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勝利者意識を持つことの危うさ

2023年1月20日(金)朝日新聞 朝刊に掲載されていた「オピニオン&フォーラム」。元ソ連大統領のミハイル・ゴルバチョフの「新思考」を見直すべきでは?という趣旨のものだった。

正直なところ、諸手をあげて賛同できる内容ではなかった。

1980年代後半のペレストロイカによるソ連国内の分断は、未だに語り継がれている。実際に、ゴルバチョフの政治手腕に対する評価は賛否がきっぱりと分かれているのが現状だ。ただ一方で、「相互の尊重、対話と協調、政治の非軍事化」といった故人のポリシーも紹介されていて。

ロシアのウクライナ侵攻が来月で「1年」という節目を迎える。国際協調の足並みが乱れ続けているが、各国のリーダーには分断でなく、ゴルバチョフが見据えていた理想をいま一度思い返してもらいたいところだ。

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コラムの中に「勝利者意識」という聞き慣れない言葉が出てきた。

コメントを寄せたのは、ゴルバチョフ財団報道官のウラジーミル・ポリャコフさん。ロシアのウクライナ侵攻は「総じてロシアが悪い」と断じつつ、西欧諸国への牽制も怠らない。

「(「西側にも問題があったか」と問われ)西側の多くの人は自らを冷戦の勝者だと考えました。これも正しくありません。みんなが勝ったのです。ロシアも米国もヨーロッパも。ゴルバチョフが危ないと警告していたのが『勝利者意識』です。米国にはそれがあった。ヨーロッパでも見られました」

(中略)

「(ウクライナ戦争に至ったことを踏まえ)冷戦終結のチャンスを活かせなかったということです。冷戦終結は西側だけでなく、すべての人の勝利でした。レーガン(米大統領)やコール(独首相)、ミッテラン(仏大統領)やサッチャー(英首相)がいなければ実現できませんでした。国家リーダーには他人を中傷しないモラルが必要です。そして対話が必要なのです。今の時代、これが欠けています

(朝日新聞デジタル「ゴルバチョフ氏側近が訴える「新思考」ふたたび 生かせなかった好機」より引用、太字は私)

政治に限らず、いまは世の中全体が「勝ち負け」が重要な指標となりつつある。さすがに「勝ち組」といった露骨な言葉は影を潜めたものの、あらゆるものがゲーム化し、それを上手くハックする方法を多くの人が求めている

就職活動も、そうだ。

大手に行けば勝ち。いち早く内定を取れたら勝利者。

そんなことは全くない。どんな仕事にも価値がある。どこに所属するのかは全く関係ないし、今日び、大手に内定が決まったからとて、将来が安泰だとは誰も思っていないだろう。

現在大ヒットしている「THE FIRST SLAM DUNK」で描かれているのも、勝利したことの価値ではない。勝利に向けてひたすらに努力する姿や、負けて初めて気付いた「経験」の重み。勝ち負けが決まるスポーツであっても、監督を務めた井上雄彦さんは、「それが全て」だとはまるで思っていないのだろう。

もちろん、勝つことは素晴らしいこと。

だが、同時に「勝者」となったことで危うさも生まれてしまう。謙虚さを失い、自信たっぷりで振る舞う人間を、誰が「かっこいい」と見做すだろうか。

「あなた」の勝利は、「あなた」だけが勝ち得たものではない。ウラジーミル・ポリャコフさんが話すように「みんな」の勝利であることを忘れてはいけないと思う。

朝日新聞デジタルでは途中までしか読めないが、図書館ではバックナンバーが置いてあるはず。良い記事なので、近所に図書館がある方は、ぜひ足を運んで記事を読んでみてほしい。

僕自身も「勝つ」ことの意味について、もっと深く考えていきたい。

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