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私の夢

"I have a dream" その一節で始まる演説をした人をご存知でしょうか。マーティン・ルーザー・キングJr. は1960年代に活躍した牧師でアフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者として有名な方です。
私が初めて彼の名前に触れたのは小学2年生のころ。黒人差別の残る地域に越してきた私は幸いにもリベラルな公立学校に通えたおかげで小学校低学年からとても先進的なものに触れてきました。しかし、数十年前までひどい人種差別が残っていた地域で育ったということもあって、公民権運動ゆかりの地としてその授業が行われました。

"I have a dream that my four little children will one day live in a nation where they will not be judged by the color of their skin but by the content of their character. "

「私には夢がある。いつの日か、私の4人の幼い子どもたちが肌の色によってではなく、人格そのものによって評価される国に生きることを」というふうに訳せるこのスピーチに私は強烈な感情を覚えました。その感情がいまだにどういう感情だったのかあいまいですが、一つ言えるのは今、私が送っている日常生活が当たり前ではなかった時代がある、ということに驚いたのかもしれません。日本で日本人として生きていればこういった当然ピンと来ない感情ですし、私も良い友人と良い教師に囲まれて自分が差別される側だと感じたことがありませんでした。

それから十数年たち、私はフランス留学にきていた。当時は寮に住んでいて、二人で共有する部屋のドアを極力開けるように、という寮の方針のもと、私もルームメイトもドアを眠るときと着替えるとき以外は開け放ったまますごしていました。
だがある日、ルームメイトと私、そして日本にとても興味を示していた女の子の3人で私たちの部屋で集まっていました。すると、開け放たれたドアの向こう側、廊下の先で誰かがこう言っていたのを聞いてしまいました。「日本って下等文化だよね」と。あまりに突然なことに私は言葉を失うとともに猛烈な怒りを感じました。誰が、どんな権利があってほかの文化について悪く言えるのでしょうか。どの文化も様々な歴史をたどって今に至る。そこに上も下もありません。感情的になって部屋を飛び出しそうになった私より先に私たちの部屋に遊びに来ていた友人が真っ先に部屋を飛び出していきました。あまりの早口によく聞こえませんでしたが、怒鳴り声は聞こえました。「誰が言った」「自分がすごいと思ってるのか」そんな言葉は聞き取れましたが他は残念ながら聞き逃してしまいました。仮に私が飛び出していたところで怒りで口汚くなってしまっていたでしょう。
怒鳴りにいくまで誰かが自分たちに心を寄せてくれている、冷静になった頭で考えればみるみる思考が落ち着いてくる。

たしかに私たちが生きる時代にはいまだに前時代的な人種差別が残っています。肌の色、言葉、習慣、様々な要素で他社を排除しようとする現代に生きています。いくら人種差別はいけません、私たちは同じ人間です、なんてきれいごとを並べても結局差別的な人の前では何にもならない。言葉も、行動も制するものになんてなりはしない。このとき痛感しました、自分はどれほど恵まれた状況で育ったのか。確かにアメリカ、フランスでアジア人である自分は少し違ったものを見るような目で見られていました。ただ、言葉で実際に聞くのは初めてでした。

この世からは差別がなくなるようなことはないと思います。人種差別のない日が理想ではなくなってほしいと切に願います。ただ、いくら人々が願い、次世代につなげる努力をしたところで一定層の前では意味がないことを、私は知っています。他者を下に見ることで自分たちの優位性を見出す人たちはこの世からいなくなりません。他者を下に見ることで自分を保つ人々、それは人種差別でなくても、見た目、障害、考え方というものを基準に差別して己の優位性を見出すのでしょう。そういった人たちに私は理解を示せない、いや、示したくないです。彼らが自分の中で思っているのは自由ですが、それを行動や言動に移すことにはまた別の嫌悪感を感じます。ただただ、彼ら彼女らとは相いれないのだなと思います。

そこで私は願う、この世がたとえ見た目で判断する人がいようとも、それ以上に中身で判断してくれる人がいることを。汚い言葉を投げかける人がいようとも、それ以上に寄り添ってくれる人がいることを。自分の身近な人が差別を受けていたらその人に寄り添って立ち向かえるような勇気がほしいです。せめて自分の周りだけでも守っていきたい。

I have a dream, that one day, there will be more people who can lean over to us, than those who try to degrade us.

私には夢がある。いつの日か、私たちを下に見る人たちよりも寄り添ってくれる人がいる世の中を。

偉大なキング牧師の言葉を勝手にアレンジしてしまいとても恥ずかしいですが、これが私の夢です。

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