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春の星々(140字小説コンテスト第4期)応募作 part1

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

春の文字 「明」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

4月30日(日)までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去の受賞作などは以下のリンクをご覧ください)

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応募作(4月1日〜5日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

4月5日

英令目野ピイ @lmnopdesu
「じゃあまた明日」そう言って手を振る彼女と別れてから、僕は友人たちに挨拶する。「おはよう」一日は24時間だなんて誰が決めたのだろう。僕にとっての一日は、電車で彼女と一緒になり何気ない会話を交わす15分だけだ。チャイムが鳴り、席につく。とっくに終わった今日という一日を僕は惰性で生きる。

秋助 @akisuke0
明るさのない車掌のアナウンスが、どこかの車両で起こった駆け込み乗車を窘めた。知らない誰かの急いだ事情を考える。旧友の死に駆け付けるのかもしれない。新しい命に立ち会うのかもしれない。それでも、電車が遅れたことに苛立ちを覚えてしまう僕の心は、誰かを突っぱねるように閉まったままなのだ。

Pino @pirooooon
ここは、菫の花しか咲かない町。それ以外の花が咲く事を許さない、春眠の魔女が居るからだ。魔女のまどろみは、菫色のカーテンになって空を覆う。夜が明けてもどこか眠たげな住民たち。魔女が目覚め菫青石の瞳が輝くと、菫の花たちが一斉に揺れる。

くたべ(サイトからの投稿)
上司のセクハラ対策のため、私は制服の胸ポケットにボイスレコーダーを忍ばせている。ある日、廊下で上司とすれ違いそうになったので、急いで録音ボタンを押した。「今日もかわいい」といつものように声をかけてきたので、あとで確かめてみると、「キモい」と明らかに私の心の声も録れていた。

くたべ(サイトからの投稿)
明日は冬至。一日早いけれど、今夜は柚子湯に入ることにした。思いつきで柚子に顔を書いて湯船に浮かべてみたら、なんだかとてもにぎやかになって、楽しくなってきた。香りもすごくいい。すると、プカプカしている柚子たちがみないっせいに私を見てるのに気がついた。のぼせているのか、視線が熱い。

たつみ暁 @tatsumisn
まんじりとしない夜を過ごす。目は冴え、心臓は速く脈打って落ち着かない。本当に、わたしが勝てるんだろうか。不安は湧き出て、流れ去ることを知らない。それでもやるしか無い。ここまで勝ち上がってきたんだ、必ず勝利の栄光をこの手に掴む。薄明は近い。人生を賭けた決戦は、太陽が昇ったら始まる。

たつみ暁 @tatsumisn
何もない薄暗い場所を歩いていた。どうして、いつから、こんな所にいるのかわからない。記憶に焼きついているのは、迫るトラックの眩しすぎるライト。
『ここにいちゃだめだよ』
囁きと共に生じた明るい星に手を伸ばせば、白い天井と、涙目で覗き込む両親の顔。
「もう、野良猫助けようとするなんて」

たつみ暁 @tatsumisn
永遠の闇の世界に光の卵が落ちてきた。光を知らない闇の世界の住人は、取り扱いに困って右往左往。結局闇の女王が懐に抱いて温めることになった。彼女の黒い衣の下から漏れる暖かい明かりに、家臣たちも気が気でない。やがて十月十日が過ぎて、卵にひびが入る。果たして、生まれてくる明かりは何者か?

イマムラ・コー @imamura_ko
「疲れたから明日にして」ベッドで妻は俺を拒絶した。「わかったよ」俺は寝たふりをする。しばらくして妻はベッドからこっそりと出ていった。AVでよく見るやつだ。2階には俺の父が同居している。妻の後をつける。妻は自分の書斎に入り司法試験の勉強を始めたようだ。頑張れ、弁護士を目指す妻よ。

藤和 @towa49666
夜明け前、暗い中外へ散歩へ出かける。吹く風はまだ冷たくて、春が来たとはにわかには信じがたい。土手の上にあるベンチに座り、桜の木の下で川の向こうをぼんやりと眺める。少しずつ空が白む。明けの明星が輝く。強く吹いた風が桜をさらっていく。きっと今年も、春はすぐ駆け抜けて行ってしまうんだ。

和泉(サイトからの投稿)
机に映る影は緑に煌めき、手元の小説には温かさが宿る。眠い、けれど寝てしまったら時間がアイスのように溶けてしまう。早起きできたからだろうか、普段しないことをしたくなったのは。伸びをして、炭酸の抜けたソーダを口にする。喫茶の一角に穏やかな微睡と明るい正午の日差しが立ち込めている。

和泉(サイトからの投稿)
目を閉じても、光を感じることができる。鼻腔を擽る桜のハンドクリームの香りと窓の外から聞こえる子どもの声。目頭は熱いのに、濡れる頬は温いのに、腹の上で組み重ねる手は冷たい。このままこの固いベッドに身を沈めて滅びてしまえばいいと思えるけれど、瞼越しの明るい陽射しがそんな思考を窘めた。

4月4日

こたろう @tDdKt587KklMAWJ
女は出征した夫が戦死した報を受け、桜の木に首を括って死んだ。他に身寄りのない女を不憫に思った村人が女を桜の木の下に埋めた。
八十年後、「あの公園の桜の下に夜、女が立っている」目撃情報の多さに自治会が桜の下を昼夜を分かたず掘った。朽ちた棺桶と白骨が見つかったのは今日未明の事だった。

缶田 @can_ricefield
川を見下げると夜空の星が泳いでいた。流れが速い急な川で、空の流れも強かった。川の流れと空の流れは逆方向であり、とても苦しそうだった。思わず手を突っ込んで撫でると、白い涙しぶきが飛び散った。嬉し涙だろうか。見上げた先の星はいつも以上に明るく微笑んだ。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
日が長くなってきた。日課の夕方散歩も自然と距離が伸びる。商店街を二つ抜け、右へ曲がり、左へ曲がり、もはや知らぬ街である。西日がやけに明るい。影が伸び縮みしている。はしゃいでいるようだ。よくない兆候。私はすぐ影を逃してしまうのだ。おや、なかなか日が沈まないぞ。影がスキップを始めた。

アスパラ山脈 @yamaasupara
社会にもまれグシャグシャになっていたある日、空を見上げると明かりの中に青く光る星が見えた。100光年彼方から励まされている気がした。あれから10年、ふと思い出しおもむろにスマホの明かりを青にして空に掲げる。どうか100光年かなたのグシャグシャになっているあなたに届きますように

ぽかぞー @pokapoka_pokazo
まさにラテン、明るい母と、日本人の真面目な父。幼少の頃、母の拙い日本語で語る昔話が大好きで。大事な場面で父に読み方を訂正されるのも御約束。周りの子らが英会話を習う中、私は母と漢字の勉強。大人になった今も英語は話せない。しかし私は胸を張り教壇に立つ。「それでは国語の授業を始めます」

 @Z9hmdBIPGCSspEx
笑いさざめく声の先で真夜中のお茶会が開かれていた。月明かりの下、古いドレスで集まっている。老婦人が手招きをした。席に着くと、その人は縁のかけたカップに紅茶を注ぎ、久しぶりねと微笑んだ。「今も愛してるのよ」忘れられない懐かしさが目覚めの枕を濡らした。元気そうでよかった、お婆ちゃん。

葉山みとと @mitotomapo
「明けの明星ってさ、二回も明るいって字が出てくるの。なんか笑っちゃうよね。」
暁に照らされた浜辺で、紫煙を燻らせながら彼女が言う。
僕は「火ちょうだい。」とシガーキスをせがんで「ほら、ふたつ。」と煙を吐いた。
「海岸で吸う煙草って納豆の味しない?」
ふたつの灯りがくすりと揺れる。

瑞季(みずき) @mizki_aida
未来が明るいことを信じられない僕に、彼女が「太陽と月がある限りは大丈夫」と言った。
明朗な彼女が太陽なら僕は月なんだろうけど、全く釣り合っていない。
釣り合うにはもっと前向きさが必要だ。でも今は難しいことは考えないで、ただ話していたい。

藤和 @towa49666
「明けない夜はない」みんなそう言うけれど、本当にそうなのだろうか。きっと、そんなことを言う人はみんな希望を抱いて生きているんだと思う。そういう人たちには理解できないんだろう。端から見てどんなにしあわせそうな生活を送っていても、死は救済だと思うこの気持ちが。生きてる限り救いはない。

エイプリル(サイトからの投稿)
ローファーがソーラーパネルになる季節。太陽は明るく私の靴を照らし、そこに桜の花びらが落ちた。いつの間にか春が来たらしい。暖かな日差しと対照的な春風の冷たさは、まるで新しい環境への期待と不安を表しているようで不思議と心地よかった。春風とセーラー服。もう、15回目の春らしい。

もりの金魚(サイトからの投稿)
「キラ星の、ごとくではなく、綺羅。星のごとく、なんだよね」聞き飽きた講釈とともに、3年ぶりの飲み会で上司の鼻が膨らんでいる。うなずくみんなの目線はそれぞれ。入社年次に比例して視力の回復を望むように遠くを見る。でも今日だけは誰も口角は下げずにいるようだ。何かが明けた夜の明けにて。

もりの金魚(サイトからの投稿)
えせキャンパー。初の野飯は明星チャルメラ。二分茹でで一気に掻きこむ。夜星を仰ぎ、入社五年で初めての部下の誕生星座を探すがどれが何やら分からない。代わりに頭に出現したのは彼女の屈託のない笑顔。いや、これはけしてハラスメントではなくと自分に言い訳をした瞬間、醤油味のげっぷがでた。

4月3日

さく @saku_sakura394
娘が明るく聞く。「パパは何がいい?」「焼肉」妻は娘に聞く。「葵は何がいい?」「カレー」夜はカレーに。「うまいか?葵」「おいしい」妻は首を傾げた。「疲れてるか?顔色が悪い」妻は答えない。ある日妻が電話をしていた。「葵が宙に話しかけて怖いわ」…そうだった。遺影の私は音をたてて倒れた。

ぽかぞー @pokapoka_pokazo
晩秋、夜が近い。六甲の夜景が見てみたいと君に言われ、若葉の付いた車体で山道を登る。実は何度も練習しに来たのだと言うと、君は不機嫌になった。一緒に初めて来たかったのに。

山頂。二人の世界。時間が止まる。結局、君が好きだと告げる頃には、夜が明けていた。告白は練習不足だねと君が笑った。

リツ @ritsu46390630
毛を逆立て、一心不乱に進む姿に野鳥は驚き飛び立った。森の中を兎が駆けてゆく。朧げな月明かりだけを頼りに、機敏に木々をかわしていく。口にくわえているのは薬草。目は力強く光らせている。後ろ足を幹にかすめた。傷ができたことすら気付かない。さあ走れ、棲み家まで。風邪を引いた子の待つ元へ。

加賀航紫(サイトからの投稿)
彗星の燦然たるコマから出る長い尾は、どこまでも強く引いている。街明かりの東京でも、さぞ多くの人々が恍惚としている頃だろう。しかし、近日点を過ぎ、東京の空が、またあの空虚なものへと退転した時。彼女の瓦解を憂い帯びたその心は、ただ一人嘆く道を示唆した……。

山尾 登 @noboru_yamao
父の介護は近くに住む妹に任せっきりだった。今夜が峠だと知らされ、最終の新幹線で駆けつける。トイレに立った妹に代わって、絡まる痰を除いてやろうと吸引機を父の口元へ運ぶと、物凄い形相で私の手を払いのける父。積年の不義理に謝罪の言葉も言えず、許しの言葉もなく、明け方呆気なく父は逝った。

東方健太郎 @thethomas3
日の暮れるのが早くなりました。いつか、幼い頃に見上げていた夕日を、なぜかしら少し思い出しています。闇雲に坂道を飛ばした自転車の帰り道、友人とはぐれたわたしは、そのままぼんやりと空を眺めていました。あれから、わたしたちは、暗い話にはとことん詳しくなりました。明るい話をしましょうか。

千葉紫月(サイトからの投稿)
ミロのヴィーナス然り、失ってから輝く美しさがある。失明してから瞼の裏にうつる君は今までで一番美しい。

千葉紫月(サイトからの投稿)
明時代の青花磁器。家宝とされたその逸品は真っ赤な偽物だった。相続を巡り一族で殺し合い最後にはみんな死んだ。そしてその偽物だけが残った。

千葉紫月(サイトからの投稿)
『冷蔵庫に何もないね』と言って2人で白米に明太子をのせて食べて笑い合う。この気持ちを共有出来るのが、幸せだ。

深海 泳(サイトからの投稿)
会いたいと思った時にはもう会えない、そんなことってきっとある。
だから僕は、早く眠って会いに行く。虚ろな世界で会いに行く。
だけど僕は知っている、それは実は虚しいこと。本当の意味で会えてない。
夜が来たら輝いて、夜が明けたらまた消える。それだけ。

#1(サイトからの投稿)
明るいところがいいね。そうだね。見てごらん、あそこは明るいよ。あれはネオンだよ、眩しすぎる。あそこはどうだろう?あれはお月様だ、輝いているもの、ダメだよ。あっ、あそこにするよ、明るくていいもの。へえ、あそこにするんだ。うん、それじゃあね。「おめでとうございます。元気な男の子です」

森居あんみ @anmi_morii44
夢を追うのに疲れ、1人で参加した西表島の蛍ツアー。沖縄の蛍は、本土のものより明るく光る。空飛ぶイルミネーションのようなそれを、小さな子どもが掴んだ。
「ねぇ!星を捕まえたよ!」
遠くで輝くあの星を、私はまだ捕まえられるだろうか?
見せてもらった手の中のホタルは、星よりも眩しかった。

音川らら(サイトからの投稿)
彼は赤が好きだった。車も服も濃い赤色ばかりだった。空き缶が転がった彼の部屋、膝を抱えて座る私に「お前ももっと明るくなれよ」と笑う。私は淡い色が好きだ。散りかけた桜を眺めて思わず考え込んでしまう。彼は桜なんて儚いものは嫌いだろう。ねぇ、私はあなたに似合う人じゃなかったんだね。

 @Z9hmdBIPGCSspEx
ひしゃげた自転車を引くのは重い。すりむいた膝小僧に風がしみる。泥だらけの手で涙を拭うと、見上げた群青の空で宵の明星がぴかりと光った。今夜はカレーだってさ。星の言葉に背中を押され、夕餉支度の明かりを目指す。一歩一歩。ぎーこぎーこ。夜に沈んだ街に漂うカレーの匂いを頼りに歩く。

甘衣 君彩 @kimidori_novel
のう、少年よ。そこの二階の少年よ。望遠鏡は諦めた方が良い。地球の空は明るすぎて、 星なんぞ見えなかろう。儂の顔に太陽の光が反射して、空いっぱいに広がっておるから。それより、少年よ。ちと下を見下ろしてみい。広がった光を桜の花びらが集めておる。雅に舞いながら、星のように瞬いておる。

4月2日

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
碧落を貫く朝暉が、手水舎の水盤へと差し込んでいた。その光の先、水盤の端では、神明社の神木に住まうシジュウカラが2羽、ツピピンツピピンと愛らしく世間話をしている「春だね」「春さ」
傍にあるのが当然の物など1つもない。1つ1つが奇跡で創られているのだ。鳥達は生を誇り、今を歌い続けた。

きり。 @kotonohanooto_
気がつくと、雨の中にひとり、立ちつくしていた。周りは暗くて、電灯もない。そんなことはわかるのに、自分がだれだか、わからない。これから、どうしよう。『明るい方へ、行くんだよ』「だれ?」『明るい方へ、行くんだよ』不思議な声は、そう言った。わたしはあたりを見回し、光を探して歩き始めた。

黒野綯路 @High_Delight
黎明の空に月を探す。夜の残骸に縋りつく。貴方のいた昨日と、貴方のいない今日の狭間で。けれど無情に日は昇る。世界が色を変えていく。変わらぬ世界の辺縁で、中心を欠いた私の世界が、寒々しく色褪せていく。ただ伸びる己の影だけが色濃く、私の存在を縫い留めて、どうしても離してはくれなかった。

英令目野ピイ @lmnopdesu
"明るく元気に"を掲げる会社の面接に落ちた。どうせ俺は陰気さ。友人に明るく励まされたが癪に障った。「お前はいいな。明るくて」こいつなら受かったと思うと腹が立った。暗い事は罪なのか? 後日、同じ日に彼も第一志望の会社に落ちていたと知る。彼は明るかったのではなかった。ただ優しかったのだ。

鳥野旭(サイトからの投稿)
例えば、ここに小さな丸があるとする。その隣にも、その隣にも・・・・・・。でもね、丸がいっぱいの、そのまた外側には、もっと大きな丸がある。そのまた外側にもあるかもね。皆それぞれ違う丸の中にいて、押したり引いたり、出たり入ったり。明日どこにいるかなんて、今日の僕にも君にも分からない。

能美政通 @ppnswrtnd
いますぐに会いたいからできるだけ遠回りをして帰る。出会う前は空ばかり見ていた。いまは夜通し歩いて歩いて、歩き疲れてきみの待つ家へ着く。帰る頃にはきみは出かけているだろう。宵の明星に明けの明星。わずかな時間だけれど、見える時間も見えない時間も、きみはいつも明るく照らし出してくれる。

鳥野旭(サイトからの投稿)
延々と湧いてくる好奇心と探究心が、半世紀余り私を突き動かしてきたが、ついに身体が先に壊れたようだ。科学の発展は目まぐるしい。明日を生きることができたなら、今日よりも発展した未来を生きることができるのに。現世における私の役目は、もう果たしたのである。次の世代に希望を託して。

鳥野旭(サイトからの投稿)
明るい方へ。私は一日のうち、ほんの数十分ほどしか外出できないから、毎日、窓際で日光を浴びる。それでも、以前のいたところよりもすごく居心地はいい。「何かいいことないかな」って日々は、一生続くかもしれないし、続かないかもしれない。私の場合は、この家の主が連れ出してくれた。明るい方へ。

秋助 @akisuke0
彼との別れの原因はパスタの茹で方や、カルピスの希釈量といった些細で、些末な出来事である。きっかけなんてどうでもよかった。離れる理由がある、という理由が欲しかっただけなのかもしれない。飲めないコーヒーに気持ち悪くなる程の砂糖を入れた。苦いことは全て、不明瞭にしてきた後悔を飲み干す。

リツ @ritsu46390630
僕には明るい場所は似合わない。だから歌うたいになった。青春の香りを漂わせる同級生たちに憧れながら、時に蔑んだりしながら、そうやって生きてきた。
両手を突き上げて飛び跳ねる観客は、まるで僕が羨ましかった同級生のよう。彼らが僕の歌に呼応してくれるとき、あの頃に感じていた壁は幻になる。

イマムラ・コー @imamura_ko
明日とは明るい日と書く。明がひとつだ。明後日も明日の後と書くので明はひとつだ。ところが明明後日になると明が二つになる。その次の日はどうなるのだろう。おそらく三つになるのだろう。こうしてどんどん増え続け、一年後は364個の明になるのだ。とてつもなく明るい世の中になっているに違いない。

おがわれいな(サイトからの投稿)
真っ黒に塗られた空。そんな空の上で輝く星たち。そのたくさんの星のなかで、一番明るい星。幼いころ、私はそんな大人になりたかった。誰かの一番になりたい。何かで一番輝きたい。しかし、それは儚い夢だった。けど、それでいいと思う。自分がいることで誰かを輝かせることができるなら十分幸せだ。

とりの @piy0145tori
とうとう今日から社会人だ。会社には馴染めるだろうか。目を覚ますと4時だった。起きる時間までは2時間もある。眠気はあるけれど寝つけない。ふと、窓を開けてみた。夜は明けつつあり、空が明るくなっていく。春はあけぼのという言葉が思い出された。なんだかホッとして、私はまた布団に潜り込んだ。

花島南 @Hudesukebe
一冊の文庫本がある。昔、付き合っていた彼女が「面白かった」と貸してくれた。でも、読み終わる前に振られてしまい、返せなかった。街で偶然会う機会があるかも、今日か明日にも返せるかも、と常に持ち歩いている。この本のせいで彼女のことが頭の隅にこびりつい離れない。本の名は「悪女について」

せらひかり @hswelt
明るい星。あれは一等星。隣のくらく輝く星のほうが本当は明るくて、けれどとても遠いから、その瞬きは届かない。君の声も同じ。透き通って歌うくせに、かすかで遠いから届かない。どうしたら観測できるだろう。何万光年離れても、私の叫びは君の声をかき消してしまうから、どうしても叫べないでいる。

こたろう @tDdKt587KklMAWJ
「また明日伺います」そう言って男は去っていった。二日前、息子から電話があり、金を無心された。借金をしているらしい。今日息子の代理人が金を受け取りに来たが、三百万など直ぐに用意できない。暫くして娘から電話があったので、事情を説明すると「お母さんしっかりしてよ、子供は私だけでしょう」

193(サイトからの投稿)
鶏肉と卵の親子丼を前にしてふと考える。人間たちが勝手に親子と認知しているだけで、食用の鶏と卵が実の親子だと証明されることはきっとないだろう。むしろ鮭といくらの親子丼の方が実の親子である確率が高い気がする。どちらにしろ多くの命を犠牲にしているため私は手を合わす。「いただきます」

冨原睦菜 @kachirinfactory
「大人になるまで、空が広いって知らなかったんだ」四方を山に囲まれた土地で育った彼にとっての空は、山の木々という額縁に入れられた一枚の絵だった。早朝の日の出とともに明るくなる空も、入道雲のふくらみも、燃えるような夕焼けも、満点の星空もすべて。都会の空の方がよっぽど広いなんて変だね。

4月1日

シーラ @sii_ra_ra
私たちにはそれぞれ意味がある。手を取り合う相手、存在する場所によってその意味は変化するけれどーー
私の名前は「目」だ。私は「次」と手を取り、無数の彼等の先頭に立った。それから長い長い眠り。その眠りの先、一瞬、目の前が明るくなった。0コンマ何秒だっただろうか。私と私が出会ったのは。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
明晩、星が道を空けるらしい。痺れを切らした彦星がモーゼを雇い天の川を割るのだ。
私は星達に頼み込んだ。
「七夕の他は道を空けないで」
偶に逢うからこそ新鮮に愛して貰えるのだ。
憐れに思った星達は、私の姿を覆い隠してくれた。
明晩私は、星に溺れながら、愛よ絶えるなと祈り続ける事だろう。

さく @saku_sakura394
夫はフラリと出掛け夜まで帰らなくても許されますが、私はフラリと出掛けると怒られます。夫の帰りを待たねばなりません。不在だとすぐに夫から着信がきます。勝手に設定された『春』は、明るい曲です。ほら今聴こえるでしょう?しかし今日で終わりです。そろそろ薬が効き始める頃です。私は不在です。

ちゅるや @ilsak2
雨は嫌い。空も心も焦げ色に染められどんよりと憂鬱になる。
 日常の嫌な事で泣きたいのは私の方なのに、空が延々と涙なんか流しちゃってさバカみたい。でもね、ほんとは好きなんだ。私の代わりに泣いてくれたんだよね? 雨が明ければ、何処までも広がって見える澄み渡る空が出迎えてくれるから。

久保田毒虫 @dokumu44
星の電球が切れた。急いで交換しなければ。僕は流れ星に乗り、あっという間に星々の電球を取り替えた……空がパッと明るくなった。「ママ見て! 空が明るいよ」「ほんとね。綺麗ね」私たちはいつまでもその景色を見ていた。幸せって案外簡単に手に入るのかもしれない。きっとそうだ。そうであってよ。

後藤 悠介 @gy19920713
星々の明かりが僕の心と呼応するみたいに瞬く。宇宙を彩る様に輝くそれらは一つづつ名前があるらしい。あれは太陽これは月そしてあの一番綺麗に光り煌めく星は地球と言う。僕が次に行く事になった星だ。太陽が照らすその星へと僕は向かって行った。まだ季節も何も知らない。美しいその星に今降り立つ。

よしの(サイトからの投稿)
じゃあね、と明るく告げられて不器用に頷く。卒業を祝う胸元の白い花が、彼女と一緒に翻った。突然呼び止めて写真を強請った私に快く応じた人は、友人の輪に戻っていく。楽しい日々をありがとう。同じクラスで嬉しかった。本当は私、あなたの事が。どれも言えなかった私は、ただスカートを握りしめる。

おおとのごもり猫之介 @ponkotsu_mt
話し相手もなく独り、何事もない事実を確認するのが夜警である私の仕事だ。人々が忙しなく行き交う朝に逆行し、ねぐらに帰る。誰も私には気も留めないし、空を見上げる暇人もいないから、幽霊みたいに浮かんだままの有明月は寂しげである。でも私だけは知っている。夜通し見守ってくれた親友の輝きを。

おおとのごもり猫之介 @ponkotsu_mt
悪いのは僕だったかもしれない。君の部屋を逃げ出し、駅近くの暗い公園で始発まで凍えていた。宇宙が透けるほど夜空は高く、まばらな星間を飛行機が小さな航空灯を明滅させながら渡っている。轟音は遥かから遅れてやってきて、寝静まる軒並みをこだまして覆った。怒涛も後悔もやがて霧散し夜明け間近。

おおとのごもり猫之介 @ponkotsu_mt
大小の箱に囲まれて生活の品々を分類していく。引越しは自分との訣別で、我身を腑分けし明からさまにするようだ。要不要に分けた過去は、不要なものほど愛おしく思えてしまう。必需品たちの封印を再び解く先の生活に希望が持てず、私は意気地がない。窓幕を外して、この部屋の明るさに今さら気づいた。

TAKA001 @001TAKA
透明なだけで、あなたはいる。ケトルの湯気が揺らめく。私は珈琲を淹れ、窓際の席に供えた。嘘の葬儀に出て嘘の涙を流しただけだ。あなたは春の陽気を纏いプリズムの輝きで存在を知らせる。魂は死なない、のだと安堵した昼下がり。姿の見えない野鳥の囀りが、口癖だった「大丈夫?」のように聞こえた。

名瀬ふう @fuuuunase
春になると死にたくなるの。温い水、霞んだ空気、色がばらばらの花たち、みんなわたしを死なせたがる。
「僕は暗い方が好きだ」
そう笑ったあなたはもういない。満月の湿っぽくて甘ったるい夜、自ら海に沈んでいった。
昼も夜も明るい春は嫌い。
あの夜の月明かりだけがわたしの目印。わたしの希望。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
今夜は星明かりがとても近い。
ふと、真珠星のように透明な君の笑顔が眼裏に浮かんだ。
僕は、人を待つ事が好きだ。
誰かを待つ間の、心に相手の微笑みを思い描きながら胸を踊らせる優しい時間が大好きだ。
それが君達母子だと特に嬉しい。
だからさ、あと百年は、空まで逢いに来ようと思わないでね。

ハシモトツムギ(サイトからの投稿)
君はとても明るい。君と比べたら僕は暗い。でも僕は、君が好きなんだ。君が好きだから、変わりたい。君を見ていると、変わりたいと思うんだ。明るいという漢字は、日と月が合わさって出来ている。例えると、君は、月だね。あぁ僕は、日になりたい。明るい君にとってなくてはならない存在になりたいよ。

輪花(サイトからの投稿)
昨夜、寝転んでカーテンをそっとあけると、北斗七星が見えたのを思い出す。星たちが宝石のように明るく空一面に散らばっていて、思わず「綺麗……」と言葉がこぼれた。空を独り占めできたような気分だったのだ。この綺麗さを言葉にして書き留めておきたかったけど、そこで瞼が下りてきてしまった。

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