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理想と現実の間で(河野啓『デス・ゾーン〜栗城史多のエベレスト劇場〜』を読んで)

あまり語り過ぎると、故人(栗城史多さん)のことを悪く書いてしまいそうな気がするので。短く書く。

登山家・栗城史多さんを取材した『デス・ゾーン〜栗城史多のエベレスト劇場〜』。著者の河野啓さんは、本書で第18回開高健ノンフィクション賞を受賞している。

素晴らしい筆致だが、その分、描かれた栗城さんは丸裸にされている。

理想と現実の間でもがき、時には「死」すら、自らの虚構を正当化するためには恐れない姿勢は、とても僕には真似できない。真似できないからこそ、笑うこともできない。

眩い「光」として注目を集めていた栗城さんの「闇」は、確かに存在していた。

この本を読んで、どこか距離を感じていた栗城さんが身近に感じられた。僕の中に「栗城さんのような感覚」は間違いなく存在している。

そこが窮地に立たされたときに、暴走しないよう、自制しないといけないなと強く感じた。

本書で引用されていた言葉を、しっかりと胸に刻みたい。

栗城さんの「夢の共有」の一つとなったのは、一九九八年の日本テレビのエベレスト生中継だった。この中継を企画し、BCで総指揮を取ったディレクター、岩下莞爾さん(一九九三年死去)は、後進たちにこんな至言を遺している。

あるがままに撮ろう
あるがままに語ろう
在るものはあると言おう
無いものはないと言おう
無いものを在ると言ってはいけない
在るものを無いと言ってはいけない
もう一度
あるがままに伝えよう
(河野啓『デス・ゾーン〜栗城史多のエベレスト劇場〜』P271〜272より引用、太字は私)

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