見出し画像

編集補記(片山壮平さんエッセイ|ふつうごと)

Webサイト「ふつうごと」で毎週公開しているエッセイ企画 #愛を語ってくれませんか

8月にエッセイを寄稿いただいたのは、片山壮平さん。かつて同じ会社で机を並べて働いており、20代の粗相ばかりしていた僕に、優しくも厳しくアドバイスいただいていた方だ。いまではどちらも当時の会社の籍は外れていて、大変ご無沙汰だったのだが、「愛を語る」というテーマを快く引き受けてもらった。感謝しかない。

*

寄稿いただいた4本のエッセイは、企画者である僕の想像をはるかに超える幅広さと、奥深さがある内容だった。

ひとつひとつ追って読んでいただければ分かるが、片山さんが考える愛の定義が少しずつ完成していく。毎週1本、計4本という構成もご自身で考えてくださり、「ああ、こんな感じで愛を語ることもできるのか」と感心した。

おこがましいながら、お世話になった先輩の「個人史」を作れたのではないかという実感がある。

片山さんが4本のエッセイで語ったのは、家族、離婚、転職、亡くなったおばあさまのことで、どれも大変パーソナルなものだ。

腹を割って話すような機会であっても、なかなか語ることは難しい。あまりに語ることが多くて、整理しきれなくて。ときには、自分の恥部を晒すような感覚に陥ることもある。

そういった意味で、とても貴重な話を記していただいた。

*

やりとりの中で、印象に残っていることがある。

とある文章について、僕が片山さんに指摘をした。どのエッセイ / テキストかの特定は避けるが、「これって、片山さんのみの視点で、読み手からするとフェアに感じられないのではないか」といったコメントだった。

いや、ことわっておくが、どんな文章も、書き手本人の視点が色濃く反映されるものだ。私的なテキストを綴るエッセイは、特にそういった傾向にあるだろう。

それでもバランス感覚というのは極めて重要である。個人が日記帳に書くようなクローズドなものではなく、広く読まれるエッセイの場合、書き手本人の視点だけで押し通すには限界がある。

共感を呼ぶことは難しいにしても、書いてある内容を、読み手に読んでもらうための「調整」は欠かせないのだ。

例えば僕が、日本の政府に対して腹が立っているとする。

僕が反対姿勢を貫いてきた法案が通ってしまい、施行される段取りがついてしまった。その出来事について「ムカついた」と書いても、一部の人にしか読んでもらえないだろう。

・なぜ僕がその法案に反対していたのか
・政府が見落としている点は何なのか
・その法案のメリットとデメリットは何か
・自分の書いたテキストがそもそも事実に即しているか
・意見を異にする人は、このテキストを読んでどう感じるか

といったことが踏まえられていないと、読み手にそっぽを向かれてしまう。

広く読んでもらったり、何らかの共感を求めるなら、最低限のバランス感覚(編集という視点)が必要になる。

話が脇道に逸れたが、指摘内容について、一度は片山さんに「なるほど」と言っていただいた。

だが結果的に、文章は元のまま掲載することになる。その理由はひとくちでは語れない。noteに書くことのできないパーソナルな事情が含まれているからだ。

片山さんが通したのは「筋」だったように思う。それは4本目のエッセイで、ご自身のお父さまが徹底的に筋を通し続けたエピソードが語られていたけれど、同じようなスタンスで、片山さんは「このままでいく」と決断したんだと思う。

僕の側にも問題があった。

要するに「こう書いてほしい」という編集者としての思惑があったのだと思う。それをバランス感覚といえばそれまでだが、あまりにバランスにこだわると、どのテキストも同じような内容にしかならなくなる。どこも尖っていない、当たり障りのないのっぺりとしたテキストだ。

何のために、愛を語ってもらおうとしているのだろう。

答えだけを求めるなら、世界中の辞書の「愛」や「LOVE」を引いて、書かれている内容を記せば良い。だけど、それでは語ることができないと思うから、これまで何人もの方に声を掛けてきたのである。

企画の本質を見失って、ルーティンワークのようなタスクになっていたのかもしれない。原点に立ち返るきっかけとなった1ヶ月だった。

*

個人の中に秘められた個人的なことは、当然個人のものだ。でも実は、普遍的な要素もまとっているのでは?と編集しながら感じていた。

このエッセイは、片山さんのストーリーであり、僕のストーリーでもある。もしかしたら「あなた」のストーリーかもしれない。ぜひ読んでみてください。

──

Webサイト「ふつうごと」で、昨年11月から続けているエッセイ企画  #愛を語ってくれませんか

来月もとても魅力的な方に寄稿いただけることになっているので、ぜひ楽しみにしていてほしい。次回は、9/1(木)に公開予定だ。

#編集
#Webサイト
#ふつう
#ふつうごと
#愛を語ってくれませんか
#エッセイ
#片山壮平

記事をお読みいただき、ありがとうございます。 サポートいただくのも嬉しいですが、noteを感想付きでシェアいただけるのも感激してしまいます。