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国際芸術祭に頼らない。青森県が始めた新しいアートプロジェクト

青森県のアートへの注力ぶりはさすがです。勢いがあるだけでなく、地に足をつけた安定感が伝わってきます。

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今年7月に設立した青森アートミュージアム5館連携協議会が、アートを通じて青森の魅力を発信するプロジェクト「5館が五感を刺激する―AOMORI GOKAN」を始動させた。

参画しているのは、青森県立美術館、青森公立大学国際芸術センター青森、弘前れんが倉庫美術館、(仮称)八戸市新美術館、十和田市現代美術館。

美術館同士や近隣のアートスポットの周遊を促すと共に、地域振興や文化の発信を目指していくようだ。

僕はこれまで何度か青森県を訪ねているが、いつも穏やかに印象に残るような、美しい風景がある。

地方に対する、漠とした憧憬。

心が澄み、前向きなエネルギーをもらえる大切な場所だ。

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上述した美術館は、青森県、青森市、弘前市、八戸市、十和田市というように、それぞれ違う自治体が運営を行なっている。

いくらアートという共通項があったとしても、自治体によって運営目的、課題、予算が異なる中で「共通の目的」を設定するのは容易ではない。コロナ禍で人の流れが読めない難しい局面下なら尚更だ。

本プロジェクトの情報は、現時点でそれほど多くない。短期的 / 中長期的にどんな未来図を描いていくのか。これから国内外に様々な発信をしていくはずなので、情報を注視していきたいと思う。

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日本は、日本文化の魅力を発信することが不得手だと言われている。

語学力(=英語が苦手であること)が原因の1つであることは間違いないが、それだけの説明では不十分だろう。

おそらく、発信する仕組み(座組み)の課題が大きいのではないだろうか。

横浜トリエンナーレ組織委員会事務局プロジェクト・マネージャーの帆足亜紀さんは、他者を巻き込んでいく力 / 環境に関する課題を次のように語っている。

帆足:私は横浜美術館で「横浜トリエンナーレ」を担当している。トリエンナーレとは3年に1度開催する現代美術の国際展だが、一方的には発信できない。発信先の人たちが当事者として議論に参加できるための共通テーマが必要だ。テーマを考えるためには、世界の周波数に自分を合わせてみる、あるいは我々の周波数に世界を合わせてみる。私はたまたま現代美術という分野を通してこれを考える機会を得ているが、この手法はいろんなものに通じるものがあると思っている。
(朝日新聞デジタル「日本文化の魅力、世界に発信 朝日教育会議」より引用、太字は私)

要するに、他者を巻き込むためには、膳立てするための「きっかけ作り」が必要なのだ。

そう考えると、国際芸術祭が日本各地で流行したことにも合点がいく。地域振興や芸術家の誘致など、きっかけ作りの上で「やりやすい」座組みなのだ。

言い方は悪いが、テンプレート化された座組みとも言える。

影響力のある美術関係者を巻き込むためには、相応のお金も必要で。国際芸術祭の名のもと、人もお金も集まっていた……。

だが当然のことながら、国際芸術祭バブルも永くは続かない。

既に国内の国際芸術祭は飽和状態となっており、パイの奪い合いが激化している。差別化するためにエッジの効いた(効きすぎた)企画を行なうことで「騒ぎ」になったケースもある。

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多様性を重視し、様々なステークホルダーを巻き込むのは「理想」だし、そうであるべきだとして語られることも多い。

だが、その実現には気が遠くなるような長い道のりがあることは、意外にも見落とされている。新しい仕組み / 座組みを考えるのは、クリエイティブな知識や経験が求められるし、簡単に手に入れられるものではない。

だからこそ。新しいアートプロジェクトとして先手を打った青森県の取り組みを応援したくなるのだ。

青森県は、日本国内のアートシーンを牽引する稀有な存在に間違いない。どんどん発信を増やし、面白い企画を期待したい。

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