島内宏明の契約期間問題

あくまでメディアで掲載されている発言等で感じた所感だが、思いがけず難しい問題を孕んでいるように思う。「複数年契約を短縮したいなんて、選手のわがままだ!」「大人なのに『契約』の重みを分かっていない」という大半の意見に対して、う〜んそれは正論なんだけどと思いつつ、僕は首を傾げてしまう。

東北楽天ゴールデンイーグルス(以下、楽天)にとっては、良い契約だったかもしれない。国内FA権を取得する間際の選手と複数年契約を結ぶことは、他球団への流出を防ぐことができるからだ。島内選手のように毎年規定打席に達し、コンスタントに年間100安打以上打てる選手はなかなかいない。今年に限っては161安打で、3割近い打率を誇っている。「年俸1億2,000万円プラス出来高払い」が妥当かどうかは言及しないが、同じような成績で、年俸が高い選手は一定数いるのは間違いないだろう。

よく知られていることだが、球団とプロ野球選手は雇用契約で結ばれている関係ではない。球団が雇用主というわけではなく、あくまで個人事業主のような立ち位置で、球団と「選手契約」を結んでいる形だ。

もし楽天と島内選手が雇用契約を締結しているなら話は早い。(雇用契約ではないので、喩えそのものがナンセンスだが)雇用契約の場合、楽天と島内選手が締結している4年間の複数年契約が無効になる可能性があるからだ。労働基準法第十四条には、「労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない」と書かれており、「3年は長すぎるよね?」ということになるからだ。

繰り返しになるが、楽天と島内選手は雇用契約を締結しているわけではない。だから4年間の複数年契約は問題ないわけだけど、それでもずっとプロ野球でいわれてきたのは、選手が「労働者としての性質を持っていないか」という点である。雇用関係を結んでいないのであれば、球団から何らかの指揮命令を出すことはできないわけで。でも実際には、球団(が契約している監督やコーチ)から、なかなかタイトな指揮命令を受ける立場にある。管理者のディレクションがなければ、そもそも野球選手は活躍のフィールドさえ与えられない。近年は代理人による年俸交渉も一般的になりつつはあるが、ほとんどの場合、選手は球団からの年俸提示に「一発OK」で応えている。そこに交渉の余地があるとは言い難い。提示された年俸を保留したことはニュースになり、「保留第一号」なんて呼ばれ方をする。年俸の交渉をするのは当たり前なのに、世間からは「お金にうるさい人」「ごねるやつ」というレッテルを貼られるのだ。対等に交渉力を発揮できる関係とは言えないだろう。

そういったこともあり、島内選手には、半ば同情を寄せたい気持ちにもなってしまう。交渉力が発揮できなかったり、あるいは、情報の非対称性がある状態のもとで「4年間の選手契約が保証されるなら」と複数年契約を締結するのは、ごくごく自然な流れではないだろうか。

実際、2年前の年俸交渉の際、島内選手は「まさか僕がプロで10年もやれるとは思っていなかった」「(FA宣言するほどの)自信がなかった」「今年に至っては、全然調子が良くなくて、チームに迷惑をかけた」など、控えめな思いを吐露している。コロナ禍で将来の展望も見通せない中で、球団の提示を「粋」だと思って締結したのではないだろうか。(その判断に対して、誰が「おかしい」と言えただろうか)

契約は契約だが、やはり気になるのは島内選手のモチベーションだ。

球団にとって「お得」だったとしても、このような思いを吐露した島内選手のメンタルをどう管理していくのかは至難の業だろう。「正当な報酬を受けられていない」という思いは簡単に払拭できないし、そもそもこうして大きくのメディアに取り上げられてしまったことで、世間の注目を集めてしまった。

このままではLose-Lose、すべての関係者にとって悪い結果になる未来しか見えない。島内選手はパフォーマンスを落とし、楽天もチーム成績にネガティブな要因になってしまう。

だからWin-Winにするには、話し合いをすることが大事だと思う。「石井監督に謝罪した」というニュースがあるけれど、島内選手はそれほど「悪い」わけではないのだ。交渉力がなく、情報の非対称性があって、適正(だと感じる)な契約を締結できなかっただけで。

それらをどのように解決できるか、それは楽天にとっても今後の試金石になるような状況ではないだろうか。球団と選手がWin-Winの関係を持ち続けること。

楽天には、そんなリーダーシップのあり方を示してほしい。島内選手の活躍を、今後も、強く願っています。

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