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【馬と人の関係】Wet? or Dry?

「ホースハーモニーはウェットですね。」
あるエアラインパイロットのお言葉。


1. ホースハーモニーはウェットなファンタジーか?

飛行機が大好きな私は、メールのやり取りから、Aさんがパイロットと聞き、Aさんがいらっしゃるのを楽しみにしていました。
その日、馬場横の洗い場でコーヒーを飲みながら、ホースハーモニーのご説明をAさんにしました。

Aさんは続けます。
「僕はやはり、ドライにコマンドどおりに動いてくれる方が安心だな~。
疲れませんか?ウェットな関係は。

「うへっ!」(私の心の反応)

か、かろうじて質問し直します。
「私、ウェットですか? それは、馬を道具として見ていないからですか?」

「あなたの馬との付き合い方は、とても素敵な『ファンタジー』ですね。
でも恐くないですか?
何するかわからない、言葉の通じない相手は。
安定してコマンドどおりに動いてはじめて信頼できると思うんですけど。
『ファンタジー』に限界はありませんか? 
こちらではどのように『調教』されているんですか?

心の声
「ファ、ファンタジー? 調教?
何するかわからない、言葉の通じない相手って・・・。
そもそも、この人は何を求めてホースハーモニーを予約したの?」
(ひさしぶりに動揺しました。人間、恐るべし!)

「ん~~。まぁ、馬が何をするかわからないという不安はありませんね。
いつも「感じて」接していますから、
それよりも、本当に恐いのは、私の心が馬から離れていることに、私自身が気づいていない状態ですね。そうならないようにしていますよ。
言葉については、心と体が一致した状態でボディランゲージで会話しますから、まぁ、私の英語力でアメリカ人とVerbal communicationするよりは遙かに通じますよ。」

「とりあえず、やってみましょう!『百聞は一見に如かず。』です。」

Aさんにコマンド?を教えました。丁寧に。
山本五十六元帥の言葉通り、
やって見せ
言って聞かせて
させてみて・・・。

でも、いくら説明して、やって見せても、Aさんの「コマンド」はルーカスには通じません。ルーカス、動きません。
(内心、ルーカス、グッジョブ!)

Aさんが、「やっぱり経験かな。」とか「そりゃ四六時中一緒にいれば、馬だって覚えるよね。」などなど、原因を外に求めます。それも支離滅裂に。

「一休みしましょうか。」休憩を促します。
Aさんが一人で空回りしているような気がしました。

私はルーカスとタロウさんに干し草のおやつをあげてから、またAさんに向き合います。

今度は私の方から質問。
私:「Aさん、オートパイロットの時って、機体の動きを自分の体で感じとることはありますか?」

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Aさん:「もちろんですよ。オートパイロットはあくまでも安全に運行するための支援システムの一つですから。コントロールしているのは人間ですよ。」

ほっとしました。この回答に。

私:「じゃぁ、飛行中、翼の揚力変化を肌で感じたり、気圧変化で機体が受ける外力を体感することもあるんですか?」

Aさん:「もちろん、体感できますよ。っていうか、それが当たり前ですよ。」

私:「では、さっき、Aさんのコマンドでルーカスが息を詰まらせたり、体重移動でバランスを崩しそうになったりしたのは感じられましたか?」

Aさん:沈思黙考・・・。「いや、感じなかった。気づかなかった。」

2. なぜ機械は信頼できて、生き物は信頼できないのか。

私:「なぜ、機械の振る舞いは体で感じることができるのに、生き物の振る舞いは感じることができなかったのでしょう。
じゃ、次は思いっきり『ファンタジー』でいきましょうか。
『ファンタジー』で。
ルーカスの背中に翼があって、Aさんがペガサスに乗ってるつもりで。
ルーカスの翼の揚力を感じるつもりでやってみましょうか。
『ファンタジー』で。(^^)

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Aさん、今度はルーカスに「コマンド」を出して、ルーカスが思い通りに動かない時は、先ほどのように「力」でしつこく指示を出すということをしていません。

馬上で深呼吸をしています。やっぱり飛行機乗りだなぁと思いました。

「両手を広げて、空気をまとって、風をはらみながら、静かに離陸してみてください。」

Aさん、「はっ!」とした表情をしました。
その瞬間です、ルーカスは静かに一歩踏み出しました。

またまた、ルーカス、グッジョブ!


3. Aさんの本心

Aさんは、その後しばらく、楽しそうにルーカスに乗馬しました。
先ほどまでの、あの心の鎧は何だったのでしょう。別人のようです。
「わかります! わかりますよ! 感じます!」
生き生きとした表情で、馬上からお話しくださいます。
ルーカスも楽しそうに歩いています。

馬を下りて、洗い場でコーヒーを飲みながら、Aさんは話してくださいました。
あまりスキではないウェットな機長や、ドライなCAたち。
じつはその中には意中の女性もいて・・・。

その誰とも納得がいくコミュニケーションができないこと。
言いたいことが伝わらないこと。
相手の言ったことを誤解してしまうこと。
自分の質問と相手の回答がちぐはぐなこと。
人と話すのが苦手。「空気」を読むこと、苦手。

だから、ドライに職務上の話しかしない・・・。
だから、機械の方が安心できる・・・。

私はAさんに質問しました。
「それで、ルーカスはドライでしたか?ウェットでしたか?」
Aさん:「ルーカスはルーカスでした。ドライでもウェットでもありませんでした。」

私:「ルーカスを機長さんやCAさん達に置き換えて接したら、おもしろいでしょうね。」
Aさん:「多分、相手をルーカスと思って接すれば、もっと優しく、圧力を感じないで私の思いを伝えることができると思います。
自分の両手で飛び立つイメージを思い出せば、やさしいニュートラルな気持ちになれると思います。
あのアドバイス最高でした。私にぴったりでした!
あの瞬間、ルーカスと心が繋がりました。」

私:「ホースハーモニーは『ファンタジー』でしたか?」
Aさん:「まぎれもない『事実』でした。まさに今、ここ、自分でした。
いまのこの癒やされた安堵感。ウマってすごい生き物です。僕は今までこんな素直な気持ちで人と接したことはなかったです。」

私:「西洋の騎士達は、ウマを『調教する』と言わず、ウマと『瞑想する』と言ってたそうですよ。」
Aさん:「なるほど・・・。そうでしたか。そうですね。調教っていう言葉はなにかしっくりこないですね。今のこの気持ちに。」

日々、馬場から見える遙か上空を飛行する航空機。
私たちはAさんの凜々しい姿を思い浮かべながら、見上げていますよ。

おしまい。

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