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読書感想文『流浪の月』凪良ゆう

2020年本屋大賞受賞作品である、凪良ゆう『流浪の月』。

凪良ゆうという名前は『私の美しい庭』で知りました。『私の美しい庭』を読んだ後に、本作品を書店で見かけ、ずっとずっとずーっと気になっており、やっと読むことが出来ました。

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この本は、彼女"家内更紗"と彼"佐伯文"、そして少女"安西梨花"が、ただ一緒にいたいだけの話です。

一緒にいたいというのは、結婚したいとか男女の話でも、親子になりたいとか家族の話でもありません。ただ、この人が好きでそばに居たくて、ただそれだけなんです。

この話を読んだ時、意外と世の中はこの話みたいなことが多くあるんじゃないかなと思いました。


以下、あらすじです。

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家内更紗は、世間一般からしたら変わった夫婦の子どもでした。更紗たち"内側"からしたら、お母さんはお父さんのことが大好きで、更紗もお母さんとお父さんが大好きで、お酒を飲んでいる両親の間に座って2人と同じくような色の飲み物をサイダーに色付けして作って飲むことも、暑い日にアイスクリームを食べることも、重いランドセルでは無く自分の好きなバックで登校させて貰えることも、全てが大好きで幸せな事でした。

しかし、世間一般の"外側"から見たら、不可解で理解のできない家族であり、お父さんが大好きでキスをするお母さんも、お酒を飲むお母さんもおかしい事でした。また、お酒に似たものを作って飲んでいたのに、周りにとっての正義のために、更紗はお酒を飲む不良として同級生に訴えられたりもしました。

更紗にとっては周りの目や陰口は大したものではありません。ただ好きな両親と好きな事をして笑いあって過ごす事が幸せで、その幸せの中にいたからです。

しかし、更紗のお父さんは亡くなります。そして、お父さんのことだけが大好きだったお母さんは、ショックを受け、男を作って出ていってしまい、残された更紗は叔母さんの家に引き取られることになりました。

おばさんよ家に行ってからは、"外側"の人間達に染まれるように努めました。嫌なことも我慢しました。叔母さんの家には、年上の男の子がおり、男の子は更紗に対して嫌なことをし続けました。成長するにつれて、更紗は風呂に鍵をかけなければならないようになります。また、部屋には勝手に入られ、夜な夜な身体中を触られました。

そんな生活を送るある日、周りの子たちと同じようにランドセルを背負って帰り、同じように公園で遊び、同じように笑っていると、1人の若い青年を見かけます。友だちの話だと、本を読んでいるふりをして、こちらを見ているロリコンだ、という。更紗は、家に帰りたくないと思ったある日、友だちとさよならして帰るふりをし、公園に戻ってきて、本を読みます。しかし、青年はひとりで居る更紗には近づくことはありません。安心した更紗は、こんな生活が少し続きました。

ある日、また同じように居ると、雨が降ってきました。でも、更紗は帰りたくありません。すると、今日もベンチに居た青年が初めて話しかけてきました。彼は、佐伯文と言いました。

更紗を見た文は、うちに来るかと言います。それは、下心のあるものではありません。そして、更紗は文の家に行き、更紗と文の奇妙な生活が始まりました。

更紗は平和で、幸せでした。身体中を触る男はいない。周りと合わせなくてもいい。暑い日のご飯はアイスクリームを食べてもいい。

文は大学生だったので日中は家にいませんが、それでも更紗のことを安全に住まわせてくれました。

しかし、世間一般からしたら、それは誘拐事件です。世の中は大事になっており、ニュースが流れていました。

それでも、文は変わらず更紗を安全に、安心できる環境のなか、家に置いてくれました。そして、更紗がパンダを見たいと行った時には、どうなるか分かっていたはずなのに、更紗のために動物園に連れて行ってくれました。

しかし、その事で世間一般に、誘拐事件の被害者家内更紗とその誘拐犯の佐伯文は見つかり、ふたりは離れ離れになってしまいます。

更紗は文を守ろうとします。しかし、周囲の人間は更紗を、"誘拐されていかがわしい事をされてしまった可哀想な被害者"として鼻から見ており、何を話しても、真に耳を傾けてくれる人は、誰もいません。

そして、事件は起こります。

叔母さんの家に戻ったある夜、嫌いな男が夜部屋に入ってきて、襲おうとします。そこで初めて更紗は、近くにあったもので頭を殴り、抵抗します。そこでやっと、更紗は叔父さんと叔母さんに、これまでの"ふたりの息子"がしてきたことを伝える事が出来ました。しかし、更紗は児童相談所に送られてしまいます。勿論、事情聴取されましたが、どうせ信じてくれないと思った更紗は"叔母さんの息子"の名前を言いませんでした。


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そして、更紗は大人になっていき、ある日幼い安西梨花と出会い、そこでまた運命の歯車が大きく動いていきます。

そして、事件は終わったはずなのに、ネットで更新されていく"家内更紗ちゃん誘拐事件"の情報。

家内更紗という人物や佐伯文という人物など、正直この作品の登場人物たちは皆異常に感じました。でもそれは、"ほろ苦"という人間の視点で見ているからなのかとも思います。

しかし、人物の性格に着目するのではなく、内側と外側や、当事者と部外者の関係がこんなにも残酷に描かれている点、"ただそばに居たいだけ"という純粋な気持ちを描いた点に着目して読むと、少しずつでも自分の幸せを必死に追い求めるという事はとても尊くて、難しくて、大切なことだと思えるのではないでしょうか。







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