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春の星々(140字小説コンテスト第4期)応募作 part3

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

春の文字 「明」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

年間グランプリ受賞者は「星々の新人」として雑誌『星々』に毎号作品を掲載。4月30日(日)までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去の受賞作などは以下のリンクをご確認ください。雑誌『星々』の詳細もサイトよりご覧いただけます)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。

応募作(4月13日〜18日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

4月18日

チアントレン @chianthrene
叔母が患ったのは春先の筈だが、「自宅に見知らぬ大人がいる」から「知らない家に自分がいる」までの落下は夏を待たなかった。
忘却に抵抗する張紙が几帳面に並べられた屋敷に昔の面影はなく、逆縁の喪主を布団に送って洗面所に入れば朝陽に灼けた「お早う」が叔母と祖父の暮らしを鮮明に留めていた。

あいまる(サイトからの投稿)
私の手に元気良くタッチすると、お気に入りのおもちゃの方へと駆けていく。いつからだろう、笑顔でバイバイできるようになったのは。預けるたびに歯を食いしばり、顔を真っ赤にしていた1年前。まだまだ小さな背中を見届け、今日も仕事へと向かう。春の明るい太陽の光が、少しだけ足取りを軽くする。

詩乃央翔(サイトからの投稿)
たとえばここに月のような笑顔をした君がいる。
僕は君の弱さを知っているから抱きしめることしかできないんだ。
たとえばここに月のような涙を流した君がいる。
僕は君の勇気を知っているから抱きしめることしかできないんだ。
だけどここに君はいないから。僕の明日に君がいないから。

apple(サイトからの投稿)
窓を開けると、明るい光とともに小さなフワフワが入ってきた。タンポポの綿毛だ。油断ならない侵入者たちは、あらゆる隙間に入り込む。翌朝会社に向かっていると、スーツの袖に綿毛を見つけた。黒い生地にとどまる白いフワフワは雲のかけらに似ていて、出社前の重たい気持ちを少しだけ軽くしてくれた。

〜nodoka〜和 @nodokasite
明るい子。
暗闇でひたすら笑顔で取り繕う私についた周りの印象だった。嬉しいのか悲しいのか分からないけれど『明るい子』として存在し、誰かの光になれたのだろうか。暗闇に輝く1点の明るい星のように。自分からかけ離れていると思っていた光り輝く存在に。そんな淡い期待を抱き、今日も仮面を被る。

TAKA001 @001TAKA
名付け親の願いは、いつも太陽に照らされてツキのある男でいて欲しい。漢字で一文字「明」。アキラって響きも良い。人生は勝ち続けにゃならん。何に?それは時々でひとり考えておくれ。とはいえ負けてもカラッとした笑顔で諦めることも肝心。お前の胸にある羅針盤が、常に正しい道を指し示してくれる。

清水裕輝(サイトからの投稿)
星明かりに照らされても、ぼくの心は。3月。それは別れの季節だと、子供のころから、もちろん大人になってからも知っている。また新しい出会いがあるのだと頭ではわかっていても、やっぱりつらい。何かの漫画ではないけど、いま輝く星が、いなくなった人が元気だと示すシグナルなのだと思い込んで

清水裕輝(サイトからの投稿)
春の星はくすんで見える。澄んだ冬と比べて濁って見える。空を見上げれば遠くの星よりも目先の桜が主役に思えてしまう。でも、冴えない星たちは新しい季節、そして迎える新年のために、何か浄化してくれているとも思う。そう、こんな頼りない明かりだけど、新しい出会いの喜びのためにあるのだと。

松浦照葉(サイトからの投稿)
朝日が昇りカーテンを開けると、明るく暖かい太陽の光が部屋中に差し込む。眠い目を擦りながら背伸びを一回してから朝のルーティンに手をつける。明るすぎる部屋の中で、君は目を細めながら僕を見つめている。
「眩しいね太陽の光が。白内障が進んできたかな。何も言えない君も大切な家族の一員だよ」

モサク @mosaku_kansui
夜勤明け。まばゆい日に背を向けて、開店直後のスーパーに立ち寄る。売れ残りの野菜と肉を買った。ゆっくりと食事をしてから風呂に入ろう。体の中でまだ終わっていない昨日を、洗い流すのだ。そのあとは、やる気に満ちた今日という日を、遮光カーテンで断ち切って眠る。俺が今日に追いつくことはない。

七夕ねむり @nemuri_sleep
君はいつも明るい所にいた。日の当たる場所、光の方向。私が俯いていれば手を差し伸べて、優しい眩しさへと導いてくれた。そんな君は今、闇色の目をして膝を抱えている。泣きすぎて腫れた瞼に、固く結んだ口元。君は滑稽だと自分を笑う。膝を折ってそっと頬に触れた。あの日と同じ温度だと思った。

【第2期星々大賞受賞者】
へいた
 @heita4th
小さな活字は暴れん坊だ。いつも棚にお行儀よく並べられているものだから動きたくてうずうずしている。今日の職人はまだ新米で版を組むのも一苦労。ぴょんと指から飛び出そうとする活字に「こらこら」と怖い顔をした。インクをつけて優しく紙に押しつける。明朝体の綺麗な足跡。ほんの少し揺れていた。

七夕ねむり @nemuri_sleep
夜が明けるのをずっと待っている。ぽっかりと空に浮かぶ美しい月を眺めながら。窓から舞い込むのは柔らかい風、花々の甘い香り。この場所に不似合いなデジタル時計をじっと睨んだ。真夜中を示す時間はまだ終わらない。私を攫ってくれるはずの貴方も、まだ訪れない。

レムール @haltill
老衰を迎えた林道の街灯は、残された命にしがみつくかのように明滅を繰り返し、そして息絶えた。その時を待ち構えていた夜の闇は瞬く間に視界を喰らい尽くした。木々の枝葉が風で擦れ合う乾いた音だけが周囲を知るための全てとなった。人間たちが怖れ封じ込めてきた魑魅魍魎の世界に、私は立っていた。

貴田雄介(サイトからの投稿)
明るさの裏には同じだけの暗さがある。太陽が必ず沈むように闇が訪れるから生命は休らうことが出来る。だから一見、苦痛のように感じられる暗さにも重い意味がある。その体育教師は生徒達に「なんでお前達はいつもそんなに暗いんだ」とタバコ塗れのため息をつき、今日も生徒達の心を暗くした。

ミラバ(サイトからの投稿)
私は彼の言葉が好きだ。真っすぐで、明瞭で、けれどお堅い印象だから、周囲からは敬遠されがちだ。「構わない、これが私なのだから」と真面目な顔で言う。共感覚。文字や音に、視覚や聴覚の情報を感じる知覚現象。私の目には、人の発する言葉が書体で浮かび上がる。私は、彼の放つ明朝体が好きなのだ。

ミラバ(サイトからの投稿)
「君は明るい子だね。」出会ったばかりで上機嫌そうに言う彼に、私は眩いばかりの笑顔を返す。私は昔から、人に好かれるのが得意だった。けれど「光が強ければ影もまた濃い」とは、よく言ったものだと思う。何故なら「明るい子だね」と言われるたび、私の胸の奥底で暗雲が肥大し続けているのだから。

4月17日

平賀(サイトからの投稿)
中天に懸かる太陽は彼を見守っていたが、漁師の彼は獲物を狩る為に海を覗き込み、天を見上げなくなった。すると太陽は姿を現さなくなった。
彼は明りを失い闇が恐ろしくなり外に出なくなった。
不憫な彼に月が太陽に変わって中天から照らした。彼は天を見上げ月に感謝し、海を覗き込んだ。

平賀(サイトからの投稿)
君はあかるい人です。
清らかで、嘘偽りのない誠実なその心は、聖人君子のようです。
彼の詩仙のように、私も「明月」と君を呼びたい。きっと君は自分の価値を知らず極まり悪そうに恥ずかしがるでしょう。
だから、私はここで君が未だそれを内に秘めているのを世に自慢するように筆を執りました。

イイジマン(サイトからの投稿)
春の星に少しシンパシー。明るく輝いていた冬までとは違う。
梅や桜の花は、夜になっても照らされている。
新入社員の彼女に嫉妬している訳ではない。
ましてや、私が輝いて訳でもない。
ライトアップされた桜越しの少しかすんだ星々に
「ドンマイ」
星に言ったのか、私に言ってのか。

あいまる(サイトからの投稿)
桜の木の下、腕に抱かれた小さな新しい命。涙が出るほど小さく、か弱い存在が、一層春を明るく、あたたかいものへとかえていく。そんな日のことを思い出しながら、ひと回り大きくなった、でもまだまだ小さなお手てを握り、また桜を見上げている。明るい春に、なんだかお礼を言いたくなる、そんな気分。

三上優介 @mikami_yuusuke

太陽はすっかり姿を隠して静かな街が訪れたら、蛍の光みたいにチカチカと点滅する明るさが漂った。もちろん僕もその中の1人。みんなから遅れをとらないように、ちか、ちか、と。誰かがせーのっ と叫んだ。
力いっぱい振り絞って。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
何もしないと決めた日曜日、椅子に座り部屋に入る日差しをただただ見ていた。部屋は思った以上に刻々と変化する。春の明るい日差しを感じながらハムレタスサンドを食べた。西日に照らされて輝く埃を見て、掃除したくなるのをぐっと堪える。電気も付けず暮れるのに任せていると月が笑うのがよく見えた。

水谷よひら(サイトからの投稿)
明日以降、地球から星が見えなくなるらしい。今まで星に興味なんてなかったのに、もう見れなくなると思うと急に大切なものに思えてきた。僕は流れ星に祈った。どうか明日も僕たちに姿を見せてくださいと。次の日夜空を見上げると、昨日と同じ星が瞬いていた。科学者の予想が外れたのか、それとも……。

朱華 朱(サイトからの投稿)
「明太子食べたい」突然彼氏がそう口にした。「はい?」「いや、辛いの食べれる彼氏ってかっこいいよなって」……どっちかというと可愛いのでは。いや、すごく可愛い。「明太子って言ってる時点で可愛いよ」「嘘だろ」彼は心外そうに言う。「かっこつけたい気持ちを察しろよ、ばか」……ほら可愛い。

朱華 朱(サイトからの投稿)
 「おはよー!」青空を見上げていると恋人の声がした。今の明るい彼女は月のようだ。「昨日はやらなかったんだよ!」そうやって跡だらけの手首を見せてきた。新しい傷は増えていない。「おお、えらいな」彼女が影を見せた時、俺はいつも辛くなる。
だから、いつか俺が太陽になれたらなって思うんだ。

朱華 朱(サイトからの投稿)
 明朝、ベランダの柵に凭れながら煙を吐く。未だ輝く星と落ち行く月。「何見てるの?」気付くと隣には最愛の人が僕に体を預けていた。「今日でまた離れ離れになるのに」「それは仕事が……」言いかけて抱きしめる。急に彼女が消えてしまいそうで怖くなったんだ。まるで星空に溶けていく煙の様に……。

トガシ @Togashi_Design
明るい場所にいると、暗い部分が一層気になる。暗闇から何かが飛び出して、自分を覆ってしまいそうな恐怖を感じる。でも、その暗闇に私はそっと手を伸ばす。もしかしたら温かいかもしれない。みんなが知らないその温もりに触れた時こそ、明るい場所の、本当の暖かさを知ることができる気がする。

小野姫雪(サイトからの投稿)
僕を照らす明るい光。君への想いは永遠、青空のようにいつまでも変わらない。言葉にするのは恥ずかしくて難しい。真実の愛だと信じている。だから、変わらない永遠の愛君に送る。儚い恋かもしれない。それでも、僕の想いを込めてアネモネを送る。君を愛している。

猫神秋刀魚(サイトからの投稿)
桜がひらひらと舞い散る季節を迎えた。僕は自分の名前が嫌いだ。明るく無いのに、名前が明というからだ。病院から見える桜は、一日経つと、一つまた一つと、桜が落ちていった。桜が全て散るとき僕も散るだろう。僕は親の前だけでは、死ぬ時まで笑顔を貫くだろう。せめて、明の名に恥じないように。

清水歩美(サイトからの投稿)
2、3年前の春の夜明け前、外出の際、ふと見上げた空に、
輝く三日月と同じくらい明るい星、火星なのだろうか?
アンタレス星か。光輝く月と星たちの競演に感動した。
その時、一緒にいた家族と「早起きして得したね」
と話しました。夜空からのプレゼント。

目に見えないもの(サイトからの投稿)
私たちは、「今」を生きている。数秒後、「今」だったものは過去になる。地球の自転に合わせて、私たちは明日へ一歩を踏み出していく。日は上る。誰の手にも。でも、必ずしもその先が光に満ちているとは限らない。私の前に広がる暗闇のように。奈落に足を踏み出す人もいる。抗い難い力によって。

はぼちゆり @habochiyuri0202
「ここはヒトダマが出る」口数少ない祖父が裏山を通る度、呟く。僕は裏山へと登った。しばらくして、ゴロンゴロンと音がし出した。明かりを向けると、身の丈程ある巨大な顔が照らされた。「人…玉」怖くて動けない。するとどこからか火の玉が躍り出た。それは巨顔を煽ると、共に山奥へと消えていった。

りみっと(サイトからの投稿)
「今日はどうもありがとう。本当に来てくれるとは思わなかった」

「けっこう強引な約束だったけれど、約束は守る主義だから。それに楽しかったよ。こちらこそ、ありがとう」

ホームの片隅、星を見上げてそっと指を絡める。

「じゃあ、また明日」

電車に乗り、小さく手を振る私。

まくす(サイトからの投稿)
明るいヘッドライトが近づいてくる。又だ。衝撃。胸の中で何かが折れる音。それが肉に突き刺さっていくぬるりとした感触。全身を駆け抜ける痛み。声も出せないままに死の恐怖に怯え泣く。

明るいヘッドライトが近づいてくる。又だ。死は何かの終わりではなく、非情な無限ループの始まりと知った夜。

すぅ @Suu_Suu_44
ぼくは月を眺めるようにきみを見ていた。
底抜けに明るいきみを。
その明るさはどこから来るのか不思議だった。
きみと仲良くなるにつれ、その正体が分かってきた。
ぼくだけが分かっていればいい。
誰にも明かさないで。
それ以上眩しくならないように、零れないように、ぼくが底になるから。

穴ゃ~次郎(サイトからの投稿)
「明かりと灯りってどう違うの?」
明かりは太陽とか月の光、灯りはロウソクとかライトの光じゃないかな。
「ひとが付けるのが灯りなんだね。じゃ、クイズ。天国で照らされてるのは、どっち?」
明かりかな?
「灯りで~す」
なんで?
「だって、誰かに灯りを付ける場所が天国になるんだもん」

さとみ(サイトからの投稿)
小さな灯火。ちょっとやそっとじゃ消えることはない。守りたい何かは気付けば自分で生きる術を身に付ける。大切なものは今この瞬間にも、大きく強く、時にか弱くなる。あなたがその灯火だとしたら、吹き消そうとする風だとしたら。手を取り合って、お互いに助け合えたら、きっと未来は明るい。

KM(サイトからの投稿)
「老朽化」と言うでしょ。家も老いるのね。生き物よ。コンビニの明りが壁を照らし、車が柱を震わせる。今度お風呂場の改装をするの、内臓移植ってとこね。建て直しは安楽死。
 家は夜行性なのよ。昼は私が起きてるから。夜の間見張っててくれる、フクロウみたいに。
 そう考えて…ようやく眠れる。

さとみ(サイトからの投稿)
桜の絨毯。いちばん綺麗な瞬間に散る桜は、グレーの地面を明るく染める。いつもなら見ない足元に色を付ける。通勤路の信号待ち。春の風に吹かれて上を向く。また綺麗な花びらが目の前を過ぎる。青信号、一歩踏み出すと気持ちのいい1日が始まる。桜には不思議な力が宿っている。そんな気がする。

穴ゃ~次郎(サイトからの投稿)
西日を背にしてハンドルを握る視線の先に細長く車の影が映っている。進路を塞がれているようで苦しくなり、急ハンドルを切りたくなるのをどうにか堪えた。はたと気づいた。光に追い立てられると自分の影から通せん坊されるのだ。私は照らしていたのではなく、明らかにせんと責め立てていたのだ。

4月16日

水沢ながる @mizunagaru
「昔の人はかわいそうだね」と君は言う。「だって、こんなに明るい月も星も知らなかったんでしょ?」
昔の人も常に人工の明かりがある所にいたわけじゃないと思うけど、そこは黙っておく。いずれにしろ僕らには、当時のことはわからないし。
この世界から電気というものがなくなって、もう百年は経つ。

ゴローさん(サイトからの投稿)
知ってる?
明っていう漢字の意味。
窓から月の光が差して明るくなる様子だって。
面白いよね
彼女は病室でクフフと笑った。
私、この字が好きなの
僕は首を傾げた。

彼女はすぐに遠くに行った。
彼女の遺した辞書の『明』の項目にもう一つ意味が載っていた。
 この世
僕は肩を震わせた。

酒部朔 @saku_sakabe
こんな夜は古い樹皮が言葉に変わる。剥がれ落ちてゆく。樹の中に言葉をひとつ隠している。樹皮を押さえて今夜は起きていることにする。指が緩んだ瞬間、隠してた「あいしてる」が樹の中で明るく破裂した。光がわたしの持つ言葉を一斉に消した。隠していたけど言いたかった。この言葉のない世界に来て。

ゴローさん(サイトからの投稿)
僕は歩き続ける。
いじめられたって、試験に失敗したって。
どこの誰ともわからない君が道を照らしてくれる限り。
もしかしたら、その明かりは僕が近づくと消えたり見えなくなったり。
そもそも幻覚なのかもしれない。
それでも僕は歩き続ける。

伊古野わらび @ico_0712
「明文化していただけますか?」
彼女の言葉にいよいよ冷や汗が流れた。これ以上は誤魔化せまい。代役の私は文字を読めても書くことはできない。この動かぬ指では。
「貴方なりの文字でいいのです」
彼女は笑った。
「私も文字は読めません。ただ証が欲しいのです」
貴方と私が邂逅した、その証が。

こしいたお(サイトからの投稿)
「明るい話題が少ないせいか皆しょんぼり下ばかり見ている」男はそう呟き子どもたちに風船を配り歩いた。しかし名もない怪しい男から風船を受け取る子どもは少ない。男はやけを起こしたのか用意した大量の風船をすべて空へ放った。するとカラフルになった空に気づいた多くの人たちは上を向いた。

雨蕗空何 @k_icker
模様替えをした部屋が、やけに明るい。この部屋はこんなにも、広かっただろうか。あの窓はあんなにも、さえぎるものなく陽の光を受け入れていただろうか。あなたの存在はそんなにも、大きかったのだろうか。舞うほこりが白く、光の筋を浮かび上がらせる。視界がにじむのは、きっとそのほこりのせいだ。

水原月 @mizootikyuubi
カラコルの殻を握り締め、明星よりも見つけにくい水星を探しながら、家に帰る午後五時。
水星出身だと言い張っていたあの子は、明日には故郷のスペインに帰ってしまう。最後にと、カタツムリの殻をくれた。あの子の国では、カタツムリをカラコルと呼ぶらしい。
夕日の傍には水星がある。見えずとも。

ぱぱお @papaolite
あの子が抱える今日の卑屈を、みすぼらしい花束にして、それからそいつを火に焼べて、踊り狂っている間、パチパチと音を立てて弾けるだろう。舞い上がる火の粉が夜空に溶け込み、明日にも星になっているのだというのは、くだらない作り話。
結局あの子はため息ついて、俺もそうで、何も言えずにいる。

aina @beachbooks2021
太陽の周りに丸い虹が出ていた。空にスマホを向けると眩しくて、何回か撮影したけれど、きちんと画面に収まらなかった。私は海で見たのだけれど小学校からも見えたみたいだ。娘が持ち帰った学校だよりに写真が載っていた。ハロというのだそうだ。明日は延期が続いていた運動会。やっと、雨が上がった。

aina @beachbooks2021
薄明色の苹果は朝の光の味。靄に佇む花は、私の知らない太陽を待っている。部屋が暗闇に取り残されていく。あなたのダンスと歌声は消えた。罪のシノニムをと問う。幻想という答え。夕暮に目醒めてせっせとコーヒーを淹れる毎日。震える手でカップを掴むの。子猫の話ばかりしないで罪のアントを答えて。

.kom(サイトからの投稿)
そうだ、天気予報を確認しなきゃ。最近、雨が多いから、せっかくのお花見だしもう今週が最後のチャンスだから。えっと、明日の天気は曇りで降水確率は40%か。微妙。なんかこんなの多いな。ハッキリしないの。雨でも晴れでもなく曇り。しかも降水確率40%。優柔不断な僕みたいだ。

MEGANE @MEGANE80418606
私はスポットライトだ。きらびやかな衣装で踊り、歌う演者たちのステージで適切な瞬きをするのが仕事。彼女らの明るい笑顔を凝視することもあれば、悲しみに暮れた場面では目をつむる。「明かりを消せ!」ある日、スタッフが叫んだ。だが、私は舞台の上で血を流して倒れた彼女から目を逸らせなかった。

UFO @index_0512
タイムスリップの実験は見事成功した。これで皆、私の発明の偉大さを理解するだろう。降り立ったのは、明治時代の日本。私は、それを証明できる情報をいくつか収集した後、意気揚々と現代へ帰った。
そして私は絶望する。帰還したのは、私の知る世界とは違う、驚くほど文明の発達した現代だったのだ。

UFO @index_0512
おばあちゃんから貰った鈴は、丸くて茶色くて、チョコレートみたいだった。昔やっていた喫茶店で、ドアベル代わりに付けていたらしい。ヒョイと口に放り込んでみると、お腹の中でカラコロと音がした。おばあちゃんが明るく笑った時の声音に似ていた。カラコロと、私自身が小さな鈴になったみたいだ。

UFO @index_0512
目覚めの景色は、仄暗い洞窟の闇。虚無に彩られた狭い筒の中を、ドット達が等間隔に進み降りていた。
彼は生まれたばかりの足を踏み出し、登った。殻も、枷も、そこには無い。ただ、その先にある何かを見たくて。果して、己の足で巣穴を抜け出した一匹の小さな蟻は、夜を明かす無限色の眩しさを知る。

二郎丸 大 @JiromaruHiroshi
明るい光で目が覚めた。目覚まし時計よりずっといい。自然のリズムで生きるのが一番。誰かの決めた予定や計画に合わせるのは疲れた。今日も一日会議ばっかりなんだよな、全く。
あれ?君は誰?天使?君が僕を起こしたの?
なんだ、そうか、そういうことか。もう終わり?もっと自由に生きれば良かった。

八代匠人(サイトからの投稿)
「『明』って日本語は傲慢だ」蝉の亡霊が僕の隣で呟いた。
「日も、月も両方入ってやがる。欲張りだろ」
「良いじゃないか。一文字で二つ楽しめる」そう答えると、蝉は羽を鳴らして「俺は生前見た事無い。土の中で死んだからな」
蝉の亡霊は月に向かって、飛んでいった。自身の立派な羽を鳴らして。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
蕾の形をした燭台に明かりを灯すと、壁に大きく映し出される。壁の蕾はほころび始め、微かに甘い香りを運んでくる。しかし燭台は硬い蕾のまま。この美しい花の名前も、どうして壁に咲くのかも、いくら調べても分からなかった。こうして母から受け継いだ不思議な燭台は、今度は娘へと受け継がれる。

雪菜冷 @setsuna_rei_
図工の時間。真っ白な画用紙を前に僕は微動だにしない。「描かないの?」「明るい色がいいんです。白が一番明るい」痩せ細って痣だらけの手から先生は黙って筆をとり左端に黒い一本線を引く。隣に紺色、群青色、花色、水色、白縹……僕は涙に濡れていた。影ある『明』は『明』だけの世界より美しい。

江川知弘(サイトからの投稿)
雨に濡れて冷たく、どんよりと重くなった服たちを全部脱ぎ捨て、お風呂に飛び込んだ。一気に肩まで浸ると、さらに頭まで浸かっていき、そのまま底まで沈んでいった……。温かな水中で目を開けるとぼんやり赤く明るい。不思議な感覚に包まれた。まるでお母さんのお腹の中にいるかようなそんな気がした。

4月15日

江川知弘(サイトからの投稿)
仕事の失敗、失恋。明里は現実から逃げた。だが逃げた先には熊本城が立ち塞がっていた。明里は悟った。もうここから先へは行けないのだからどうしようもない。戻らないと。戻って現実に立ち向かわないと。熊本城だって震災で傷ついても復興に向けて、前を向いて懸命に頑張っている。今の私なんか……。

花房めい @fffobooo
「あんた明日宿題やるってこれで何回目よ」母ちゃんの頭にツノを生えさせてしまったようだ。だが、俺はここで諦めない。春休みは絶対勉強しないんだ…!ここは嘘と事実を混ぜた巧妙な手口を使うしかないらしい。「明日太郎と野球してから勉強するんだよ」「……。……あんた明日学校じゃない」

はなぐるま @hanaguruma26
光に向かう。樹も花も、魚も鳥も人も。明るさを求め進むのが、命だとするなら。それならば、私が今日した選択も明るい方へ向かうためのものだと思える。間違いはない、正解もない。大丈夫。ただただ、明るいほうへ。進むことが命だから。そうして救われることがきっとあるから。だから、大丈夫。

立川盛将(サイトからの投稿)
 春の明け方の冷たい硝子窓が白く曇って、指先に触れる。雨の音はまだ柔らかく、走る車のタイヤが水を巻き込んで通って行く。僕の前髪はまだ少し濡れて、肌は白く冷たく、少し震えて、それでも空の向こうが明るくなってきた。昨日、雨の中を走った。夜。そうして「決めた」と思った。どう生きるかを。

久保田毒虫 @dokumu44
日曜日の午後。公園でひなたぼっこしていると空飛ぶ円盤が降りてきた。すると中から宇宙人が出てきて声をかけられた。「最近の地球は暗い話題ばかりですね。何か明るい話題はありませんか?」「明るい話題ねぇ。あったけど無くなってしまったよ。あなたが降りた場所。そこにたんぽぽが咲いてたのに」

伊古野わらび @ico_0712
それは突然現れた。元太陽系惑星と同じ読みの「明王星」と名付けられたその星は満月よりも明るく、日中も太陽に負けじと煌々と情熱的に輝き続けた。
そして七日後突然消滅した。
ただその消滅を観測した者はいなかった。明王星が七日かけて人類は勿論、生命あるもの全てをその熱量で焼き尽くしたから。

松浦照葉(サイトからの投稿)
春は出会いと別れの季節だ。早起きして明るい太陽が昇っていくのを見つめていると小さなことで悩んでいる自分が嫌になる。一日の元気を太陽からもらい、明るい昼間の楽しい時間を過ごす。日が沈む頃になると真っ赤に沈みゆく太陽に別れを告げ、ネオンで明るくなった町に消えていく毎日を過ごしている。

みれ(サイトからの投稿)
コロナ、物価上昇、戦争などの現状でも私たちは質素な生活の中で幸せを得ている。学業、仕事に多くの時間を費やす。自由な時間は少しだけ。上手くいくことのほうが少なく、成功はごくわずか。また明日もそうだろう。
それが幸せの黄金比なのかもしれない。

山尾登 @noboru_yamao
あれが宵の明星だよ!迫る夕闇の彼方を指した彼の指先が、街灯の明かりの中で僅に震えている。次の瞬間、彼は私の柔らかい唇を激しく奪った。彼の胸の中で身動きできない。抱き寄せる彼の腕力が、増していくのを愉しんでいる私。まるで蹂躙のような、容赦ない互いの抱擁は、二人のゆるぎない愛情証明。

イマムラ・コー @imamura_ko
大学の勉強の為たまに古本屋を訪れる。母親に「古いアイドル雑誌とか見に行ってるんじゃないの?」と心配される。そんな趣味は全くないよと言い今日も古本屋へ行くと、たまたま「明星」という雑誌が目についた。昔のアイドル雑誌だ。満面の笑みで表紙を飾っている昭和のアイドル。若き日の母親だった。

緒方 雨(サイトからの投稿)
窓に頭をつけて覗き込むと満天の星空。「綺麗だね」と母は、夜の高速道路を運転しながら言った。「どうだろう」と、私は頬杖ついて助手席で呟く。「星は気持ち悪いよ」ポコポコと現れて、いつの間にか空と私の頭を覆うから。就職浪人には直視できない。母は口をつぐんだ。ああ早く、夜よ明けてくれ。

ごとーつばさ @WDtuAagXqqXSIO8
みんな葉桜になると「散っちゃったね」「桜終わっちゃったね」って言う。だけど私は生き生きとした青々しい葉っぱが好き。桜の花は華やかで明るいけど、やっぱりちょっと寂しい。一瞬の美しさだけじゃなくて継続した青さも必要だよね。
なんて強がりを新入社員にしてみた。

四月一日 云 @watanukinimu
オンラインゲームで知り合い、雑談するようになった頃、お互い読書好きなことが分かった。読みかけの推理小説の話をすると、彼も同じ本を読み始めたところだった。何気ない偶然に、心が跳ねた。

今、傍らで本を読む彼が言う。
「明日発売の新巻、どっちが先に読むかジャンケンね」
買うのは、1冊だ。

石森みさお @330_ishimori
ある朝みんなが自分の名前を失くしてしまって、だから代わりに名付けの由来を名乗るようになった。健康な男です。優しい人です。苺のように可愛い子と名乗った人は少し面映ゆそうだ。明るい方へゆきなさい、と願って付けられた私の名前は何処へ行ったのだろう。花の咲くような響きだった、私の名前は、

ありたちか(サイトからの投稿)
旅立ちを決めた時だった。眼下に巣食う無限の闇に、一筋の小さな光が灯る。人影が動く。手にしているのは大きな桶、そしてホースだろうか。僕の眼は、忙しく動くその影を追う。

…夜が明けたら、あの店まで歩いてみようか。できたての木綿豆腐でも食べながら、もう一日だけ生きてみるのも悪くない。

灯月朝(サイトからの投稿)
「娘のよう」「まるで孫」
二月の折、連日自称家族たちのインタビューが流れる。パンダの永明一家が中国へ帰る日、別れに涙する人もいる。よくもそこまで思い入れがあるものだと、俯瞰していた。だが、映像を観た感想は「可愛い」に尽きた。明くる日から、持ち物にパンダが増えた事はここだけの秘密。

酒部朔 @saku_sakabe
どんどんと穴を掘る。スコップが石に当たって火花が散る。おれの墓穴。おれは臆病でもない。卑怯でもない。おまえだけだったのだ。虫が逃げる音。夜が明ける前に方をつけたい。次第に逆光がおれの輪郭を焼く。太陽は背中を温めた。生きて、と。涙は痛くて、そして熱いんだな、そう思って穴を埋めた。

酒部朔 @saku_sakabe
宇宙の青と地平から滲むオレンジ、浮かぶ明星。末の妹がぐずって眠れないので、おぶって散歩をしている。あ、あ、と星を掴もうとしている妹。小さい靴が私の服を汚す。よだれを垂らす。妹が大きくなったら、その星に悪魔の名がついている事を教えてやろう。日に日に重たくなるかわいい悪魔に。

裕登 @yuukotou
誰かにときめきたいけど、その人が私にときめいてくれるか分からない。
明るい性格という訳でもなければ、可愛くも美人でもない残念な私。
せめて自分自身は認めたいとセフルハグしようとして止めた。
両親ですら娘である私を愛さずにいるのに、そんな自分を抱き締められない。
私は要らない人なのよ。

渡辺楓(サイトからの投稿)
カーテンを開けた。明るくはなかった。空の色だけで推測する。十六時。いや十六時十分か。これでもかという程のオレンジがこちらを照らしていた。遠くに見える線路の上を電車が横切る。風が素通りする。時間を忘れた。景色に背を向けると、自然と時計に目がいく。十七時三十八分だった。

4月14日

【第3期星々大賞受賞者】
のび。
 @meganesense1
青空から一粒の雫が落ちてきたかと思うとたちまち土砂降りになった。海水浴場から逃げ出すように人がいなくなり、砂浜の足跡も消えた。その中で、ただ一人の青年が泳ぎ続けていた。挑むような泳ぎ方だった。彼の姿、心は誰にも見えない。雨が止んだ。青年は微かに笑った。少しだけ明るい海だった。

Ts(サイトからの投稿)
明という少年について思い出す。季節は想像より遥かに早く、気がついたら大人になっていた季節の変化同様に不思議な気持ちになるが、人間である以上もしかしたら登竜門なのかもしれない。また新しい季節が始まる。

迷路メィジ @Akumademeiji
都会の夜は、落ちかけたメイクのみっともなさに気付く程度には明るい。
通りかかったモール内のトイレにかけこみ、顔に粉をはたき直して、待合せ場所に向かう。
世間が「普通」に戻った今、味もわからない食事で腹を探り合うため、笑顔の仮面で武装する。私が「普通」に幸せだと世間に馴染めるように。

わか @1975_kaz
Heartが明滅している。
幾重もの挫折や苦渋を嘗め、それでも伝えたい事をほんの僅かな技量で形にしたもの。
それが人の手に渡る。
それがその人の人生の一部になる。
自分の大切な子供を託すような、そんな想いを受け取り育ててくれる。
その行為が、その心が、どれ程命を震わせるだろうか、手を握る。

草野理恵子 @riekopi158
「赤い塔がある。あの塔にこそたくさんあるかもしれない」そう言って舌の入ったコップを私に投げつけ、行ってしまった。それから私は舌に水をやり育てている。うまくやれば舌は増える。なのになぜ塔を目指したのか。捨てられた場所に紫色の舌が咲いた。明るいばかりで誰もいない地にまた舌粉が飛んだ。

草野理恵子 @riekopi158
間違いが多いので隣にいる人は灰色になった。灰色と言うか薄くなっている。ペラペラの灰色になって、それでも私に寄りかかる。私だって今右半分は灰色がかっているのに。あきらめてそのままにしていると、妙に明るい気分になり、トラックに乗って紙のような手を振りたくなる。灰色の紙がちぎれ飛ぶ。

此糸桜樺 @Konoito_Ouka
空がほのかに明るみ始め、太陽が地平線に顔を出す時分。私は、ふと顔を上げた。明星が薄々とした光で地球を照らしている。弱々しくて華奢な光源に、少し心配になる。
試しに「どうかしたの?」と問うてみた。すると、ふっ、と光が左右に揺れた。私は微笑して、朝の一番星に「大丈夫だよ」と呟いた。

裕登 @yuukotou
彼がお腹を空かせてうちに来た。食事を済ませたら満足したのかベッドに横になる。2人でシングルベッドは窮屈。今夜も彼は手を出してこないくせに私の腰に手を置き、そのまま静かな寝息を立てる。この手にずっと私は縛り付けられている。明るいままの部屋の電気を消した。そこには私の心の闇が広がる。

さくり しお(サイトからの投稿)
「ママ見て、きらきら星がいるよ。」幼い娘が、生えたての歯を剝き出しにしながら笑みを浮かべている。無邪気にはしゃぐ彼女を見て、母親もつい笑みが零れる。明日から、娘は幼稚園に通い始める。新しい世界に一歩踏み出すのだ。母親は寂しさを胸に、娘は期待を胸に。2人は宵の明星をじっと見つめた。

TAKA001 @001TAKA
レコードに針を落とす。A面20分以上の大作が静かに始まる。時折スピーカーから松明がはぜる音が響き、私は漆黒の森を彷徨う感覚の中にいた。
今日も地球は争いを静観し回り続ける。かつて音楽を盾に独裁者と対峙する時代があった。不協和音の世界の中で、悲鳴に似たギターソロが名も無き民の死を悼む。

4月13日

鈴萄 凛(サイトからの投稿)
山口で魚と言えば下関のフク。あるいは津和野の鯉だろうか?だが私は萩の明神池の魚たちを押したい。海でもないのにイシダイやエイが所狭しと泳ぎまわる。漁の安全と豊漁を祈り奉納した魚が増えたという。撒かれた餌をトンビが狙い、負けじと魚が空を舞う。その壮観な光景に私はいつも心奪われるのだ。

鈴萄 凛(サイトからの投稿)
口にはチョコがべっとり。明らかに犯人はサチだ。なのに絶対違うと首をふる。食べてしまったのは残念だけど、ごめんなさいで許してあげる。出しっぱなしの私も悪いから。サチじゃないなら誰かしら?家には二人だけなのに。サチは真面目な顔をして、ママだと思うと言い出した。流石にそれはありえない。

温水空 @soranukumizu
一人の発明家がいた。彼は「すごいものを発明する方法」を発明したいと考え、研究に明け暮れた。朝夜朝夜……。何度繰り返しただろう。何十年もかけて、彼はその方法を発明した。それによって、彼は苦労しなくても常に素晴らしいものを発明できるようになった。でも、彼はすぐに発明をやめてしまった。

鈴萄 凛(サイトからの投稿)
期末テストまで1週間。ずいぶん前に勉強を始めたが、息切れしてやる気が出ない。漫画が気になって全巻読破。突然模様替えに燃え始める。あと3日ある。あと36時間はある。あと720分もある。まだ1200秒もある。テスト前日から毎日貫徹。眠らず5日を過ごしたら、夜が明けただけで笑えてきた。

塩水アサリ @Asaris5
明朝体。飾り気のない黒で書かれた名刺。顔を上げ、辺りを見回しても、閑静すぎる住宅街には人っ子一人見当たらない。何度も見た名刺の裏側。そこの電柱に書いてある番地はどこだろう。嗚呼、ここは。袋小路の五叉路。

こたろう @tDdKt587KklMAWJ
月明かりだけを頼りに僕等は約束の場所で落ち合った。捕まればきっと殺される。土の上に筵を敷きその上で僕等は愛し合った。何度も何度も。
近くで役人の声がして犬が吠える。
僕等は頷いて匕首でお互いの腹を刺した。彼女の生暖かい血が僕の手を浸す。
そして死に損ないの僕が今この文を書いている。

小鳥遊 @takanashi_25325
母の喪が明けた。私と母は仲の良い母娘では無かった。私は早くに家を出たし、母が亡くなったと聞いても悲しみより、どこかホッとしていた。ふと母はどんな声だったか?と考えてみたが頭に浮かばなかった。しかし後日スーパーで苺を見た時、ふいに「私、苺好きなのよ」と言う母の声が聞こえてきた。

陽向 未 @himukai_imada
「明かりを」
 強張った妃が囁き声で命じる。
 自分の手すら見えない洞穴の闇の中、即座に侍女が燭台に火をつける。辺りがにわかに照らされる。
「王よ……」
 妃はため息をついた。
 ふたりが見たのは、一心不乱に壁に絵を描く王の姿だった。それも妃そっくりの、とびきりの美人画を。

陽向 未 @himukai_imada
彼女が『明姫(あかるひめ)』であることを知ったのは、私一人で行った納骨の時だった。
 荼毘に附した時、その骨が熱に反応し宝石になるという伝説の存在。
 彼女だった宝石は、彼女の好きな赤に輝いている。
(私が火に焼かれるまで、一緒にいよう)
 躊躇なく、私は「彼女」を飲み込んだ。

渡辺楓(サイトからの投稿)
私の机の引き出しは二種類ある。一つは物を収納するための引き出し。もう一つは、息子が過去にあった嫌な思い出を全て自動的に忘れる代わりに、記憶として保管する引き出しである。来年家を出ていく息子にはこの存在を伝えるべきなのか。息子の明るい性格の裏にある真実は父である私だけが知っている。

須田キョウジ(サイトからの投稿)
多分、明日になったら分かるはずだ。手に入れたと思った次の瞬間失う理由も、手を繋いでいるのに心は離れていく理由も、愛の意味も、他人が存在する理由も。きっとそれが分かったら、私は皆に「あの人は変わってるね」と言われずに済むだろう。私は生きてていいと言ってもらえるだろう。明日になれば。

モクセイシンワ(サイトからの投稿)
車窓から明石大橋が見える。帰って来たんだなと思う。
故郷である兵庫県明石市。明石城や子午線上に立つプラネタリウムや魚の棚。早く明石焼きも食べたいな。
私はここでまた生きていく。嫌なことも、いいことも、夢も全部東京に置いて来た。
大好きなこの町で、新しい夢を追いかける。

モサク @mosaku_kansui
日の出前の東の空で金星は寂しかった。「この明るさも、お日様が本気を出せば忽ちかすんでしまう」日が落ちた西の空で金星がため息をつく「他の星よりも早く、一番乗りしないと気づいてはもらえない」真夜中の金星はうっとりと夢想する。わくわくする夜明けや静かな宵の口に、光り輝く明け星たちを。

アスパラ山脈 @yamaasupara
学校の帰り、通りのボロアパートから大きな話し声が聞こえてきた「まったくとんだミラクルだよな。俺は日本を支配した徳川幕府の末裔で、お前は中国を支配した明王朝の末裔ってわけだ。」そんなわけあるかと覗いてみたら、軒下で汉服 と着物を着た髭もじゃの二人の男が酒を飲んでいた。本当に末裔かも

桜花音 @ka_sakura39
『明けない夜はないよ』
キミはよく言っていたね。
先が見えない絶望に苛まされそうな中、それでも笑顔でその言葉を発していた。
今、苦しみから解放されたキミは、光を感じているのだろうか?
キミがいない世界、僕は絶望に飲み込まれそうだけど、キミの言葉は忘れないよ。
『明けない夜はない』

モクセイシンワ(サイトからの投稿)
「てるてる坊主てる坊主」と娘が歌いながら、てるてる坊主を作っている。
明日は遠足だけど、今日は一日土砂降りで、明日もこの分だと、遠足には行けそうにはない。
そんな事は娘には言えず、お父さんにもどうしてやることもできないが、健気にてるてる坊主を作っている娘を見ていられる私は幸せだ。

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予選通過作 受賞作

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