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フラッシュバック・後記

※本編はこちらから https://note.mu/horsefromgourd/n/n697858cb4ac5

※縦書きリンクはこちらから https://drive.google.com/open?id=11cjfknbZ9RiEigNVG2hhtV-eKDPWteOc

 たった十数ページの短編になにがあとがきじゃえらそうに、と自分でも思うのだけど、なんとなく自分のために書いておいたほうがいいような気がして、書く。

 この短編は、みっつの全く関係のない事柄から着想を得ている。

 ひとつめは、一枚の写真だ。

 「冷凍都市でも死なない」の主催者である野口翔平さんという方がTwitterでアップしていた、初夏の写真である。
 何だか妙に気になる写真で、年が明けるまでMacbookの背景にしていた。しばらくの間は、いつもそれを眺めながら小説を書いていたということになる。
 この小説の表紙になっているのがその写真だ。重機が墓地を平地にする風景を切り取ったものである。

 ふたつめは、小さな文芸誌だ。

 「文藝誌 園」は、あくまで作り手の目線が貫かれた文芸誌だと思っている。
 風景をそのまま切り取って来るのではなく、編集者がどう感じたかまで描かれていた。僕の好きな感じの雑誌だ。 加えて、文芸誌の定義がよくわからないが、当初のイメージとは異なり、創作は少ないのに、あくまで「文藝誌」と書かれているのが良かった。
 言い方が適切かどうかわからないけれど、取りとめなくて見逃してしまうような事象を、編集者がちゃんと捉えた上で言葉にしていると感じた。
 こういうことを、小説でもやらないといけないのだと思った。つらつら読むうちに、大学時代に住んでいたアパートの風景が浮かんだ。

 みっつめは、冬の記憶だ。

 中学生の頃、日がとっぷり暮れた頃に家に帰りつくと、生垣の前で倒れている老婆の頭を見た。
 はっとなって慌てて駆け寄ると、それは前日に僕がかいた雪の山だった。スコップを深くつきすぎて、泥も一緒にかいていたため、薄く灰色に汚れた雪なのだった。
 雪が降ると、その時のことを思い出す。
 違和感があるのだ。もしかしたら今の自分は、はっとなってそこに駆け寄ることはもう出来ないかもしれないな、と思うことがある。あの時倒れている人にすぐ駆け寄ることが出来た人格は、果たして今も自分の中にあるのだろうか。
 あの時の老婆が、もう一度倒れていてくれなければ確かめようがない。

 小説の中の季節が夏になったのは、野口さんの撮った写真が夏だったからだ。
 自分の記憶を掘り起こして創作してみようと思ったのは、「文藝誌 園」を読んだからだ。
 老婆は、あの時生垣の前に残っていた雪の塊だ。

 物語を書くという営みは、めちゃくちゃ不思議だなと思う。その質をもっと高めなければならないということはともかくとして、自分がぼんやり頭の中に描いていた感情や情景が、テキストによって輪郭を帯びて浮かび上がってくるということについてである。何だかこれは、毎回奇跡のようだなと思う。はあー奇跡みたい、何コレ、といつも思う。そのせいで誤字脱字に気づけない。
 僕にとって何か書くという行為は、儀式のようなものだ。あんまりロマンチックでない喩えだけど。幾つかの要素を頭の中の魔方陣に並べて、その真ん中に何か浮かび上がって来ないか、念じながらじっと待つ。

 野口さんに写真を使わせてもらえないかとメールをお送りさせていただいた時、「ご連絡ありがとうございます」という文頭の挨拶の後、すぐに添えられていたのがこんな文章だ。

 自分の写真が自分の知らないところで物語が生まれるのに関与してるの、なんだかすごく面白いし嬉しいなと思います。

 自分の小説がどうというわけではなく、もうそれ、めちゃめちゃわかる〜と思った。 きっとプロの小説だって、何か取りとめのないようなことに起因して生まれているのだと思う。本屋には奇跡が並んでいるし、ネットにも奇跡が溢れているのだ。自分が見逃してしまうような些細なことから、誰かが何かを見出していることはすごく神秘的だし、なぜ自分がそれに気づけなかったのだろうといつも嫉妬する。

 いつか、自分も何かの奇跡に関与することが出来ればと思う。
 まだアマチュアだからこそあえて、少なくともインスタントではないテキスト全般を「奇跡」という強い単語で称しておきたいと思う。


「冷凍都市でも死なない」と「文藝誌 園」は、どちらも街や人に向けるまなざしが良いです。これもやはり、奇跡だと思う。それもとても軽やかな感じのする奇跡で、心地がよい。
すごく嫉妬しながら読んでいます。僕も頑張ります。

冷凍都市でも死なない  http://www.shinanai.com/
文藝誌 園       http://sono-magazine.jp/


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