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嘘を見抜く能力

それほど突出した能力がない僕ですが、他人よりいくらか秀でていると自負できるのが「嘘を見抜く能力」だと思っています。

子どもの頃から、本に囲まれている生活を送ってきました。そして自然と読み書きを好きになっていきました。そういった環境に身を置けたことは、僕の人生にとって最高のLuckと言い切れます。

「嘘を見抜く能力」というのは、面接をしているときに、応募者が「嘘をついているな」と判断できるといった小手先の効用を指すわけではありません。

世間では、自分に対して少なくない影響を与える人たちがいます。サラリーマンなら会社の経営者や直属の上司です。彼らが誠心誠意を持って仕事に取り組んでいるか、売上や自己保身、ポジショントークの元で言動を決めているか。見極めるためには、普段から嘘を見抜く能力を高めておくことが大事です。(不幸なことに後者に属していたら、ご自身の貴重な時間やメンタルが搾取されて終わってしまいます)

また人生の分岐点に差し掛かったタイミングで、自分自身が嘘をついているか自制することもできます。都合の良い道を選ぼうとしていないか。結果的に都合の良い道を選んだとしても、何らかの「嘘」や「虚栄」を感じているかどうかは大事で、その先でのリスクヘッジにも繋がります。

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では、どうしたら「嘘を見抜く能力」を高められるのか。

村上春樹さんは著書『村上さんのいるところ』で、読者からの質問に以下のように答えています。

たしかに文学ってあまり実際的な役には立ちません。即効性はありません。実におたくの社長のおっしゃるとおりです。言うなれば、なくてもかまわないものです。そして実際にこの世界には、小説なんて読まないという人がたくさんいます。というか、むしろそういう人の数の方がずっと多いかもしれません。
でも僕は思うんですが、小説の優れた点は、読んでいるうちに、「嘘を検証する能力」が身についてくることです。小説というのはもともとが嘘の集積みたいなものですから、長いあいだ小説を読んでいると、何が実のない嘘で、何が実のある嘘であるかを見分ける能力が自然に身についていきます。これはなかなか役に立ちます。実のある嘘には、目に見える真実以上の真実が含まれていますから。
(中略、必要な実証がされていないビジネス書を指して)小説を読み慣れている人は、そのような調子の良い、底の浅い嘘を直感的に見抜くことができます。そして眉につばをつけます。それができない人は、生煮えのセオリーをそのまま真に受けて、往々にして痛い目にあうことになります。
(村上春樹『村上さんのいるところ』P201より引用)

もちろん小説を読むことだけが全てではないはずです。

批判的思考を意味するクリティカルシンキングを学ぶことも有効でしょう。

ただ、実務的なスキルを身につけるだけでは不十分です。

同じ本の中で、村上春樹さんは原子力発電所について(それを支持する言論について)以下のような警句を述べています。

「年間の交通事故死者数5000人に比べれば、福島の事故なんてたいしたことないじゃないか」というのは政府や電力会社の息のかかった「御用学者」あるいは「御用文化人」の愛用する常套句です。比べるべきではないものを比べる数字のトリックであり、論理のすり替えです。僕は何度もそれを耳にしてきましたが、耳にするたびにいささか心がさびしくなります。
(村上春樹『村上さんのいるところ』P172より引用)

不都合な真実を隠したい為政者にとっての「嘘」です。あまりに頻繁に使われるトリックなので、「嘘(あるいは虚)」だと気付かないまま使用されているケースもあるほどに。(実のある嘘とは、本当に厄介です)

こういったことに、あまりにドップリと仕事に浸かっていると気付かないことがあります。前提を疑わないというか、「それはそういうもの」というスタンスで進めてしまうのです。(ある意味で、思考停止ということでしょう)

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偉そうに言っている自分も、これまで何度も騙されてきました。

ただ思うのだけど「騙された」経験をなくして、嘘を見抜くことはできないのではないでしょうか。

そしてそれは「騙されたのに騙されたことに気付かない」ということも、嘘に翻弄されることと結果的には同じです。

痛い、苦しい失敗をして、自己批判をする中でしか、新しい視点を身につけられることはできません。

そして、信じていたものを否定するのは簡単ではありません。「自分は騙されていない」と思い込みたいのが、人間の性だからです。

ですが、そういった姿勢では、永遠に嘘に翻弄され続けてしまいます。あろうことか「嘘」を知らしめるものに対して攻撃的なアクションを取ってしまうこともあります。(俺たちが正しい、お前らが間違っているんだ!というように)

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例えば今、菅さんが自民党総裁を降りることになっています。これは自身の「嘘を見抜く能力」を検証するまたとない機会です。

・騙されていた
・騙されていなかった
・騙されたかどうか分からない(考えてもいなかった)

大きく分けると3パターンになります。

3番目の「騙されたかどうか分からない」が、一番反省すべき点だと言えます。そういう観点で物事を捉えていないと学ぶことすらできません。

あくまで政治のことを例に出しましたが、仕事も同じです。

ビフォーアフターで比較できるよう、ちゃんと仮説を持ちましょう。勉強でもスポーツでも恋愛でも、もちろん仕事でも、「ああ、失敗したな」「ああ思てたんと違ったな」と自覚しないとPDCAを回せません。

いま、「嘘を見抜く能力」は何より必要なリテラシーかもしれません。ぜひ一緒に、この能力を高めていきましょう。



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