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サバンナ・高橋茂雄が拾い上げた、宇多田ヒカルの音楽への向き合い方

バラエティ番組の出演者の役割について、ずっと僕は勘違いしていたかもしれない。

・面白いことを言うお笑いタレント
・「なるほど」と神妙に頷く芸能人
・「番組宣伝」と引き換えに、好感度&知名度で視聴者を惹きつける俳優

もちろんクイズ番組など、出演者がワイワイと番組づくりに関与することもある。だが基本的には「視聴者の関心を引くだけ」に彼らが起用されているものだと感じていた。

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その思いが変わったのは、「EIGHT-JAM」という番組にて。宇多田ヒカル特集が組まれ、本人もインタビューに応じているというので、視聴しないわけにはいかなかった。

前後編に分かれた番組自体も面白かったのだが、一番感心したのは、お笑いコンビ「サバンナ」の高橋茂雄さんのコメント力だった。宇多田さんのVTRを見て、口にしたひとことにハッとさせられた。

インタビュアーが宇多田さんに「宇多田さんは、新譜と旧譜、どちらをよく聴くのですか?」という質問を投げ掛ける。新しい音楽を聴いて感性を研ぎ澄ませているのか、古い音楽を聴いて自身の音楽制作に応用しているのか。そんな意図を込めた質問だったのだろう。

宇多田さんは「う〜ん」と言い淀んだ後、「あまり新譜と旧譜で聴き分けていない。私にとって初めて聴いた音楽は、過去の作品だったとしても全部新譜ではないか」と言い切った。新しいとか、古いとか、そういった区分けで音楽を捉えていない。考えてみれば当然のことだが、宇多田さんが答えるからこその重みも感じた。

その後で、宇多田さんは具体的な音楽について話し出す。「最近私が“新譜”として聴いて、すごく良かったのはバッハ」というもの。

バッハ……。

17〜18世紀におけるバロック音楽の作曲家のひとりであり、歴史上最も重要な作曲家といっても過言ではない。にしても、ここで、この文脈で「バッハ」という名前が出てくるとは思っていなかった。

そこでスタジオで映像を観ていた高橋さんが、「バッハを新譜と思てるんや」と口にした。そこに僕は感心、いや感心を通り越して感動してしまったのだ。

大した言語化ではないと思われるだろうか。

改めて話の流れを確認しよう。

・インタビュアーが宇多田さんに「新譜と旧譜、どちらをよく聴くか」質問する
・宇多田さんは「あまり新譜と旧譜の区別をしていない」「過去作も初めて聴いたら私にとっては新譜だ」と答える
・宇多田さんは「最近聴いて良かった音楽はバッハ」と答える
・スタジオで高橋さんが「バッハを新譜と思てるんや」と口にする

要するに、視聴者は元の質問を忘れるくらい、「バッハ」という名前に意外性を感じたはずだ。「宇多田ヒカルは今、『バッハ』に感銘を受けているんだ」という事実を、すんなりとは受け止められない。そこで高橋さんが件のコメントをしたことで、視聴者は「宇多田ヒカルは『バッハ』を新譜と思って聴き、感銘を受けている」と脳内変換できたのだ。

この繋ぎ込みって、なかなか咄嗟にできることではない。

メディア出演の機会が限られている「宇多田ヒカル」だ。どの質問も“最重要”と思われるもので、ともすれば情報量で溢れてしまう。

情報量が溢れてくると、人間は情報をシンプルな形で置き換えようとする。だから高橋さんがコメントをしなかったら「宇多田ヒカルは今、『バッハ』に感銘を受けているんだ」という情報にて受け止められていただろう。

だがその回答の背景には、新譜も旧譜も関係なく、自分にとって面白いという音楽は何でも聴けるという、ミュージシャン・宇多田ヒカルとしてのスタンスが垣間見えており、その情報を逃すことなく伝えられたのは高橋さんのコメント力のおかげといって良いだろう。

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おそらく、コメントをした高橋さん本人も忘れてしまうくらい、高橋さんにとっては「通常営業」のコメントだろう。

だが、きっと番組の編集担当は「救われた」はずだ。高橋さんのコメントによって、宇多田さんの魅力がさらに視聴者に伝わったのだから。

バラエティ番組への出演とは、ともすれば“遊び”のような仕事に見えるだろう。いやいや、そんなことはない。生身の「人間」を介して、バラエティ番組で伝えたい情報が、より鮮明に伝わっていく。

宇多田ヒカルさん、聞こえますか!ぜひ“切り抜き”動画でなく、本編もじっくりご覧いただけたら幸いです。(←番組観た方だけが分かるやーつ)

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