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春の星々(140字小説コンテスト第4期)応募作 part6

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

春の文字 「明」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

「春の星々」の応募期間は4月30日をもって終了しました!
(part1~のリンクも文末にありますので、作品の未掲載などがありましたらお知らせください)

年間グランプリ受賞者は「星々の新人」として雑誌『星々』に毎号作品を掲載。

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。


応募作(4月29日〜30日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

4月30日

ごとーつばさ @WDtuAagXqqXSIO8
さあ早くこれを読んで!
君が抱えている気持ちは君だけのもの大切なものだから
誰かにとやかく言われる筋合いはない!
迷うこともたくさんあるだろうけど大丈夫。
選んだ結果が明るい未来ではなくても、きっと選ばなかったことより後悔は少ないはずだ。
自分を信じて明日への一歩を踏み出すんだ!

tomodai @phototomop
秋になったら親元を離れなくてはならない。独り立ちするための術を父と母から受け継いできたけれど、僕はまだまだ子どもだ。ぬくぬくと守られて暮らしていきたいとずうっと願ってきた。だが、そうも言ってられない。月明かりの宴が終わり夜が明ける。ありがとう、父さん母さん。僕は立派な狸になるよ。

あやこあにぃ @ayako_annie
太陽が月に恋をした。月も太陽を愛していた。しかしふたりは一緒にいられない。大地に朝と夜を巡らせるため、永遠に追いかけっこをする運命にあった。
互いを思いつつも健気に役目を果たす彼らを哀れに思った神様、ある漢字を作った。そこで彼らは逢瀬を果たす。光に満ちた「明」という一文字の中で。

kikko @38kikko6
家に棲む明治の女学生の幽霊によると、気になる人がいたらハンカチを落として拾わせ、お礼にお茶に誘い、文通に持ち込むらしい。私は令和の高校生だからそんな遠回しな告白はしない。レトロな便箋を買い筆をとり、力強く「好きです!」と書く。好きな人と私の流儀、妥協点は、ラブレターの姿をしてる。

いまえだななこ @na2na1ko6
眉間を寄せて腕組みする。両手は汗を握っている。
今日同じ高校にあがった幼馴染が桜の下で僕に微笑みかけただけ。なのに家に着いた後も胸の16ビートが止んでくれない。落ち着くんだ。いつものアイツじゃないか。僕は目を閉じて、実はわかりきっているこの鼓動の原因を究明しようとしている。

浅葱佑 @telra12
言葉と話には語るに相応しい時刻がある。眠れぬ夜に唐突にその人が語る物語が、私には何よりの贅沢だった。けれども、その人が物語の続きを誰よりも切望していることは知らなかった。夜明けの静寂に洗われ彼の存在を忘れた町で私は、美しくも呪われた物語の裏表紙になりたいと願い始めている。

浅葱佑 @telra12
桜の写真を撮ろうとスマホを向けたら、「読み取りが成功しました」とURLが表示された。やさぐれていた私は何の気なしにURLを押した。……どうしてこんな話をしているのかって? そう、一期一会なんて言い方は方便に過ぎなくて、実際そう表されるほとんどは巻き込まれたに過ぎない、ってことの証明。

あまがたかおる(サイトからの投稿)
転校生は無口で大人しく、クラスに打ち解ける気配はなかった。が、三日目の朝、笑顔で教室に入ってきて、おはよう!と元気に挨拶をした。聞けば、新しい家から脱走してしまった飼い猫の明が、無事に帰ってきたのだという。その日の帰り、早速彼の家に遊びに行ったが、明は押入に隠れて出てこなかった。

雷田万 @light_10_10000
明けの明星が仕事に取り掛かる。先行して空に昇り、太陽を先導する。太陽は明星を追いかけるように地平から顔を出し、空に昇って地を照らす。
朝の光を思わず拝む人もいれば、1日の始まりに絶望を覚える人もいる。
けれど、明けない夜はない。今を生きるいかなる人にも、等しく暖かな光は降り注ぐ。

緑絵(サイトからの投稿)
ビル群の先、微かに見える東京湾の上空が、次第に白んできたような気がする。どうやらじきに夜が明けるようだ。今日何本目か分からない煙草を吸いながらその景色を眺める。隣の部屋から、後輩のいびきが聞こえてくる。時代錯誤の働き方だとは理解しつつ、こういう瞬間に生きていることを感じてしまう。

(サイトからの投稿)
ある日私は魔法の地に足を踏み入れた。すると彼らがシャラシャラと轟音を響かせたので「今年もよろしく」と挨拶をした。親と子供達が集まる。そして「始めるぞ!」と手を挙げた瞬間、彼らは四方八方に吹き飛んだ。驚嘆して明るく笑う人達を見逃さず、私はシャッターを押す。無数の桃色に囲まれながら。

谷森 研雨(サイトからの投稿)
明治生まれの曽祖父の部屋にあった磨き上げられたナイトスタンドは、ステンドグラスのシェードが大層おしゃれなもので、引きすぎて変色したプルスイッチが私の憧れだった。凝り性で綺麗好きだった曽祖父の手付きを思い出しながら、私は明日に備えるために真鍮の紐を引っ張って灯りを消した。

祥寺真帆 @lily_aoi
書いた手紙は宛先不明で戻ってきた。宛名を確認する。こんな名前の友達いたっけ。封を開ける。こんなこと書いたっけ。透明人間ごっこを思い出す。「私」が曖昧になっていく感じ。玄関の呼び鈴が鳴る。ヘルパーさんだ。「調子はどうですか?」「いいですよ!」手紙のことは言わない方がいい気がした。

kikko @38kikko6
夜空が明るい気がして自席を立ち窓に近づくと、流れ星が光った。ここ最近ニュースを見る余裕もなかったが、流星群の日だと思い出した。昔天文学部だった。一人きりの深夜残業で痺れた脳では願い事も思いつかず、ただ死にたいと思った。光を見上げながら口を開くと、「いきたい」と出て、びっくりした。

祥寺真帆 @lily_aoi
明るい人を私は信じていない。攻撃は最大の防御であるように彼らは影を持っている。なぜなら私がそうだからだ。「明るい人だね」と言われる人の明るさは、誰かを励ますためかもしれないし影に飲み込まれないためかもない。影は繊細でときどき脆さが現れる。明るい人同士はそれを見て見ぬふりしている。

祥寺真帆 @lily_aoi
「明るい色を着てください」女教師の最後は涙声だった。私たちは生まれてから黒以外を着たことがなく戸惑った。その後、足元からひっくり返るように世の中が変わった。物事がわかる歳になったころ彼女の訃報が届いた。明るい色を着て遺影に手を合わせる。「時代が違ったら」と涙声が聞こえた気がした。

月野ひろこ(サイトからの投稿)
「ナオくん、炊けたよ」。炊飯器が無機質な電子音ではなく、明るい声でそう告げる。あなたは新婚早々に夭逝してしまった。その後、転生を果たし、今は炊飯器の姿をしている。前世から家庭的だったあなたらしいけれど、俺はご飯の湯気の向こうに、また探してしまう。人間だった頃のあなたの輪郭を。

R(サイトからの投稿)
目に光が全くないことを除けば、彼は美しかった。私たちはよく、ラムネで頬を冷やしながら海辺を歩いた。私は、透明な朝日が彼の首筋を通るのを飽きもせず見つめた。虹色のカニが出てきても、黄金の夕焼けを瞳に受けても、彼の目はずっと暗かった。そして彼は突然消えてしまった。多分目の中に。

柊鳩子 @yorunohituzi
「名前の中に明日があるんだね」そう言って、あの人は眠る前はいつも名前を呼んでくれた。
私はそのやさしい声を聞きながら眠るのが好きだったし、明日が来るのがたのしみだった。
でも、もうあのやさしい声は聞こえない。
 明日なんて来なくていいと、自分の名前を長い夜で塗りつぶしている。

雷田万 @light_10_10000
クラスメイトの明るいあの子は、いつもみんなに笑顔を振りまく。純真無垢な笑顔にみんな虜になる。そんな彼女が、羨ましかった。
ある日、あの子の笑顔がいつもと違う気がした。声も努めて明るくしているような。
「何かあった?」
声をかけた途端、あの子は俯いて顔を覆い体を震わせ泣きじゃくった。

すみれ @sumire_sosaku
ラメの入ったピンクのネイルを爪に塗る。いつもはサボりがちなヘアケアも頑張った。着る服装ももう決まっている。デート前日の私はいつもソワソワして落ち着かない。明日彼氏と逢えることが少し現実味のないように感じる。あと忘れたことはないだろうか。鏡の前で顔のパックをしている私が首を傾げた。

裕登 @yuukotou
暗い中で時が過ぎるのを待つ。
彼が帰ってくるまで明かりはいらない。
これからすることに邪魔。
私を苦しめている彼に想いを知らせる。
今日こそ決行。
彼が帰宅し電気を点けたら…
狙いを定め、手に持ったクラッカー。
テーブルには精一杯頑張った手作りケーキ。
今夜こそ大好きな彼を一人占めする。

ハセ @zoooo0617
私が最後に恋をしたのは教育実習生の貴方だった。彼との時間はいつも予測不可能で、いつしか貴方の全てが知りたいと思った。

俺が最後に愛したのは生徒の君だった。彼女との毎日は実に面白く、気付けば君の全てが欲しいと感じた。

ーー鳴り響く銃声で、ともに歩む明日は二度と訪れないと悟りながら。

空見しお @Shio_Uthumi
夜どおし降りそぼった雨が、白い花びらをすっかり濡らしてしまったものだから、一輪のサンカヨウはうきうきしていました。雨露で透きとおるドレスは、彼女のお気に入り。いっとう美しい姿で踊りましょうよ。ひとりぽっちのワルツ。明けそめの光だけが、やわらかく、彼女を包んでいました。

kikko @38kikko6
黒魔術に手を染めた母は妙に明るくなった。疲れと肩こりが消え、前向きになり、一切怒らなくなり、体重は半減した。隣人の死体を庭に埋めつつ「人間って重いわ!私、軽くなったから介護する時楽でしょ。黒魔術に感謝」と笑うので、黒魔術士って介護されるんだ、と言ったら激怒された。少し嬉しかった。

すみれ @sumire_sosaku
黄昏の空が好き。昔はよく学校の帰り道に河原を歩きながら空の色を楽しんでいた。夕焼けの空ではない。何もかも燃やし尽くすような真っ赤な夕日ではなく、上から紺色、ピンクを経て黄色に変わるグラデーション。地元から遠く離れた夜との狭間の空を見上げると、沈みかけの三日月が明るく輝いていた。

R(サイトからの投稿)
眠る。夜の底に溺れながら、私はひたすら眠る。割れたグラス、腐った思い出、モノクロのピース、昨日の死まで、全部抱いて深く眠る。時々宙に浮いて闇に拉され、戻ってきてまた眠る。私はこのまま、夜の世界に落ちていこう。やがて光が、窓際に明るい朝を湛え始めても。

佐々木佑輔(サイトからの投稿)
団地のコンクリート壁をナメクジが這っている。夜の中、ただそこにいるだけで目立ってしまうほぼ真円の月明かりが、その湿気た背中を撥ねて拡散する。粉々になった光は、薄く曇った眼鏡越しにフレアを飛ばす。私は何一つ自分の肉眼それだけで、このたぶん美しいはずの世界を味わうことが出来ないのだ。

すみれ @sumire_sosaku
今まで一度も髪を染めたことはないけれど、染めるのだとしたら陽の光に当たった時の色が良い。光を閉じ込めたその色は、どんなに暗いところにいたとしても太陽の明るさを思い出させてくれると思うから。長い黒髪が風に吹かれてさらりと舞い上がる。残業終わりの夜に溶け込んでしまうような漆黒の髪が。

石森みさお @330_ishimori
天体観測で知り合った六等星は気弱な性格で、よく部屋の隅で蹲っていた。「ごめん、私、明るくなくて。願いも叶えられなくて」他人の勝手な願い事で潰れそうな星をなでると、熱くも冷たくもない、人と同じ位の温もりがふるえていた。一等星だったら眩しすぎて僕は傍にいられないよ、それではだめかな。

佐々木佑輔(サイトからの投稿)
僕だけの道に、街灯の数は不釣り合いに思えた。ちかちかと点滅する、切れかけた明かりの下で立ち止まり俯く。太陽みたいな人だと、別れ際あなたは言ってくれた。どこにいてもよく見える、光の当たる人という意味らしかった。その光が、僕の太陽がまさしくあなたなんだよ。ぼそり呟き、また歩き出した。

佐和桜介(サイトからの投稿)
彼の望みが叶うと同時に私の願いは届かなくなった
彼は死にたくて、私は彼に生きていて欲しかったのだ
一度だけ「生きていて」と伝えたことがある
彼は俯いて「それはエゴだよ」と小さく言った
それ以降私は彼に願いを伝えなかった
いま幸せなのかな
長い夜は明けたのかな
それすらもう聞けない

藍沢 空 @sky_indigoblau
「月の明るさくらいがちょうど良い」と、君は言う。何処にも行けない日々の中で、窓から差す陽は強すぎて眼が眩むのだと。布団の上に置かれた手は重く浮腫んでいた。怠そうに寝返りを打つ君の手を擦ると、思いきり振り払われてしまった。眼を閉じて歯を食い縛る…それでも1日でも長く側にいたいんだ。

浮雲 @ukigu_m0
息を吐きまだ白いことに気がついて、手袋がないのでポケットに手を入れる。曇っていても明るい朝を見上げると、空も白く広がっていて、どこまで行っても続くような気がした。私は猫背になってまた歩き出す。速度は少しずつ速くなり、焦る気持ちを抑えるように自分の足を見た。先週まで地面も白かった。

れん(サイトからの投稿)
「明るい奴だったから」これを合図に俺達は喪服を緩めて酒をがぶ飲みしバカ騒ぎを始めた。奴の停学坊主事件や失恋話で笑った。笑いながらみんなで泣いた。止まらない涙が海となり俺達を飲み込んだ。もがきながら水面から顔を出して離れた砂地を見ると、体育座りしてる学ランの奴が煙草を吸っていた。

きさらぎみやび @KisaragiMiyabi1
月の光も淡く滲むこんな夜は、そぞろ歩きをしたくなる。朧月夜の明るさは、世捨て人には丁度良い。ぺた、ぺた、と踵を履き潰した靴音が人気のない路地に静かに染み渡る。頬を撫でて通り過ぎてゆく微温い風の音は、あの時の君の笑い声になんだか良く似ている。今夜は久しぶりに深く眠れそうな気がした。

温水空 @soranukumizu
空は煙で曇り、緑は灰になって辺りに漂っている。
焦げた空気を肺に流し込みながら、僕は砂しかない世界を彷徨っていた。
その時、瓶に入った紙切れを見つけた。
「わたしたちに明日をください」
小さな子供の字で書かれた文字を見て、僕はしゃがみ込み嗚咽した。
——時間はもう、戻らない。

友川創希(サイトからの投稿)
私の娘は嘘を付くのがうまい。いい年した俺でもよく騙されてしまう。家に帰ると俺が楽しみにとっておいたショートケーキが冷蔵庫から消えていた。娘に聞いてみるとお友達が来たからあげてしまったという。それなら仕方ないかと思ったが、娘の口にはクリームがついている。これで娘の話が嘘かは明白だ。

荒川 馳夫(サイトからの投稿)
「パパとママ、いってきます」と明るい顔で学校に通い出した瞬間が、つい最近のように思えてしまう。月日は流れ、気付けば社会人の仲間入り。様々な気持ちや思い出を共有してきた両親のもとから旅立つ時がきた。皺が増え、衰えを感じさせる両親に私は感謝の気持ちを告げた。「今まで笑顔をありがとう」

荒川 馳夫(サイトからの投稿)
「今日も頑張るぞ」と自分に言い聞かせ、毎日の仕事に取り掛かる。遥か遠くから光を注ぐ、私の頑張りを見てくれる人は少ない。「私の明かりはもう必要ないのかな」と落ち込んでいると、スマホを持つ母と歩く幼子が一言。「おひさまさん、明るくしてくれてありがとう」その笑顔に私もニッコリ。

永津わか @nagatsu21_26
待ち合わせに指定されたのは十二番星の下。画面を見た僕の口は尖っていたと思う。あんなに暗いと見つけるのも難しいのに。試されているのか、乗り気じゃないとか。それでも梟の目を頼りに何とか明かりへ辿り着くと、君は眩しそうに雲を被っていた。僕たちはまだ、互いを知る楽しみを持っていたみたい。

永津わか @nagatsu21_26
ふが、と隣で息が漏れた。頭上にもっさり落ちた髪と大胆な寝相。情緒の欠片もない光景はおよそ真夜中の二人に相応しくない。お互い服を脱ぎ捨てたり肌を寄せたりしていないのだから雰囲気も何もないのに、思わず笑ってしまった。さて、与えられた猶予はあとどのくらいだろう。明けない夜はないらしい。

三理 理月(サイトからの投稿)
失ったもの大切さに気付くのはいつだって遅すぎるの。夏夜に自販機へ行くのが好きだったこと、無くなってしまう遊園地で思い出を作ったこと、夜更かしした明け方のキス。あなたはもう忘れてしまったかもしれないけど、私には宝物。ねえ神様、近くにいても会えないあの人と同じ星空が見れていますか?

アユミ アユム(サイトからの投稿)
帰宅ラッシュの東横線。マタニティーマークを付けたまま、私は優先席の前で立っていた。「ついてないな」と思っていると、突然、女子高生が「ごめんなさい!」と言って、私に席を譲ってくれた。妊婦に気付かなかったことを恥じる彼女の真摯さは、座席に座れたこと以上に私の心を明るくしてくれた。

山口絢子 @sorapoky
知ったら怒るだろうか。後ろの席から、君の明るい栗色の髪を見ているのが好きだった。輝きは季節や天気で変わり、秘かな楽しみだった。ある日、光が消えた。先生に言われ、黒く染めたのだそうだ。先日、青一面の花畑に一輪の白い花を見つけた。「そのままがいいよね。」君の言葉が、二十年ぶりに甦る。

御二兎レシロ @hakushi_tsutan
世には明けない夜もあると思う。つまり空に太陽がなくなってしまったなら、あとは明けない夜が続くばかりという訳だ。私はそんな夜に身を置くけれど、案外それはそれで酒が美味いものだ。それはそれで書が面白いものだ。……遺影の笑顔は今もずっと眩しいままだから、私の太陽は生涯あなた一人で良い。

河音直歩(サイトからの投稿)
せんせい。私の声に、教授は振り向く。息を呑む。ここはあの雨の夜と違う、紙のにおいばかりの研究室。骨ばった指、紺のネクタイ、首筋のほくろ。私は大きなセーターに身をくるみ、教科書を胸に抱え、今日は心臓の音を聴かせない。廊下からの賑やかな声が、ふっと消える。せんせい。蛍光灯が明滅する。

河音直歩(サイトからの投稿)
月明かりの下、私たちはまだ、道路に立ち尽くしている。泣き腫らした眼を、互いに合わせることもない。あそこに、大きな椿の頭がひとつ、潰れている。そばに咲いていたのが首から落ち、風に転がり、轢かれてしまった。もう、拾おうとも思わない。だって私たち自身が、恋を、紅く、踏み拉いたのだから。

河音直歩(サイトからの投稿)
小学校の帰り、友達と、立入禁止の空き地を探検する。遠くの隅で歪に膨らんでいる青いシートは、人骨を覆っていると聞く。じゃんけんに負け、震える膝をおさえてかがみ込む。穴。穴だ。明るい色の小さな花が、突き破るように伸びている。中は、土塊だった。これは、僕だけの秘密。僕だけの、勇敢の花。

三浦 理月(サイトからの投稿)
ここは?
病院で、あなたは一家放火殺人事件の被害者で、意識不明でした
他の方々は?
残念ながら...しかし、事件前に付近のカメラに不振な人が写っておりその人が犯人であることは明確です
明確な間違いをしています
えっ?
私がその人で、あなたが追うべきなのは本来ここにいるはずの人です

シーラ @sii_ra_ra
戦地に光はない。生命を隠し守るため、明かりを消して息を殺して。無言の夜の闇を綴った文字列は発光し、声高らかに叫び語る。争いの歴史を。当たり前ではない平和を。電灯の元、こうして本に目を落とす夜も当たり前ではないのだ。「……伝えていかなくては」本を閉じた私は大きくなったお腹を撫でた。

今村スイ @tsuduru_0716
寂しい、寂しくない、寂しい、寂しくない。心の中でそう呟きながら家路をたどる。隣を歩く幼なじみは、もうすぐ引っ越してしまう。私の知らない、遠い土地へ。だから、別れ際にはとびきり明るく笑ってみせた。手紙書くね。うん、約束だからね。指切りげんまんした彼女も、同じように笑顔を見せていた。

じゅーり @juurijurio
メイとアンは仲良しだ。メイは明、アンは暗、だがそれだけだと違う。メイは明だが辛子明太子からきてるし、アンは暗だが餡子(こし餡強め)からきている。ちゃんと知らないことは危険でメイに甘えて塩辛い思いをするやつもいるし、暗の甘さをこっそり知り、隠したままな人もいる。明暗が別れたりする。

平賀(サイトからの投稿)
貴方は「別れたい」とは言わないけれど、それが明ら様な態度に表れて私と共に過ごす様になったのを気づいていないのか知らん。
仮初の関係を結んだ貴方とこんな形で離別する事になるなんて。
どうかこの微かに漏れる息に込めた想いが届いてくれると好いわ。
「ありがとう拾ってくれて……」

音和奈々(サイトからの投稿)
新生活の始まりと共に、自分の疲弊した心に嘘をついた。香水を身に纏い、笑顔の仮面で自分を囲う。でも今の私にはその鎧はボロボロすぎて、守りきれていないのも自明で。そろそろ疲れてきちゃった。こんな弱音を聞いてくれる友人と過ごした日々。桜舞う車窓に映る、過去の自分に羨望の眼差しを向けた。

香久山ゆみ(サイトからの投稿)
いきおいよくカーテンを開ける。光で一瞬視界が真っ白になる。やっと終わったんだ。最後の一人に残ったのだ。窓外には田園風景が広がる。空が青い。数日間の閉鎖空間、じつはこんな平和な場所だった。命の獲りあいの中、麻痺していた心が戻る。明かりを得た部屋を振り返る。……僕は再び目を閉じた。

大蓮ケンジ(サイトからの投稿)
 フロントガラスに当たる雨粒が警告音のようであった。
「また明日」と電話で話している姿が彼女の最期だった。
 車を走らせていると赤色灯の光が目に入る。警官が停止の指示をした。アクセルを踏む。犯人だという声が轟く。俺達の邪魔はさせない。後部座席にいる彼女を一瞥し、愛の逃走劇は続く。

れん(サイトからの投稿)
夜が明けていく。月はまだ薄く浮かんでる。「この道でよく朝の月を見たよね」甘い風が腕に絡む。別れてからの時間が今を作っている。月に朝がゆっくり染みていく。「でもそろそろ…さようならね」甘い風は思い出の隙間を笑顔で吹き抜けていく。明日はどこかの教会でブーケを風に乗せて飛ばすらしい。

友川創希(サイトからの投稿)
僕は自分の学力よりもいくらか低めの高校に明日から入学する。運動もある程度できるし、同じ中学の人も結構いるので友達の心配もなさそうだ。でも、僕の心は空っぽ。だって明日、同じ中学でこの高校に一緒に入るずっと好きだった子に告白するから。この学校に入った一番の志望理由がそれだから。

MEGANE @MEGANE80418606
「最近は暗くていやね」祖母は縁側に座りながら唐突に言った。空を見ると太陽が元気に庭を照らしている。だから、天気のことじゃない。「明け星はいつ見えるかしら」祖母は認知症で、たまに話が通じない。私はそんな祖母も大好きだ。「暗くていやね」何度も繰り返す祖母の横顔を、隣で愛おしく眺める。

友川創希(サイトからの投稿)
去年まではここから夏祭りのときに花火が見えた。私もよく彼氏と一緒に見たものだ。でも、再開発が急に進みビルなどの建物が立ち並んだので、ここからはもう花火を見ることは出来ない。だけど、今年も私と彼はここから花火を見る。私の目には鮮明に映っている。だって彼が花火そのものみたいだから。

さちこ(サイトからの投稿)
太陽は人間の瞳孔だった。
太陽は穴であって、その穴から明るく眩しい光が入ってくる。
そして地球上の森羅万象を作り出す。
人間の瞳孔からは体内に光が入り、暗いと思われがちな体内は実は明るい。
明るさが豊富なほど活きの良い細胞が作られ眩しく健康なのだ。細胞は森羅万象という訳だ。

天城美和 @amashirobiwa
「ピクニックに行かない?」
そう言う前からサンドイッチを作り始めている君に
「いいね、明るいうちに行こうか」
以外の返事を返せるはずもなく。
わがままというか、自分勝手というか、そんな君が
「いかないで」
なんて泣きながらお願いする。珍しいこともあるもんだ。

返事を返せるはずもなく。

天城美和 @amashirobiwa
暗転。真っ暗闇に放り込まれるこの感覚はいつまで経っても慣れない。感じ取れるのはセンターマイクと隣の相方の呼吸だけ。こいつらは味方なのか、ライバルなのか、そんなことはどうでもいい。三位一体真っ向勝負待ったなし。4分間で笑いを変える、世界を変える、人生を変える。簡単な話。さあ、明転。

天城美和 @amashirobiwa
時刻は23時58分。明日の10時までに提出のエントリーシート。コロナの影響でオンラインになった大学生活で力を入れたことなんて高が知れている。考えるだけばかばかしい。ああもう日付が変わった。どうやら今日も明け方までパソコンと向かい合うらしい。就職活動が嫌いだ。何も無い自分がもっと嫌いだ。

腑抜け(サイトからの投稿)
暖かい光が部屋に入り込んで来る。もう朝かと重い体を起こし、スマホを見て驚愕した。5時半。日の出の時間がいつの間にか早くなっていた。珈琲を淹れて徐々に明るくなっていく空を見つめる。今日は家を少し早く出ようかな。支度を済ませて玄関を開けると、花粉が鼻をくすぐる。季節の移ろいを感じた。

大崎ミワ(サイトからの投稿)
闇の中で鳴り響く電子音。眠りから引き上げられるあの感覚。着信だと理解するまでに数秒、映し出された名前が、元恋人のものであると認識するまでに更に数秒。束の間の逡巡、画面は暗転し、相手が通話をキャンセルしたことがわかった。呼び覚まされた私と気持ちだけが、置いてきぼりの夜明け前。

三浦 理月(サイトからの投稿)
何かが弾けて壊れてしまった。私が私では無くなっちゃうかもしれない。本当だよ。私ってなんだろう、なんなんだろう。希望なんてみんなに与えられているわけじゃない。絶望の花が咲いている。それでも私は世界を生きていかなければいけない。明日はもっといい日になりますように。

川瀬千紗 @tsubuyakuneko
青い鳥を肩に乗せた老婆は、満月の夜、世にも美しい声で鳥を鳴かせるらしい。多くの人が「鳥の鳴き声を聞かせてくれ」と満月の夜にやってきたが、老婆は鳥を夜空に放ってしまった。みな我先にと鳥を追っていく。1人、月明かりに照らされた老婆は「人間は馬鹿な生き物だね」と世にも美しい声で言った。

繚光 @ryoukou07
「照明もうちょっと右です」
テーマパークのイルミネーションは閉園後に設置している。これを点灯させると傘が光るらしい。
「ここら辺か?」
先輩の声が響く。見渡すとある一点だけやたらと光っていた。
「先輩、ハゲが光ってます」
「スキンヘッドじゃボケぇ」
このやり取り。
春が終わるなぁ。

繚光 @ryoukou07
「あれがぱぱのいるところ?」
幼い娘が一番明るい星を指して言う。昼間の熱気が帰って行くように、さっぱりと肌寒い春の夜。あなたの誕生日は、あなたの好きな星を娘と見ることにしました。
「そうだよ」
娘は笑いながら小さな手を振った。私のぼやける視界の中で、あなたは娘を見ながら微笑んだ。

繚光 @ryoukou07
世界は綺麗になった。
一切の無駄を省き、全ての雑務はロボットが行う。私たちは仕事に専念することを義務づけられた。
「綺麗」
仕事帰り、明かりが点いたような草花を見て、私は思わず呟いた。手を伸ばしたその瞬間、清掃ロボが刈り取っていく。
目の端から何かが零れた。
世界は綺麗になった。

りみっと(サイトからの投稿)
夫の実家から義父が亡くなったと電話がかかってきた。この間、お見舞いに行った時は元気そうだったのに…

約1週間分の宿泊荷物と一緒に、星空の下、家族を乗せた車は夫の故郷へひた走る。

夜明けの空に、虹が掛かっていた。

「おじいちゃんが天国に行くところだね」

息子がつぶやいた。

佐和桜介(サイトからの投稿)
母さんが僕を市役所の人と言い出してから半年が経った
玄関には二重の鍵が付けられた
昔から明るい性格の母さんはあの頃と同じ笑顔で柔軟剤を茶碗に入れている
「なんねー、食べな大きくならんよ」
その言葉は覚えてるんだね
僕を忘れた母さん
僕だけの母さん
たった一人の
大好きな母さん

如月恵 @kisaragi14kei
明るい満月が藍色の夜空に昇り、カーテンの間から差し込んだ月光は暗い壁を四角く照らし、白い窓が開いたみたい。両手で影絵を作ってみます、狐、犬、鳥。夜に目覚めたうちの猫が鳥を狙います。月光の窓に猫が飛びかかり、鳥は逃げてしまいました。以来、私の手には影がありません、誰にも内緒です。

想田翠 @shitatamerusoda
今日と明日の継ぎ目に、自覚的にゆっくりと目を瞑る。夜明け前、ひんやりしたままの右側のシーツを己の手のひらで温めた。最低限の礼節さえ軽んじられる存在へ成り下がった事実に途方に暮れる。生活に重きを置けば、見て見ぬふりをするのが賢明だとわかりきっているが。目を瞑れない私の中には、まだ。

石森みさお @330_ishimori
小舟を漕いで沖へ出る。酔狂な、と揶揄する声をふりはらって目指すのは、本当なら鳥以外に誰も見るはずのなかった海。水平線に沈むだけの夕陽と、しずかに訪れるだけの夜明けと、誰のためでもなく続く営みの中、全てから解き放たれてひとりになったら、誰も見ることのない涙をそっと波間に流して帰る。

二郎丸 大 @JiromaruHiroshi
私の夫には大した才能がない。そう思っていた。仕事はあまり出来ないのだろう。給料はもう何年も変わっていない。なんで結婚したかと言えば私に無条件に優しかったから。待望の娘が産まれたが、この先不安しかない。夫ははしゃぐだけ。
「名前決めたよ!明るいの字、一文字でメイ」
この人でよかった。

眞谷実 城(サイトからの投稿)
空を見上げ、いちばん明るい星を定めてはそれがいつ輝いたものかを考える。いちばん明るい星の傍にあの子の写真をかざす。写真の中のあの子は僕を見て笑っている。こぼれ落ちる星々は僕の涙に姿を変えた。美しいな。星もあの子も。そうやって僕はいつまでも過去に縋るのだ。過去ほど美しいものはない。

きさらぎみやび @KisaragiMiyabi1
明日が来るのが嫌なので、月を壊すことにした。そうすれば「明」が使えなくなる。すると月の兎が慌てて止めてきた。「待って下さい。そうすると貴方の脚も腕も腰も胸も無くなってしまいますよ」「ううん、それは嫌だな」諦めた僕を見てほっとしたように兎が言う。「良かった、これで望みが残りました」

今村スイ @tsuduru_0716
文字という文字を失って、私たちは明滅する光で消息を知らせ合うようになった。光の色がそれぞれの目印だ。元気ですか。こちらは元気です。幸い、照明は残っているので不自由はない。問題といえば、夜、互いの光が見える時刻まで待たなければいけないことだけれど、と旧い時代を知っている人が呟いた。

リマウチ @rIMAUCHI0420
月の明かりが舞い降りる。私の仕事はそれを縫うこと。チクリチクリと明かりに針を通していく。だんだんそれがまとまって。形を為して。完成したらまた月に戻っていく。宙へぷかりぷかりと浮き上がって。まだまだ私は見習いだからたまに失敗しちゃう。それは宙ずりになって。皆が指差す。オーロラだと。

ikue.m @ikue_mini
明日の朝ごはん何にする?と聞かれるのは、今日の晩ごはん何にする?と聞かれるよりも選択肢が少なくストレスがない。なんでもいい、僕はそう答えたいのだけれど、そう答えると妻の機嫌がわるくなるから考える。今聞かれているのは朝ごはん。僕は自分のからだに聞く。奈良ホテルの茶粥。うん、却下ね。

tomodai @phototomop
埃っぽい部屋の片隅で明日をも知れぬ日々を過ごしていた。そんな私を明るい光の下に連れ出したのは小さな女の子だった。「ママ、お姫様とってもきれい」「あらほんと。素敵な絵本ね」。小さな古本屋で余生を静かに過ごすはずだった私が新たな道を歩み出す。幼い手が私を温かく包み込んでいる。

yellow @superdropshot
明烏。
彼は私の身体をぎゅうぎゅうと抱き締める。
このまま離れないでいれたら良いのに。
無情にもアラームがなっていてそれは叶わないのだ。
明かりは枕元のスイッチで付ける、密閉された部屋。
そんな部屋で身体を重ねた名残を惜しむように無言で抱き締め合う。
朝は二人を離す。
世は明けた。

はぼちゆり @habochiyuri0202
「ただいま」玄関を開けると草原が広がっていた。「おかえり」ポツンと置かれたベンチに、女性が一人。「た、ただいま」「それ、いつも言ってるよね。一人なのに」「あ、うん。明るくなるかな、って」「そっか」彼女はクスクスと笑った。それから二人、ベンチに腰掛け、そよ風と共に他愛ない話をした。

群青さな(サイトからの投稿)
・・・何やってんだろ・・・。
溢れてきそうな涙を堪えるようにふと顔を上げると、茶色い傘を被った白熱球の下、二つ並んだブランコが遊びたそうにこっちの方を見ていた。ブランコの下には手袋の片方だけがひっそりと落ちていた。その手袋は明らかに温もりを求めていた。

此糸桜樺 @Konoito_Ouka
今日は最悪の日だ。数年に一度レベルの悪い日だ。思い出すだけで気分が悪くなるし、すぐにでも忘れてしまいたい。だから決めた。今日はふて寝するんだ。今日の仕事は全部放り投げて、家に帰って寝るんだ。積み上がったTo Do Listは、明日の私に丸投げしよう。
元気になった、明日の私に期待して。

進藤路夢 @gunxyagunxa
明日が次の日だろ?
明後日が二日後。
なのに、その次が
しあさってになるの?
三日後だよな。
みあさってじゃない?
で、その次が
ごあさって
になるけど。
四日後だよな?
やっぱ、納得できないわ。
うん? お前はややこしい。
そんなこと無いよ。
心の底から、明日は希望に溢れてると信じてるぜ。

よつ葉 @Kleeblatt3939
その子は綺麗な字を書いた。その整った字を眺めていたら、次第に鉛筆を持つ指先に、髪を耳にかける仕草に、友達と笑い合う姿に惹かれていった。彼女が明日の日直をチョークで黒板に書く。「明っていい名前だね。私、この字が一番好き」僕にそう言った彼女の笑顔は、この世の何よりも明るく輝いていた。

タケイチ @TAKEiCHi140
雨が降っていた。空はうっすら墨色で、もうすぐ夜は明けそうだけれど、まだ朝ではない。そのあいだの時間、その空白の時間に、君は酒を呑んだくれていた。だから何も覚えていなかった。私が迎えに来たことも、口吻を交わしたことも。でも私は覚えている。アルコールの匂いとともに、君が発した言葉も。

すーこ(サイトからの投稿)
同級生をかばった陽葵がはぶられて3ヶ月。向日葵のような彼女から明るさが消え、そろそろ進級が危ぶまれる。私は手紙を送るのが精一杯だった。電話が鳴る。「ごめん葉月。私転校する。でも、この手紙の束は宝物だから。ありがとう」やっと前に進めたんだね。「私こそ助けられなくてごめん。元気でね」

吉村うにうに(サイトからの投稿)
「麻酔科、輸血!」緑の幕の向こうで執刀医は青ざめている。幕のこちら側で安らかな寝顔を見せる患者は、向こう側で鮮血を噴き出している。未熟な手術は終わらず、血圧は下がり続ける。昨日歩いて来た患者は、明日裏口から出て行くだろう。麻酔医はため息をついて、最後に一つ赤いバッグを取り出した。

すーこ(サイトからの投稿)
「明朝決行。備えて待て」練りに練った計画が、決行の日を迎える。明朝。手荷物を携えた集団が目的地に集まる。「皆の者、かかれ」一斉に懐中電灯が2階の窓を照らす。「なんだねこれは」「おはようございます社長。明かり作戦です。今日は遅刻していただくわけには」「日光浴が日課なのに、興醒めだ」

すーこ(サイトからの投稿)
月明かりに照らされた、道なき道を行く。独り暮らしのお客様にお薬を届けに。駅から3時間。お客様はご無事だろうか。歩みを速める。明かりだ。あの家だ。「遠くまでありがとうねえ」「いえいえ、お待たせしました」「あの人と暮らした家で過ごせるのもあなたのおかげよ、さあ上がって。今日はお鍋よ」

のあ(サイトからの投稿)
大学進学に伴い4月から一人暮らしを始めました。今日はサークルの先輩達とカラオケオール。人生初の朝帰りです。ママには絶対に言えません。午前5時半、だんだんと明るみ始めた空。まだ眠っている街はどこか冷たくて、寝不足で重たい身体を引き摺る私を、なんだか責めているような気がするのでした。

クロエ(サイトからの投稿)
夜明けは必ずくる、深夜3時眠れずいる人間によく言ったもんだ。
慢性的な不眠症もう10年だもはや慣れているさ。幼少期夜明けはくるという言葉に励まされたが今となっては響かない。
嫌でも日は昇る、当たり前だ。
でも私にとって今この瞬間に寄り添ってほしいのだ、とまだ真夜中を彷徨い続ける。

神崎 鈴菜 @suzu_nasuzusiro
引力が涙の痕を置き去りにする。大気圏との狭間に流れ落ちる星が託されたのは、満天の星空を観たいという願い。叶えなければいけないのに、今にも燃え尽きてしまいそうで。「僕に任せて」願いを引き継いだ彗星が夜空を駆け、星々に光を灯す星火リレー。どうか最後は、明るい笑顔へと繋がりますように。

クロエ(サイトからの投稿)
今日はワインレッドのネイル。
意外と豪快に笑って、その度に前髪がふわふわする。
特徴的な黒髪ボブ、どこにいたって目に入る。
人がいないとターンしたり独り言は割と大きく誰かと居るのではと勘違いしてしまう、少し変なところ。
遠くからでも声は届く。
そうだ、明らかに僕は君に恋をしている

六助(サイトからの投稿)
右肩に漢字の「明」とタトゥーを彫った。
家を建てるみたいに立地やデザインを考えて。
分かってもらうつもりはない。生まれ育った環境を抜け出して、自由奔放に生活を築くことは田舎の人には理解してもらえないだろう。
しかし私はここで生きていく。どんな地震にも耐え抜く地盤が私にはある。

瓦寝清(サイトからの投稿)
昨日とは違うのも、成長と呼ぶのだろうか。出番を間違えた乳首をいそいそとしまう。パパが買ってきたお寿司、きみも食べたかったよね。それとも、怖い夢でも見ているのかな。垂れた涙まで温かい。もっといい母親なら、夜泣きなんて。それでも、願わずにはいられないのである。明るい、明るい未来を。

井ノ口人 @matamarukuma
秋。「大切にすれば毎年咲くのよ」妻に教わりながら、私は球根を植えた。
冬の寒さから守り、迎えた春。美しい花が幾重にも開いた。「私のお葬式に飾ってね」妻は微笑んだ。
夏。妻の去った庭で植木鉢の土は乾いている。「秋には新芽がでるから肥料をあげてね」ふと、妻の明るい声が聞こえた気がした。

ささや @sasayakana11
陽が空にいない時間帯。しんと静まり返った部屋の中。耳の中にイヤホンを突っ込んで、延々と音楽を聴きながら本を読む時間は格別だ。それに――
「綺麗だなぁ」この時間は窓から明けの明星を見る事ができる。星よりも強く輝くこの惑星を見ると、得したような気分になれる。早起きは三文の徳って本当だ。

4月29日

三上優介 @mikami_yuusuke
学校
「先生!この証明問題が分からないんですけど」
「あっ!なるほど!出来ました!ありがとうございます!」
QED


「浮気してないっていうなら証明してみせてよ!!」
彼女以外の若い女とキスをしている写真=浮気である
QED

三上優介 @mikami_yuusuke
犯人は明白なはずなのに、なぜ捕まらないのか。昨日中古屋で買った安っぽい探偵ドラマを観ながら思った。ドラマの中で犯人の肩はずっと赤い血が滲んでいるのに誰も最後まで指摘しない。「やっぱりな」「なんで?」「だって…」ああ、そういうことか。隣に座る彼女の肩を見て、言うのをやめた。

たぬき @tanuki04510
映画館に招待されたんだと僕は横たわりながら話す。チケットは上映時間の印字だけ、内装はベストな位置に席がひとつ。暗くなりスクリーンに映る君に切なさが溢れてきてさ。エンドロールが終わると照明がつくだろう、その光が眩しくて瞼を閉じた。そっと開いたら意識が戻った僕を見て君が泣いてたんだ。

れん(サイトからの投稿)
線香を握り山の中腹にある墓の前に立つ。火をつけ手を合わせてから、ガキの頃から遊んでいた幼なじみと山々を見渡す。「お前のせいで俺は独身なんだ」と思い切って言うと、「なるほどね」って微笑んだ。山を下り国道から見上げると、青空と雲の間で、あいつは大きく手を振りながら透明になっていく。

ぬい(サイトからの投稿)
人間でいるのが嫌になると、木になり風を浴びた。雨になり身を削った。空気に溶けて無限に広がって、ふいに砂のように小さく固まった。
誰も僕が人間だと気づかなかったのに、星だけが仄明るく僕を照らしていた。星が綺麗だというやつは皆嘘つきだ。星は夜空に埋め込まれた、人を監視する無数の目だ。

本田臨 @ayakobooklog
深夜の交差点、赤く明滅する信号機を見て、車を止めた。チャイルドシートが空席のまま家を出るのはどのくらいぶりだろうか。けれど、行き着く先は結局どんなに遠回りしたところで、娘の眠る家なのだった。夫へのささやかな願いを、「くだらない」と切り捨てられて、泣いて家を飛び出したこんな夜でも。

本田臨 @ayakobooklog
バイトの頃は良かった。給料明細がそのまま自分の頑張りとして見えたから。時間数✕時給のわかりやすさが恋しい。今や残業や深夜手当の欄はあるのに、強制的に定時で押すタイムカードのせいで毎月空白のまま。終電を逃して歩く帰路の月の光は白く冷たく冴えていた。いっそこの身を貫いてほしいほど。

本田臨 @ayakobooklog
届いた招待状の返信用ハガキの、「ご出席」の文字に二重線を引く。美しい明朝体で書かれた「ご欠席」の「ご」を消しながら、「欠席」に丸をつけながら、あのとき離した彼女の手の冷たさを思い出す。テンプレ通りに余白に書き足した、走り書きの祝いの言葉は細く情けなく歪み、俺の後悔そのものだった。

伊古野わらび @ico_0712
「明らかにせねばならぬ」
白髭を赤く染めたまま老爺が喚く。
「この悲劇を忘れぬためにも!」
同じく赤く汚れたフォークを振り上げて彼は言う。
「私の大事なミートソーススパゲッティが消え去った!犯人は明らかにせねばならぬ!」
「おじいちゃん、さっき食べたでしょ。証拠はあなたがお持ちよ」

今村スイ @tsuduru_0716
温めたティーカップにハーブティーを注ぐと、よい香りがふわりと立ち上る。それでね、という言葉に耳を傾ける。元来夜ふかしは不得手な質だ。けれども私は毎夜、家人とともに今日のあれこれを振り返る時間を欠かさない。夜の私は、明日の私に何事もなくバトンを渡すために生きていると知っているから。

黒野綯路 @High_Delight
明滅する視界の律動が、死神の足音を数えていた。非晶質合金の頭蓋に穿たれた亀裂の奥、破損した量子演算装置から、魂が漏れ失せていく。バイオプリンティングされた肉体で生きた二十年。金属と珪素と光学繊維からなる機体で生きた二百年。血の流れぬ私を、貴方の涙が濡らすから。私は今こそ、人間だ。

群青さな(サイトからの投稿)
明日はどうか晴れますように。てるてる坊主はいつもやさしく微笑むが、大事な日は決まって雨。愛用の傘の持ち手は、私色に鮮やかに染まっている。待ちに待った彼との初デート。髪型、メイクにおしゃれ。一つでも好感度が上がってほしい。そして、勇気を出して手を繋ぎたい。澄みきった青空の下で。

六郎 @yFgvzRdE8zsUjSr
花粉症の鼻がむずむずしている。コンビニ袋を経由した陽射しが、天井の隅に明るい波を立てていた。抱き合って沈みながら、私の見上げるそのあたりに。愛を確かめようとするほどに、何もわからなくなった女の話、聞きたいですか。外干しのスニーカーの影が、半開きのカーテンの上で私を誘っている。

六郎 @yFgvzRdE8zsUjSr
バイクと僕はむき出しの骨格だ。言い訳する自分を置いていくのだ。花びら混じりの横風、歩道橋から見下ろす少年、道端の地蔵堂。一瞬が、砕けたパズルみたいに降り積もる。道はすべて繋がっているから、帰りたくない場所にも、いつか僕はたどり着くだろう。アスファルトの先はほのかに明るい。

(サイトからの投稿)
「ねぇアタシ愛されたかったんだ」
泣きながら明るく言い放つ君はどうしようもなく輝いて見えた。彼氏に振られるたびに傷付いて、それでも笑う君がどうしようもなく愛おしく許せない。「もう私にしたら?」冗談めかした告白を口にすると、膨らんだ胸の奥がズキリと傷んだ。

六郎 @yFgvzRdE8zsUjSr
望が数字でしか話さなくなって半年になる。戸惑い、苛立っていた周囲も、やがて相手にしなくなった。
「2197……82」
校庭を眺めて望は呟く。通訳を期待されていたらしい私も、そろって見放されている。宇宙の底は明るいんだ! なんて力説してるかもしれない望を置いて、教室を出る。また明日。

姫川あいす @himekawa_aisu
歯医者にて。
プラスチックの下にバイキンマンはいたようだ。
削った後、ギンギン光る歯に変わった。
まさか虫歯になっているなんて思わなかったのに、蓋を開けると黒い姿に変わってしまうなんて。
まるで人間のようだ。
私を騙したあの人も、削って消せたら夜明けがやってくるのに。

姫川あいす @himekawa_aisu
「いい子でいなさい」親にレールを敷かれた子供時代。
大人になっても、くっついてくるのは弱気な自分。
明るさは消え気を使ってばかり。
『私はどう生きたらいいの?』
そんな中、一筋の光が現れた。
明るい笑顔で優しく頭を撫でてくれる大きな手。
私は今、幸せのレールの上にいる。

姫川あいす @himekawa_aisu
日が長くなり夕方になっても明るい春、私は40歳になった。
短い文章に思いが凝縮された140字小説を見て感動。
4月、40歳、140字。
幸せの数字『4』並びに運命を感じた。
英明闊達な人でありたい。
シナリオライターの私が小説家を目指すストーリーが今、始まる。

しば(サイトからの投稿)
満員電車に乗っていたら、龍の刺青を入れた男と肩がぶつかった。目が合った刹那、明治時代にタイムスリップしていた。途方に暮れていたら、シルクハットを被った紳士に、意味ありげに顔を見つめられながら、龍のデザインのコインを手渡された。コインに触れた瞬間、気づくと満員電車の中にいた。

大木ちよ(サイトからの投稿)
あるところに、梅星という明るい星がありました。梅星には沢山の木が生えていて、木々は自らを梅星星人と呼んでいました。梅星星人は毎日梅星の果肉を吸い取り、時には奪い合って生きていました。梅星から果肉が完全に無くなった時、梅星は種星となり、梅星星人達を吸収して大きな梅の木となりました。

刹那(サイトからの投稿)
「執行は明朝だ」
ここからの月明かりも見納めだと笑う。
「もう少しで無実を証明できる」
「私のことは忘れた方が賢明だ」
明星がまだ薄っすらと輝く頃。断頭台からの景色は不思議と悪くなかった。
「真の下手人はここに!彼の無実は明白となった」
泣き笑う君の姿が見えた気がした。

刹那(サイトからの投稿)
母はいつも笑っていた。つらいときも、悲しいときも、痛いときもずっと。悪口だって言う。クヨクヨもする。泣くことだってある。だけど気がつけばもう笑っている。どうしてそんなに明るくいられるのか。誰かが聞いた。「笑ってなきゃ、やってらんないじゃない」母はまた明るくそう答えるのだった。

あぽろ @poro_poro_do_
街が眠りから覚める前の時間が好きだ。薄暗く、静寂に満ちた時間。透明な空気に覆われ、広い世界に独り立っているような。明星が、私と同じくぽつんと一つ光っている。嗚呼。孤独であるということは、なんと自由で、寂しい世界なのだろう。私はこのひと時だけ、何者でもない自分になれる気がするのだ。

まくす(サイトからの投稿)
びくん。やっと最期の痙攣だ。「早く」。尽きかけた力で頸動脈を絞めながら、衰えたなと彼は思う。こけた体が疲れに震え始めた頃、ようやく彼女は崩れ落ちる。

これでまた少し生き延びることができる。どこまでも明るい昼下がり、青臭い風に鼻をしかめて、息を弾ませた老ライオンは遠くを見た。

やまだなの @nano_ue1
まあなんてこと!狭い部屋に閉じ込められてしまった私と君がいました。部屋にあるのは天井に吊るされた明かりと、缶ビールだけでした。明かりが要らなくなった時、君は私が眠っている間に部屋から脱出したのです。私は部屋に閉じ込められたままです。可哀想に。はやく迎えにきてくれるといいんだけど。

たつきち @TatsukichiNo3
夜明けを待ってこの街を出る。朝の街が好きだった。誰も皆忙しく余裕なく歩いていても。それを眺めている自分に気が付かなくても。この街が生きていることを実感する朝の景色が好きだった。最後にそれらを眺める余裕はないかもしれない。それでも街が目覚める気配を感じたいから夜明けと共に街を出る。

西 陸之介(サイトからの投稿)
 4月は明の季節。私の人生が明るくなった気がする。色々な人に出会えた。4月が訪れる前までは暗雲の中を歩いていたようだった。人生の岐路に立っていた。だけど進む方向が定まると光が差し込んできた。4月は明の季節だ。

月原たぬき(サイトからの投稿)
落ちた、と私は明るく呟いた。
落ちた、と私はうなだれた。
まただめだったと荒々しく立ちあがり、
もうだめかもしれぬと乱暴にコーヒーをいれる。
熱いのをやけ酒みたいに飲みほし、からになったマグを手に包む。
何度も落ちて今ここにいると
輝く人の声がテレビから流れ、マグに落ちて光った。

陽野あたる @hinoataru07
明るい笑顔の素敵な子で、なんて白々しい上っ面の台詞を嘲笑うように、僕の隣に浮かぶ姉さんは小さく肩を揺らす。その般若顔を見たら、あいつらはどんな反応をするのやら。焼香に立つ若い男を指差しながら「あいつよ」と僕だけに囁く。OK、任せて。ポケットに忍ばせたカッターをちきりスライドさせた。

陽野あたる @hinoataru07
夜明け前の空気を切り裂いて、走れ、奔れ。藍闇のコース、観客は無言で佇む信号機のみ。静寂。真っ直ぐに伸びた百メートルを遮るものは何も、ない。無音の合図。軋む鼓動も干上がる呼吸も泣いた昨日に置き去りにして、ひたすら前へ。先を行くあの背中より速く、今の私より一刹那でも速く、走れ、奔れ。

きさらぎみやび @KisaragiMiyabi1
あー、着地に失敗したなぁ。斜めになった視界で考える。幸いにもここは明るいから太陽電池でしばらくは持つけど、迎えは絶望的だろう。ふと、視界の端に白い影が映る。恐る恐るといった様子でこちらを見つめる目は赤い。ホントに月の兎っていたんだ。これが幻覚だったとしても、皆に教えてあげたいな。

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