見出し画像

福岡ソフトバンクホークスは「カネ」があるから勝てたのか。

今年のプロ野球は、試合数や応援方法など、コロナ禍の影響を受けた。

そんな中、セ・パ合わせて12球団の頂点に立ったのは福岡ソフトバンクホークス。セ・リーグ王者のジャイアンツを全く寄せ付けず、4年連続日本一に輝いたホークスの強さは圧巻だったと言える。

今シーズンの開幕前に、一部のプロ野球ファンの間で話題になった本がある。スポーツライターの喜瀬雅則さんが書いた『ホークス3軍はなぜ成功したのか?〜才能を見抜き、開花させる育成力〜』だ。

*

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」

生前、野村克也さんが勝敗を表現していた言葉だ。だが昨今のホークスの強さを見ると「勝ちにも必然性があるのでは?」と思わざるを得ない。

実際のところ「勝ち続けている」要因は、親会社であるソフトバンクの圧倒的な資金力であるのは間違いない。セ・リーグでは金満球団と揶揄されるジャイアンツと比較しても大きな差がある。

*

だが本書を読むと、勝つべくして勝つ組織を、ホークスが時間をかけて作り上げてきたことが分かる。

球団会長を務める王貞治さんは、以下発言をしている。(以下は選手に対する発言だが、スタッフにも同じような意識を持たせていると僕は感じた)

選手は、安住させちゃダメなんですよ。常に競い合わせる。危機感を感じない選手じゃ、ダメなんです。タイトルを取った選手でも、危機感がある。今年も、これくらいやれるのだろうか。上に行くほど、自然に危機感が生まれる。ファームの中間あたりで、そこそこの生活もできて、世間の人に「どこそこのプロ野球選手だ」という扱いも受ける。でも、何年かしたら、契約解除されちゃうんだ。
じっとしてたら、ダメなんだ。危機感を、常に持たせる。素質があるから、プロの世界に入ってきているんだから、それを磨かせないと。監督やコーチは示唆はしますよ。でも、磨くのは、本人なんだよ。
本人を、その気にさせる。それが育成の制度で、一番優れた部分ですよ。ウチは、弱いところから這い上がってきたんだ。もっと鍛える場が必要だと。野球界っていうのは、すごく競争が激しい世界だからね。
(喜瀬雅則『ホークス3軍はなぜ成功したのか?〜才能を見抜き、開花させる育成力〜』P23〜24より引用、太字は私)

「使えない」と判断されれば、数年で戦力外を通告される世界だ。温和そうに見える王さんの言葉も、厳し過ぎるというわけではないだろう。

選手やスタッフへ求めることの共通点は「プロを集め、プロの仕事をしてもう」ことへの執念だと僕は感じた。

スカウトは眠れる素材を何とか捜そうと努力するし、試合数を増やすために大学や独立リーグと渉外を行なう。どうしても超えられない「壁」があれば王さんやソフトバンク本社がフォローする。その全てが「常勝軍団を創る」ことに繋がっていく。

*

個人的に面白かったのは、グラウンドキーパーを務める西山修平さんの取材だ。西山さんは2軍のメインスタジアムであるHAWKSベースボールパーク筑後を担当している。

・土や芝生をいかに養生するか
・メディアに撮られた際「映える」絵を見せられているか
・ファンを呼んだときに喜んでもらえる仕掛けになっているか

1日単位、あるいは、1時間単位で管理が徹底されている。その徹底ぶりは異常とも思えるほどだ。

西山さんは「日本一の球場を目指している」と語っている。それは「2軍の球場なのに……」という本音を封印するほど力強い想いが込められているし、ひいては、それがホークスのスタッフ陣が「プロフェッショナル」であろうとしている表れだと僕は感じる。

*

具体的なプロジェクトを挙げるのは避けるが、世の中には(傍目には)大きな資本が投入されつつも上手くいっていないものがたくさんある。

関係者の数が多くなればなるほど、掲げているミッションは伝言ゲームのように曲解されていく。「3軍制は、内部には反対意見も根強かった」と書かれているようにホークスの場合も例外ではない。

プロ野球の世界でも、劇薬として、経験のある監督を招聘したり、実績を持つ選手を獲得したりといった対策で上位を狙う球団がある。確かにそれは短期的に見れば効果がある施策かもしれない。だがそういった施策は不測の事態(怪我など)があった際に脆くもプランが崩れてしまう。

だが、強い組織は、多少の想定外にも対応できる。幾重にもオルタナティブな施策が練られているし、組織を構成する人たちが「自発的に動く」ことができるからだ。

盤石なホークスに対抗する球団はあるのか。他11球団が密かに育んでいるプランが、2021年以降花開くことを期待したい。

この記事が参加している募集

読書感想文

記事をお読みいただき、ありがとうございます。 サポートいただくのも嬉しいですが、noteを感想付きでシェアいただけるのも感激してしまいます。