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編集補記(オカダ瞳さんエッセイ|ふつうごと)

Webサイト「ふつうごと」で毎週公開しているエッセイ企画 #愛を語ってくれませんか

10月にエッセイを寄稿いただいたのは、オカダ瞳さん。8月に寄稿いただいた片山壮平さんと同様、同じ会社で机を並べて働いた方だ。

20代前半のときにお世話になった先輩で、慣れない職場で「これは〜〜にすれば大丈夫だよ」と、いつも優しくアドバイスしてくれていた。まさか、そんなふうに接してくれていた折、仕事で苦悩を抱えていたなんて。婚活、家族、仕事、自己愛……、色々な愛について素晴らしいエッセイを書いてくださり本当に嬉しかった。

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ふつうごとで寄稿を依頼している方は、必ずしも、日常的にライティングしている方ではない。

オカダさんは「Birth ring」というジュエリーブランドの代表。その前はIT企業で17年間働いているというキャリアだ。彼女のブログやSNSに投稿している内容などを読んで「ああ、面白いなあ」と個人的に感じていたものの、どんなエッセイになるか、あまりイメージができていなかった。

これまでもライターとは無縁の方に寄稿いただいてきたが、そういったことに対してすごく無自覚だったと思う。たぶん僕自身が、書くことがそれほど苦ではないので、他の人も同じような感覚だと思っていたのだ。だけど編集の経験を積むにつれ、毎週1本のエッセイを書くというのがどれほど大変なのか分かるようになってきた。結果として、ちょっとした恐怖というか、勇気を保持しつつ寄稿の依頼文を出すようになっている。

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オカダさんは、思っていたよりも快諾で「喜んで〜!」というテンションで寄稿の依頼を受けてくれた。

毎回「何を書こうかな」といった具合で、鼻歌でも歌うように、テーマを2, 3吟味しているような感じである。お子さんが体調を崩されたときでも「ごめん!」といいつつ、わりとすぐにエッセイを提出してくれた。スピード感の正体を、未だ掴めずにいる。

何より、エッセイがはちゃめちゃに面白い。

1本目のエッセイのタイトルは、「恋愛レベル0の私が、婚活でアイドルになりきって獲得した愛のスキル」。婚活をする際に、アイドルになりきって相手とコミュニケーションを図るという。

「それって、どういうこと?」と思わせながら、すいすいと前へとテキストが進んでいく。読ませるための勘所をしっかり押さえているのだ。よくよく読めばやや強引かなという表現もあるのだけれど、オカダさんの人格だったり文体だったりが、柔和な印象を与える。結果として、ただただ面白いエッセイになっていて、零細企業のいちメディアでの掲載がもったいないと思うほどだ。

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オカダさんとのやりとりで学んだのは、「何のためのセオリーか」という問いだ。

例えば2本目のエッセイには、「なぜか私にとって、実家って昔から居心地が悪かった」という記述がある。セオリー通りいくなら、どんな居心地の悪さがあるのか詳述したり、具体的なエピソードの紹介だったりが必要になる。読み手と書き手の認識を合わせるために、なるべく具体的に当時のことをイメージさせなければならないからだ。

ということもあり、「具体的なエピソードを書いてください」とリクエストした。だけど「でも、伝えたいのって、具体的なエピソードじゃないんだよね」といったことを言われて、妙にハッとしてしまった。

セオリーとは、クオリティをある程度担保するための手段でしかない。クオリティが担保されるなら、セオリーなんていくらでも崩して構わないわけで。編集やライティングをそれなりに手掛けるようになって、セオリーを「セオリー通りにやろう」という意思が、何の違和感もなく宿るようになっていたのだ。

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ライティングを生業でない人との協働作業は、こういった気付きがたくさんある。

オカダさんとのやり取りは、ひとつひとつがとても新鮮だった。常にテーマと核となるコンセプトが斬新でユニークだったので、僕は適当にコメントすれば良かった。なんて幸せな時間だったろうと、いま、振り返って思う。

いつか、もうちょっと力をつけて、オカダさんに長く連載をお願いできるような場所を作りたい。不特定多数の読者に「読んでほしい」という文章でなく、個人的に「読んでいたい」という文章。

優れた文章には、色々な特徴があるものだなあと再認識した。その良さを、1ミリでも手近に引き寄せるべく、編集に全力を注いでいきたい。

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Webサイト「ふつうごと」で、昨年11月から続けているエッセイ企画  #愛を語ってくれませんか

オカダさんの寄稿で、春夏秋冬をひとつ廻ったことになる。

引き続き、2年目となる愛のエッセイ。次回は、11/3(木)に公開予定だ。文化の日に相応しい方に寄稿いただくので、ぜひ楽しみにしていてほしい。

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