダだと言った。
どうりで大人になった今でもポケットラジオの雑音が好きな訳だ。空想がおかあさんの子宮の中を通り抜け、砂嵐が高く舞う砂漠に向かう。
ああ、でも、今世と前世の境を知りたい。ラジオのチューニングを合わせるみたいにさ。

松村 信子
私は高い所が大好き。眺めはもちろん深呼吸すれば体中にエネルギーがみなぎってくる。子どもの頃にはふわふわと綿飴のような雲に乗ってみたいと思った。そんな私も今では高齢者となり、高所恐怖症なのである。

春松
「背、高くなったね」
「分かる?」
 息子は微笑んだ。
 肌は青白い。
 顔に夫の面影を感じる。
 他愛のない会話が続く。
「……時間だ」
 腕を掴まれた息子は連れていかれた。
 扉が、重々しい音と共に閉まる。
 腹を痛めて産んだ子はこんなにも愛おしい。
 たとえ人殺しでも。

蛯田若奈
「いつも涼しそうな顔してるよね」と、夏の陽射しの下、顔を手で仰ぎながら君が言う。
「焦ったり、ドキドキしたりすることない?」「あるよ、普通に」
「どんなとき?」無邪気に尋ねる君は、隣を歩く僕の胸が今まさに高鳴っていることを知らない。

春松
 シャボン玉が高く上がる。
 屋根を超えて、空を超えて、月を横切る。
 やがて、宇宙の端に辿り着いた。
 なんだ。
 皆、ここに居たのか。
「おつかれさま」
 先に着いていた仲間からの労い。
 手も足もないが、まぁいい。
 少し休むとしよう。
 戦争はもうごめんだ。

春松
「高いからまた今度ね」
幼子は指を咥えている。
ガラス越しにぶつかる視線。
そう見つめてくれるな。恥ずかしい。
「サンタさんにお願いするわ。それまでそこに居て」
幼子は腕を引かれ、やがて見えなくなった。
男は恨めしく首の鎖を撫でる。
子どもの成長は早い。元気そうで良かった。

戸田真二
君はオーラというものを信じるだろうか。真夏の昼下がりのことである。大通りから外れた裏道を歩いていると、カウボーイハットを目深に被った男性が私の方に向かって歩いてきた。顔は帽子の陰で見えない。しかしその男性が発する高貴なエネルギーに弾かれて私は一本手前の角に吸い込まれた。

いやいやえん
高木華子は明日から森川華子になる。名字が変わる理由など、片手で数えられる程度しかない。ふと思い出す。高という漢字が家みたいな形に見えて素敵だと言った彼女のことを。華子は喜ばしい理由で名字が変わる。その他大勢の人も祝福してくれている。だが彼女はきっと悲しむだろう。そんな気がする。

香澄つい
伊藤さん。始めまして。
伊藤さん。同じ係だね。
伊藤さん。鉛筆忘れちゃった。
伊藤さん。文化祭楽しみだね。
伊藤さん。放課後どこか行かない。
伊藤さん。伊藤さん。伊藤さん。
心地良い距離が好き。この空気が好き。欠片の寂しさに蓋をして、高嶺だと言い聞かせて、今日も彼女に微笑んだ。

早希子
高橋さんは、いつも眼鏡をかけている。ある時、眼鏡を外していた。高橋さんは足を椅子に、ぶつけた。「大丈夫ですか?」私は駆け寄った。高橋さんは「大丈夫」と言うと本を顔に近づけて読み始めた。高橋さんは今度はドアに腕をぶつけた。するとバッグの中から「両目2.0」と書かれた紙が落ちてきた。

早希子
日本一高い富士山に登った。友人は、飴玉を取り出し口に、放り込んだ。そして私にも飴玉をくれた。友人は富士山から見える景色の絵を描き始めた。その絵には沢山の動物が描かれていた。動物は居ない。でも確かに友人は風景を見ながら描いている。最後に小さな富士山を端に描き終わるとペンをしまった。

早希子
私は海の高台の家に住んでいる。そこの海には河童が出ると言われている。河ではなく海なのに。私は河童を見る為に夜に海に出かけた。その時、雨が降り出した。私は雨に打たれながら海を見つめていた。高波になりそうだ。その時、海から河童が顔を出した。河童は頭の皿を取り外し降りたての雨を貯めた。

冴原メグミ
高く上がった花火を見上げる私。ただ花火を見上げる私。だって、私はただ誘われただけだから。本当の気持ちなんて言えない。だから花火を見上げる。でも、高く上がった花火を見上げると、私より背の高いあなたの顔が視界に入る。あぁそうだ。今なら見えないんだ。そして私は、そっとあなたの手を繋ぐ。

いやいやえん
彼、あるいはそれは無我夢中でのぼり続けた。登山とは違い、登頂などまるで見当たらなかった。ようするにゴールなどないのだった。それでものぼり続けた。上へ、上へと。ただもっと高いところへと。馬鹿と煙は高いところが好きだと言うが。さあて、高みの見物といこうか。

おしかわ
やいのやいの甲高い声が聞こえる。男も女も集まる島のどちらに寄ればいいのかわからず、方位磁石も正解を示さないだで仕方なく棹で釣りを始める。そうしたらわいのわいのと大量の魚は釣れたが、船上では燻製はできず。食べきれない分は海に捨て、腹を満たす分だけを食べ、また狩場を探して舟を漕いだ。

おしかわ
黄金の枝で高く跳んで、星を掴んでそのまま落っこちる。大きな葉っぱから落ちたあとに手の中を見れば、星はまだ無事だ。キラキラ光る星の先っぽを少し折って口の中に入れれば金平糖のようにほろほろ溶ける。大冒険の果てにコレかぁ、と思いながら甘さで身も心も溶かされてしまう。もう思い出せないや。

俄樂大
貴方の名前を人伝てに聞きました。きっと夏に生まれたんだと想像できる名前ですね。そしてきっと私が終生口にすることのない名前でしょうね。梅雨の晴れ間は夏の兆しを漂わせながら高く澄んでいます。暑い季節が苦手なの。蝉の鳴き声が嫌いなの。私が息を止めている間にどうか秋が訪れていますように。

7月3日

伏見サマータイム
アンコウの標本が高校の理科準備室にあった。化学部員だった私は、佐木という化学教師に命じられ、標本の手入れをよくしていた。標本は埃を拭われると満足そうにため息をついた。理科準備室にアンコウの標本などなく、佐木という教師もいないことを知ったのは、母校の化学教師になった後のことだ。

二川椿
付き合いたての恋人に何気なく誕生日を聞いたら「来月」と返ってきたので、駅で別れてからペアアクセサリーを探すことにした。
高い。バイトしていない高校生が購入を即決できる金額ではない。物をお揃いにできないなら同じものを目に映そうか。風景でも映画でも。横顔を見つめたくなるのを、堪えて。

おしぼり
彼は毎朝、高野豆腐を水で戻し、卵液に漬けてバターで焼き、最後にはちみつをかけてフレンチトーストを作る。良質なプロテインとミネラル、脂質を効率よく摂取できるのだそうだ。ダイニングキッチンには植物が飾られている。観葉植物を買い集めたため、部屋は少しジャングルのようになっている。

おしぼり
高さんは仕事を休んでばかりいる。今日でもう2週間だ。会社へは病気療養中ということになっているらしい。
課長が今朝から部屋の中を歩き回っている。私はそんな様子を眺めていた。
突然、見知らぬ男が入室し、刑事であることを告げ、私の身柄を拘束しに来た。理由は不明だが、私は従うことにした。

おしぼり
明晰夢を見た人は空を飛びたがる。鳥のように高くから街を眺め、風を切り、まさに天にも昇る心地だ。
夢の終わりにはいつも同じ場所に辿り着く。朝日が昇ってくるのを眺め、その先に何があるのか気になり飛び続ける。そのうち地平線の向こうに飲み込まれるように消えていき、同時に夢から覚める。

矢島らら
 雛人形の飾りの丸高坏を、姫が白い指でつまむ。朱塗りの器の小さく丸い面に、さらに小さな男雛と女雛が描かれている。密かに心通わせていた筒井筒の下男が、姫のために描いたのだった。
「輿入れしても永遠に忘れまい」
 器の中の雛たちは、姫と下男に瓜二つだった。姫の涙が丸高坏に滴って光る。

我楽 太
「今月分です」
「どれどれ……はあ、少なくない?」
「いつも通りの金額ですけど?」
「何言ってんの! 物価高で値上げしてるに決まってるでしょ」
「……わかりました。明日持ってきます」
「忘れたらタダじゃ済まないから」
彼女は去った。
『はあ、友達料も値上げか……食費を削ろう」

我楽 太
「高度を上げるんだ」
「高度は下げるんだよ」
右に天使。左に悪魔。奴らは私の腕を引っ張り合っている。空中で。
「上は楽園だよ」
「それは嘘だ。下の方が極楽だ」
「うるさい。どっちにも行きたくない」
奴らを振り払うと、私は空中に固定された。
そして目が覚めた。
知らない天井だった。

我楽 太
高嶺の華が咲いた。
泣きながらおれの後ろを歩いていた幼馴染は、今は女優として大成している。テレビやネットで見かけない日はない。
あいつは幼馴染なんだ、とおれはよく自慢している。
けど、あいつの泣く演技を見ると、胸が痛くなる。
あいつは、おれの後ろにはもういない。


うだるような暑さ。暑いと手で宙を扇いだ君をよく覚えている。手の隙間から見える首筋を流れる汗がひどく色っぽくて。思わずその眩しさから目を逸らした。「ねぇ、いつものとこでソーダ買って帰ろうよ」駄菓子屋のプールに浸かった空色の夢。「高〜!早く〜!」君の声が何故か離れなかったあの夏。

赤い尻
宿から見上げる青い山腹に古めかしい堂宇がある。誰に訊いても由来は知れず。高の字に似て一層と二層に四角い窓があり、いまにも何かが顔を出しそうな気配。歩いてゆくには険しそうだ。せめて写真に残そうと、遠近法で掌へのせた。ころん、と転がり落ちたのをつかむと、緑の釉薬がかかった箱庭玩具だ。

田中えっぬー
太陽が銀色に照っている。
海は干上がり、大地は割れ、空気は淀み、人々は追い立てられるように数を減らしていった。
かつて好きだった夕映えはどこへ行ったのだろう。
「お兄ちゃん」
弟と共に高台からあの日変わってしまった太陽を眺める。
――ここは南極、あの陽の届く最も遠い場所。

伏見サマータイム
その山は、標高が二mしかない。海岸に広がる平べったい山だ。江戸時代に海の様子を見るために人工的に作られたらしい。満月の夜にこの山を登ると、鬱蒼と木々の生い茂る山の中に迷い込み、一晩中彷徨うことになる。手作りの山が、本物の山に憧れて化けるんだと、亡くなった祖父はよく言っていた。

7月2日

花明
私が宙を飛べることは誰にも言っていない。地上約50センチメートルの高さに浮くのがやっとだから大して面白くもない。手足で空を搔く飛び方がいかにも不格好だし、酷く疲れる割に速度も出ないので、移動は歩くのに限る。私は人気のない場所で、ただごろんと宙に寝転がって、高い空を見るのが好きだ。

るるる
 レイラは微睡みの中で素晴らしいフレーズを思い付いた。忘れないよう即座にピアノに向かう。
 動物園のライオンは格子をじっと見つめ、トルコの神秘家はくるくる踊り、ある男は夜勤に出掛けてゆく。それぞれの一日の最後。午後十一時。
 透明な赤ちゃんは高い空の上で生まれるべきか迷っている。

亜古鐘彦
空を夢見た深海魚は、ひたすら真っ直ぐ浮上した。暗い世界がだんだんと眩しくなる姿に高揚する。「あれが空か」マーブル模様に光る天井を目指してスピードを上げるが、勢い余って空を突き破ってしまった。見上げると、まだ遥か遠くに青と白い泡。「あぁ。生まれ変わったら羽をつけてもらおう」

左右田こうだ
おそろしく重力が強い惑星の生き物たちが、たくさん集まって空中に飛び上がる遊びをしていた。地球でいえばハイジャンプだ。四角く切った餅のような体についた脚で思い切りり地面を蹴って一番になった勝者が飛んだ高さは1ミリの百分の1だった。その高さにまわりからいっせいに、どよめきがあがった。

亜古鐘彦
星が恋した花売りは、今日も道の端で控え目に花を売っている。慎ましい性格は商売には向かず、麻の着物は薄汚れるばかり。見かねた星は、空高くから花売りの籠へ飛び込み、花になった。「星が降ってきたのです」そう謳った星の花はたちまち評判に。星の花は、紫色の花弁に今も変わらぬ愛を湛えている。

亜古鐘彦
激高する母が睨む先には、びしょ濡れで突っ立った弟。「あんた傘どうしたの!」「無くした」さっきからこの問答が続いている。弟はよく傘を無くす。「お母さん見たんだからね」弟は雨の中困っているのを見ると、傘を差し出さずにはいられない。「あの猫ちゃん迎えに行ってきなさい!うちで飼います!」

硬井グミ
高級な寿司を「まわらない」と表現するのは、回転寿司が生み出したレトロニムだね。寿司は本来まわらない。そう笑っていたあの人はどこかにいってしまった。近くで蝉が鳴いている。いつもと何も変わらないこの蒸し暑い季節。「あなたのいない」と付け加えるのがさびしくて、私はどこにもいけずにいる。

伏見サマータイム
想い出ビール。初めて入った居酒屋で見かけた商品名に興味を持った。好奇心から一杯頼むと、薄青色の液体が出てきた。違うお酒じゃないかと匂いをかいだら、ビールの香りがした。一口飲むと、好きだった先輩にフラれた大学時代の想い出が鮮やかに蘇る。高い金を払った結果がこれかと、心底後悔した。

星日ト 奏
道端に落ちていた白い羽根。
携帯で写真に撮り待受画面に設定した。
ある日その白い羽根は消えていた。
すると戦場では高い高い空から、
いくつもの白い羽根が舞い降りて、
それを見ていた兵士達は静かに銃を置いた。
人の心に寄り添い離れ地から目覚めて天を仰ぐ。
平和の調べがそこにある。

7月1日

田原
アプリで出会った彼と二回目のデート。パンケーキを食べるのが下手な男の子。高身長で優しそうで私の推しと目がそっくり。居酒屋から出ると夏の夜風が二人にまとわりつく。彼を見上げる私。黙ってついていく私。断ったらもう貴方は会ってくれないんでしょ。良かった、次で告白しなくて。ばかみたい。

月兎葉音
夜空に架かるスクリーンに登場するアクター達。季節毎に変わるキャスト。メインの座を狙う、数えきれないほどの星々が散らす火花、今日も天高くに灯る。七夕。奪われることのない椅子から立ち上がる、ベガとアルタイル。一日だけの演目は『逢瀬』。雲や雨に邪魔されず観られそうね。君の瞳に星が瞬く。

けーちゃん
気がつくと、ものすごく遠くへ来てしまった。温かいような、懐かしいような…そんな気持ちが蘇る。
安心感に包まれた時、はっきりと高子は思い出した。「ここは昔、私が住んでいた場所だ。」
宇宙の片隅に小さな小さな光が見える。

Xからの投稿

7月4日

紫冬湖
夕飯に食べたいと唐突に言われ、仕事帰りに急いで買ってきた。エコバックのまま床に放置した食材。「今から帰る」のメール。午後六時。まだ炊けないご飯。ご機嫌斜めの小さい人が隣の部屋でぐずる声を無視して、お湯に浸した高野豆腐を繰り返し押し洗いする。早く戻れ、戻れと念じながら、泣きながら。

紫冬湖
重く閉ざされた窯の扉を開く。高温で焼成した空気の名残が漂う。まだ完全に冷めきらない空間で、棚板の上に鎮座する土物の器たち。どれ一つ同じ表情はない。色のむらも釉薬の垂れ方も十人十色な器たちが奏でる大合唱に、耳を澄ませる。釉薬に貫入が入る音が、まるで風鈴の見本市のように涼やかに鳴る。

紫冬湖
時速八十キロで父さんの車が高速道路を駆ける。地上の喧騒から隔離され、延々と続く無機質な壁。出口のない迷路を走り続けているようで、段々と不安になる。僕らはどこへ向かっているのだろう。前方に見えるのは、絵の具で描いたみたいな青い空とソフトクリームのような入道雲だけ。夏休みが始まった。

ゆき
夜の墓場で運動会をしている奴等がいる。そんな今噂の写真で万バズを狙い、山奥の墓地を訪ねた。…現実は酔っ払い達が酒盛りをしていただけ。落胆した私は最高潮の盛り上がりをみせる宴会を前にスマホを切った。
「俺も混ぜろ!」
こんな仲間の、ただのタヌキの飲み会動画なんかバズる訳が無いよな~。

長月ミキ
夏の照りつける太陽の下、2歳の娘と公園へ。蝉の声が暑さを助長する中、娘が僕に向かって両腕を伸ばす。
...よーし。
「たかいたかーい!」
両脇をしっかり支えて思い切り高く空へ持ち上げる。
「きゃー!」
笑い声が人気のない公園に響く。澄んだ青空と輝く太陽を背に娘の笑顔がこの世界に降り注ぐ。

久保田毒虫
父と母は仲が悪い。父は貧乏な家の出で、母は身分の高い名門出身。駆け落ち同然で結婚した。なのに人生はわからん。僕は彗星に聞いた。「幸せって何?」「難しいね。相手がいるより一人の方が幸せなこともあるしね」
不意に一匹の蝿が飛んできたので手で潰した。手のひらには、二匹の蝿が死んでいた。

7月3日

摂津いの
公園のベンチに座っていた。暑い中何もすることがなくて、太陽が照りつける場所で座り続ける。馬鹿なことだと分かっている。だけど、止められない。
なぜなら、時折誰かが飼っているらしいうさぎが遊びに来てくれるからだ。今日も飼い主の手から逃げてきたらしい。こちらへぴょんと自由な高さで跳ねる

摂津いの
道を歩く。目的もなく、歩いているものだから直線以外はどちらへ行こうか常に迷っている。
ふと気がつくとはじめて通った道に入っていた。後ろを振り向けば知らない景色ばかりだ。途端に不安が込み上げてきた。振り払うように空を見上げる。まだまだ高い太陽に安心し、帰り道を歩く。

久保田毒虫
この世は残酷だ。
ある日、空高くでお星様が光ってた。思わず話しかけた。「生きてるのが辛いよ」「力を抜け。人生はプラマイゼロなんだ。今自分以外の誰もが幸せそうに見えても、トータルでは皆同じになる。だから元気出しな」
この世は残酷だ。どうしようもない時に限って、必ず救われるのだから。

三津橋みつる
「あのアイドル、笑顔が作り物みたいなのよね」とブラウン管に白けていた妻が、今では「このコの表情管理が最高なのよ」と褒めちぎっている。髪色こそ違えど同じ顔に見えるぼくは度々ため息をつかれるが、二人とも最推しは盆と正月に会える喃語の天使だった。妻は「同担ね」と破顔した。

久保田毒虫
眠れない夜。お月様に相談した。「人生うまくいかなくてさ。僕はどうしたらいい?」「君は私に手が届くと思う?」「そんなの高くて無理だよ」「そう。誰しもできることとできないことがある。世の中全てが揃うことはない。手に入らないものばかり数えてないかい?」
僕は貴方を諦めるべきだろうか。

まつもとあきこ
やたらと顔のいい彼は、女子生徒の間をひらひらと泳いでいる魚のようだ。泳いでいないと死んでしまうのかもしれない。「鰹みたい」口から零れた言葉が教室に響いてしまい、私は慌てた。彼が私のほうを向く。「本当は貴女に溺れていたいんだよ」冗談だろうと思うのに、不覚にも心が高鳴ってしまった。

兎野しっぽ
確かに僕はいつもたくさんの人に囲まれていて、皆が僕を必要としてくれる。そのこと自体に不満はない。だけどときどき思うんだ。僕はいつも大勢といるのに、僕が安心して僕自身をさらけ出せる友人はひとりもいない。
高みにいる者が心を許せるのは、同じ高みにいるやつだけだ。そう思わないか?魔王。

天野 周
熱が高くて喜んだ。倦怠感や吐き気もある。ドラッグストアへ行き、ポカリやゼリーなどを籠に放り込む。帰ると急に尿意を催した。焦るが慌てない。購入したものに排尿して数秒後、赤い線が現れた。それをリボンで飾りケーキを並べ、愛する夫の帰りを待つ。明日は忙しくなるな。あ、診察券を探さなきゃ。

智月千恵実
木が影を落としたベンチが私の指定席。ツナと卵のサンドイッチを格子柄の紙袋から取り出す。外ランチ好きは、バンクーバーのグランビルアイランドで過ごした日々から始まった。澄んだ高い空からの風を感じながら食べたピザの味が懐かしい。
ふと「三つ子の魂百まで」という言葉が脳裏をよぎった。

織田なすけ
寂れた展望台が潜む高山の頂で、罪人は見上げる。火照った肌を冷たい風に撫でられつつ、夜に浮かぶ満天の星を求める。だが、血塗れの手はその輝きに決して届きはしないだろう。零れる涙が頬を赤くする。父親ではない男の汚れたスマホを鳴らし、千切れた耳に当てた。
「もしもし、お母さん、唯です――」

7月2日

春音優月
「綺麗に星が見えるんだ」
そう高くもない山なのに、あの日彼が言っていた通り、たくさんの星がきらめいている。
彼は、ここで私に何を伝えたかったのかな。
一緒に行こうと約束した彼が、私の隣にはもういない。
星空に彼の考えを聞いてみても、答えを教えてくれるはずはなかった。

泉ふく
昔、幼馴染と二人で、どちらの背のほうが高いかを比べて印をつけた大黒柱。そんな印も腰の位置。久々に戻った実家には、至る所に過去の記憶が染み付いていて、大人になったはずなのに、なんだか少し子供に戻ってしまう。妻と二人で、「懐かしいね」なんて言いながら、年季の入った大黒柱に印をつける。

すー
あたしだけじゃなくて、クラスみんながその子に憧れていた。可愛くて、勉強も出来て、優しくて、完璧な正に高嶺の花。でもそんなのあたしには関係ない。あたしだってその時が来れば。当時のあたしはそう思っていたはずだったのに。なんで今でも思っちゃうんだろう、あの子みたいになりたかったって。

楽霞
見下ろされるのは癪に障る。と言うと俺はむしろ見下ろされたいけどなぁと思わぬ言葉が返って来た。背の高い人間にも人知れぬ願いがあるものなのだ。
「座れば?」
「いい」
「溶けてるよ」
太陽に近い分オレのアイスの方が先に溶けるのかな?と言ったら見上げる瞳がまるくなって笑顔に溶けた。

楽霞
沢山の靴が落ちていた。片方だけや靴下も。靴の海に立つ人達は一様に高い所を見ていた。空しか見えない場所に何が?そこに立ってみた。ぱたと肩にスニーカーが降ってきた、まだ新しい。見上げると大木があった。「降りられないの。降りたくないの」「登れると思ったのに」葉擦れは人の声をしていた。

泥まんじゅう
巨匠が死の床につく。この頃は心拍が乱高下し、縁者を落胆させた。そんな中、日々病室に通う弟子が気づく。

ひと月後、告別式にて。
「遺作です」
そう言って弟子は一曲を奏でる。師の心拍数の一部から、一定のメロディが読み取れた。弟子はこれを拾い、曲を作った。フルートの音色が高く澄んでいた。

モサク
その集団の中で誰よりも早くペダルを漕いだのは褐色の肌を持つ青年だった。歓喜に沸く瞬間、私は彼の出身国名を記憶する。学生時代、暗記科目は苦手だったのだが。画面では、高揚して跳ねるチームメイトをサポートカーのシートベルトが受け止めている。妙に感心する深夜。だからスポーツは素晴らしい。

まつもとあきこ
ちょっと前まで私と同じくらいだったのに、高校生になって、ぐんと身長が伸びた君。視線の高さが変わって、もう、同じものを見ても、同じようには見えていないのだろう。これから、こういう差異が、きっと、どんどん大きくなるはずだ。それでも、君と一緒にいたい私は、手を繋いで、君の隣を歩く。

Shy-da(シャイダ)
「僕と付き合って下さい!」。7月の放課後、教室の前で告られた。私も知ってる男子だ。イケメンではないけど、心優しいと噂だった。でもなぜ? いま隣にいる彼は、理由についてこう囁く。「4月の転校初日に一目惚れ。当時は勇気が無く告れなかった」。高2の夏の告白から8年後の明日、私達は挙式する。

三日月月洞
その女は実に高慢な質であった。高慢なまま生き、高慢なまま、1人で死んだ。女は地獄に堕ちてなお高慢であったが、1つだけ生前と違った。鬼と結ばれたのだ。腹に子が宿りし頃、女は初めて、己が高慢を恥じた。が、当然閻魔は激怒する。女は桃にされ、その伴侶は島流しに。長い物語の始まりであった。

7月1日

安戸 染
沐浴を終え、電気をまとって眩しいほど真っ白になった包帯は、ゆっくりと川から上がり森に向かう。そこで色の実をポッケにたくさん詰めこむと、今夜の月となる向日葵と一緒に空へ登っていく。向日葵に花びら一枚を託された蝙蝠は、それを山の上の一番高いところに置く。ほら月下美人が咲きはじめたよ。

むーいちぞく
「あの星はなんであんなに青いんだろう?」高い山に登り、自然の音に耳を傾け、望遠鏡を覗き込む。その星はとても青く、丸かった。「きっとこの月なんかより水がたくさんあるんだろうね」
まだ見ぬ星に二人で妄想を膨らませながら語り合う。いつか宇宙飛行士になるその日まで。

むーいちぞく
高身長、高学歴、高収入。俗に言う3高とは無縁の私だが、初めて婚活パーティーへと参加した。案の定、誰にも相手にされずに一人寂しく会場をあとにした。帰りの電車、高嶺の花である女性がしつこく隣の席の男に話しかけられていた。私には何もない。それでも、自分を変えるため、勇気を振り絞った。

むーいちぞく
「ママ、なんでおほしさまはあんなにも高くにうかんでいるの?」3さいの娘が私にたずねた。今日は久々の帰省。いつもと違い田舎はよく星が見える。「いつも私たちを見守っているのよ」私は目に涙を浮かべそう言った。今日はあの日から四十九日。きっとお空で見守ってくれてるよね、パパ。

械冬弱虫
鼻高々だ、と親は言った。おれの何がえらいのか、分からなかった。いつも叱りつけるくせに、一方的に怒るくせに、世間一般でいうところの「良い学校」に受かったときだけ褒められた。あんた、空虚だな。何にもえらくなんかない。名前負けじゃねえか。名前に囚われて、あんたごとなくなれば良い。

高樫 何某
「最高の140字小説って、どんなだと思う?」
「どうしたの?」
「いやね、選考なんかしてると、たまにふと思うことがあるんだよ」
「ふ〜ん。どんななのかは分からないけど、どこにあるかなら分かるよ」
「えっ、どこ?」
「あれ?どこ行った?ん~、さっきまでは、確かに僕の頭の中にあったんだけど」

いちかわゆうた
歩み始めると、大きな山が目の前に現れた。
登るのは辛いが、下ると楽だなあと思っていたら、また山が現れた。
少しして「もう平坦な道だな」と思えば、高い山を登らないといけない。
なんてしんどい道なんだ。
すると、山がないのに山を登るほどしんどく感じることも。
これ、人生のお話です。

いちかわゆうた
今まで自分を低く見ていた。
低学歴、低収入な上、見た目もイケメンとは程遠く、文武はどちらともダメだった。
周りから「お前はいつか犯罪者になる」「努力しないバカ」と揶揄され続けてきた。
しかし、今は色々なことに挑戦し、自分を高めようとする自分がいる。過去の僕、今はもう大丈夫だよ。

泥まんじゅう
「高い」と私が言うと、
「ここお得っす」と不動産屋が返す。
私はうなる。「立地がなぁ」
「駅から五分す、 時間、計りましたよね」
相手も粘る。ならば強く言う。
「それ、アナタ達の速さででしょ」
「あ~」
天狗の不動産屋は、大きな翼をモジモジさせた。
「眺めは良いす」
「断崖の家はちょっと」

赤木青緑
ふらふら歩いていると、前方から「逃げなさい!」と聞こえた。驚いて前方をしっかり見ると、神がいた。神のいうことだから聞いた方がいいと思い、踵を返し走って逃げた。雨が降ってきたので庇のある煙草屋で雨宿りした。ふと、神などいるか?と訝った。神にしては声が高かった。あれは佐藤さんだった。

赤木青緑
目まぐるしい程の闇が渦巻いて、すべての光を吸収し、無を意識せざるを得ない。悲しくなって珈琲を飲む。薫り高い珈琲豆から挽いた闇色のこの珈琲はすべての光を吸収しているため、光の味がした。舌が痺れ、鼻に薫りが抜け、旨味がひろがった。闇のベールは剥がれ光が剥き出しになった。光って眩しい。

赤木青緑
海が高いところから落ちてきた。ぽっかり空に浮かんでいた海は急に重さを持ちゆっくりと流れた。コマ送りで連続する写真を見ているようだった。魚がぴちと跳ねた。その虹色の魚は折り畳んでいた羽をひらき海と空をシームレスに繋いだ。海を飛び空を泳いでいた。海と空の区別がなくなり青が広がった。

束田慧
『悪い子は高台に連れて行くよ』
この街で古くから、親が子を躾ける時に使われてきた文句だ。
高台には古びた屋敷があり、恐ろしい魔女が住んでいるのだという。
誰が見たとも分からないソレは、大人が作り出した幻想なのか。非存在証明は誰にも出来ない。
今日も高台の屋敷は不気味に佇んでいる。

束田慧
新幹線の建設が始まった。日々延びていく高架を見るのが日課だ。繋がったらどこまで行けるのかと胸が高鳴った。
数年後、日課が週課、月課となった頃。今日繋がると聞き、久々に現場へ赴いた。
反対側の歩道で高架を見上げる女性と目が合い、胸が高鳴る。
2人の心が繋がった、記念すべき瞬間だった。

束田慧
去年の夏から、庭に背の高い雑草が生えるようになった。刈っても刈っても異様に早く伸びるそれは、人の形をしているようで気味が悪い。
耐え切れなくなりコンクリートで埋めると、雑草は生えなくなり安堵していたが…今度は人型の染みができるようになった。
この下には、去年殺した母が埋まっている。

あしたてレナ
「高い」「高いね」「なんの話?」「クリスマスツリー」「本物のもみの木は高いよねって」「じゃあこれにしたら」「なにこれ」「クリスマスツリー」「手乗りサイズだね」「木製だよ」「木で作った木だ」「ふふ」「ドイツ製だよ」「どれどれ」「……高い」「……高いね」「大きさの話じゃなかったの?」

あしたてレナ
見つけた瞬間、眉根が寄った。人目を忍んで素早く片手を伸ばす。一度目と二度目は失敗だ。めいっぱい力を込めた三度目の爪先立ちで、ついに手にした恋愛小説。この書店は踏み台がなく、最上段は手を伸ばしてやっとの高さだ。誰かが代わりに取ってくれるなんて、この小説みたいなロマンスは起こらない。

あしたてレナ
「おばあちゃんの実家って小高なの、小髙なの?」招待客名簿と睨めっこしながら祖母と母に問う。「わがんね」「いいんじゃない、小高で。ねえ、ばあちゃん?」祖母が頷くので私は渋々、小高とメモをする。次に、夫となる彼に尋ねた。「ねえ、親族の紹介のとき妹夫婦はなんて呼ぶの。すどう?すとう?」

安戸 染
「高木!なぜ宿題を提出してこないのだ!」
『え、ちが』
「違わない!提出していないのは事実だ!」
『えっ、あの』
「あのじゃない!言い訳するな!先生は情けないぞ!いいか?先生は怒っているんじゃない!高木のためを思って言ってるんだ!」
『あの、先生、たぶん、違うんですけど、僕、山本です』

nobiinu
こんなに高かったのか。知らないビルの屋上。今も学校ではコソコソヒソヒソはたぶん自分の噂、落ち着きのない友達だった人、青白い顔の先生。去年の今頃ここから飛び降りてやった。魂だけになってもまだ恨み足りない。死んだら終わりだと思っていたのに。飛び降りるのは今日も後悔一杯の言葉だけ。

あいぴー
夏休みと言えば海ですよね。夏休みには海に行く人達の率がとても高いですよね。みなさんは夜の海はどんな感じだと思いますか?夜は妖達が海で遊んでいます。朝になったら人とバトンタッチです。一部の人達には妖達の姿は見えませんが近くに住んでいる人達は妖が見えるので海のバトンとよばれています。

非常口ドット
「近頃は値上げ値上げでこっちが音を上げてしまうわ。」
「そうやな。国の対策もほぼ効果ないみたいやし、何でも高価になって困るわ。」
「うちのケーキも値下げせな買わん言うてくる人もおるけど、そんなんこっちから願い下げや。」
「景気の悪い話ばっかしやな。」

……最近のママごとはスゲェな。

非常口ドット
黄金色に輝く飴玉を老人が狙っている。飴玉はいつも弧を描いて高く飛ぶのだけれど、動きが早すぎて狙いを定められない。「今日も食べられなかった。」老人が肩を落とす。しかし彼はすぐに微笑みを浮かべて「まあ三百年でも四百年でも気長に待つとするさ。だって前も食べられたんだもの。」と呟いた。

三日月月洞
天道神社に掲げられた石楠花の高花の奥にある空が、斜陽と花との境目が曖昧になってゆくが如く石楠花色に黄昏れ始め、私は、ふと、幼い頃好いていた唱歌の歌詞を思い出した。花と空との境が朧気になった世界で、私は貴方を待っている。今夜の別れは、恋と友情を曖昧にした私達への罰なのかもしれない。

三日月月洞
梅雨雷が空に走り、足を滑らせた獣の子が地に落ちてきた。雷獣だ。何処となく狼の子に似ている。さて、そうなると困るのは御山を守る高龗神様である。神々しき竜の鱗を震わせ「泣くな泣くな」と子をお慰めになるのだが、母求む子は、耳を垂らして泣くばかり。迷子の涙雨に鱗の傘差し、神は霖雨を憂う。

ナゾリ
「ほら、高い高〜いっ!」

会う度にいつも僕を抱き上げてくる叔父さん。それを僕が嫌がったら……

「いいじゃないか。叔父さんなんか、生まれてすぐお父さんが他界他界しちゃったから、こうして『高い高い』してもらえたことなんか一度もなかったからね。ハハッ」

……子どもながらに笑えなかった。

ナゾリ
「久々に帰ってきたと思ったら、しばらく見ないうちに随分と顔が変わったね」
「どう? 自分の娘がこんなにも美人になって、お母さんも鼻が高いでしょ」
「もはや別人すぎて、自分の子に思えないよ。アンタそれ、いくらかかったの?」
「え〜っと、鼻だけで五十万くらいかな?」
「そりゃ鼻が高いわ」

ナゾリ
「毎日毎日勉強もせず夜空ばっかり見上げて……飽きないの?」
「飽きるもんか。だって、せっかく誕生日プレゼントに買ってもらった望遠鏡なんだもん。それにこれだって必要な勉強なんだ。いつか宇宙に行って、もっと近くで星を見るためにね!」
「随分立派な夢じゃない。でも今の成績じゃ、高望みね」

いちかわゆうた
本当はパソコンの専門学校に行くはずだった僕は、弟の私立高校進学で 、その夢を諦めて定時制高校へ進学した。
「本当はゲームを作りたかったのに」と思いながら、農業の勉強等を学んだ。
それから数十年後、高校の同級生の紹介で働いた職場を通じて知り合った人の元で少しずつパソコンを学んでいる。

非常口ドット
「またいずれ勉強がしたくなるよ。」高校を退学する時に先生に言われた言葉だ。
そんな訳あるかと、あってたまるかと意地を張り続けて早十五年。
こんな俺でも父になった。
「お父さんこの問題どうやるの?」
「どれどれ。」
このやり取りをできるだけ長く続けたくて再び高校に行くことを決めた。

安戸 染
なんでこんなにくらいのか、あのでんきをおねがい、ここでなにを、ごめん、ろーぷをはなしてはだめ、ねむいからいえにかえるだめか、ごはん、くるしい
デスゾーン。酸素ボンベ無しで標高八千米地帯に留まると低酸素症により意識の混濁や脳浮腫、肺水腫などの様々な重篤な障害が現れ、やがて死に至る。

泉ふく
高度百キロメートルを境に、空は宇宙になるそうだ。縦にすれば遠くみえるけど、横にすれば、さほど離れていない。僕と彼女の距離もそのくらいで、同じクラスメイトだし、会話ぐらいはすることもある。だけど僕は軽音部のボーカルで、彼女は世界で活躍する歌手。今の僕と彼女は、宇宙までの距離がある。

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