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星野源『不思議』、10日間聴き続けた感想

星野源さんの新曲『不思議』、抜群に良いです。

前回の『創造』は目玉が飛び出るくらいのクリエイティビティで、僕の内側に眠っている色々な感情が疼きました。

それに比べて『不思議』は、ローテンポなラブソング。音のバリエーションは富んでいるものの手数は必要最低限な印象で、聴かせる仕上がりに。

配信開始から10日間ずっと聴き続けているのですが、現時点の所感を備忘録として残します。

※なお本来であれば、タイアップとなるドラマ「着飾る恋には理由があって」との関連も探るべきなのですが、現時点では視聴しておりません。悪しからず。

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水=密と解釈できる?

「君と出会った この水の中で」という歌詞から始まります。

歌詞の中に「赤子」という言葉も出てくるので羊水としての「水」とも解釈できますが、コロナ禍という時代性を鑑みると「水=密」と解釈するのが自然のような気がします。

STAY HOMEという檻、コロナ禍という地獄。

そんな中で、唯一見つけられた希望としての愛。STAY HOMEやSTAY SAFEが求められる中で、赤の他人と濃厚接触せざるを得ないのが恋愛です。

自粛ムードで慎ましい生活が求められている中で、愛を育むことに対して、罪悪感も多少ある。そんな複雑な想いが綴られている曲だと感じます。

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恋ではなく、愛

星野源さんは『不思議』のことを以下のように語っています。

これまではラブソングを作るつもりじゃなくても結果的にラブソングになることが多かったんです。ですが、今回はドラマで描かれるラブストーリーを入り口にしながら、自分自身がちゃんとラブソングを書くぞという気持ちで向き合いたかったいうか。(中略)
今回は「自分にとっての愛とか恋はこういうことだと思っている」というのをちゃんと歌にしようと。だから、ラブソングというテーマから逃げずに、“愛”というものを僕なりに表現したらこういう曲ができた、という感じです。
(ORICON MUSIC「星野源、新曲『不思議』で“初めて”自分なりのラブソングを正面から表現」より引用)

愛とか恋とか、という風に語っていますが、代表曲『恋』と比べて、愛にシフトした印象が強いと感じます。

歌詞を読んでいくと、ほぼ時系列に進んでいます。

「手を繋ぐ」→「キスをする」→「愛しいと思う」→「セックスをする」→「我にかえる」→「二人で生きていきたいと思う」という順序でしょうか。

口づけをした時点で恋として認識している相手が、時を経て、愛情に変わっていきます。すぐ近くにいる相手に対して「まだ やだ 遠く 脆い
愛に足る想い 瞳にいま 宿り出す」と歌う。

あくまで歌なのに、二人の臨場感が伝わってくるようです。

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あなたは貴女でなく、貴方

「自分に向き合った」と語っていますが、愛や恋の普遍性をすくいとったアーティストとしての姿勢も明確です。

星野源さんの楽曲は中性的なものが多いですが、今回のラブソングも見事に「性別」を感じさせません。生物学的な性のみならず、多様な「性」への価値観に対して誠実な理解を添えていると感じるのは、僕の深読みでしょうか。

もっと言えば、「あなた」と、ひらがな表記をしても良かったのに、敢えて堅い表現である「貴方」を使っています。相手に対する敬意が漢字表記になったのか、それ以外の意味もあるのか、詳しい方の解釈も知りたいところです。

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愛し合ってからがスタート

このnoteでも言及しましたが、僕は「恋」は個人に向き合った曲だと解釈しています。「夫婦を超えてゆけ 二人を超えてゆけ 一人を超えてゆけ」という順番は、あくまで自分自身に無意識に纏う呪縛からの解放を示唆していると感じています。

一方で、『不思議』は二人にフォーカスしています。

正確に言うと、4分50秒という時間をしっかりかけて、じわりと二人にフォーカスが当たっていくのです。「二人をいま 歩き出す」という歌詞は、始まりを示しています。

「孤独」とは寂しいものに思えますが、慣れれば、意外と心地良かったりします。傷つくことのないコンフォートゾーン。自分が好きなときに、好きなことができる。外からは「孤独」に見えていても、本人は充実していたりします。(そのことを僕は否定しませんし、むしろ羨ましく感じることも多いです)

だけど、そのコンフォートゾーンから、敢えて異なる価値観を抱く相手と共に歩き出すこと。その瞬間からハレーションは生まれ、様々な制約も課せられます。

それでも二人は歩き出すことを決断する。

そのことを、星野源さんは讃えたかったのかもしれません。

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やや無理やりな解釈もあると思います。

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