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女性皇族の結婚で支給される一時金額とは?

皇室の結婚の話題

 11月13日、眞子内親王が小室圭氏との結婚の意思を改めて表明したことで、この話題がメディアでまた大きく取り上げられ、皇族という特別な身分の人々の結婚について、改めて世間の話題になりました。(この記事では呼称としては「眞子内親王」と呼ぶこととします。)
  この結婚自体については「応援したい」という声もあれば、「おめでたい結婚なのだろうか」という疑問を示す意見もあり、世間の反応は様々ですが、そういう評価についてはこの記事は立ち入りません。

 今回の記事では、一般論として女性皇族と一般国民の男性との結婚、またその場合に支給される一時金額について、制度を確認してみることにしましょう。

女性皇族の結婚は自由

 まず肝心の結婚そのものについての規定はどうなっているでしょうか。
 ご存じのとおり、皇族には様々な面で一般国民と同じような自由が認められていませんが、女性皇族と一般国民の男性が結婚する場合には、法律上は特別の制限はありません。
 男性皇族と一般国民の女性が結婚する場合には、皇室会議の議が必要とされていますが(皇室典範第10条)、女性皇族の場合にはそのような規定はないので、女性皇族は、法的にはあくまで自由に自分の意思で結婚ができるものとされています。
 眞子内親王と小室氏の結婚については、メディアで「上皇(当時は天皇)陛下の裁可があった」とも報道されていましたが、これは、天皇の裁可がなければ女性皇族の婚姻が法律上成立したことにならないという意味ではなく、あくまで親族の中での儀礼や慣習のレベルで「了解を得ることができた」という趣旨と見るのが妥当でしょう。

結婚にともなう一時金額支給の賛否

 さて、女性皇族と一般男性が結婚する場合、一時金額が支給されることになります。この一時金額も現在いろいろと話題になっているようで、「財源は国民の税金なのだから、国民が喜ばない形で結婚するのなら、一時金額を辞退するとか不支給にするべきだ」という意見すら出てきています。この点についても、まずは制度を確認してみましょう。

一時金額は「結婚祝い」のためのものではない!

 「国民に喜ばれるような皇族の結婚でなければ、一時金額を支給するべきではない」という人は、一時金額を、いわば世間一般の結婚式で参加者や知人親族が出す結婚祝いのようなイメージで考えているのでしょう。
 確かに、自分の知人や親族が結婚する場合であれば、お祝いする気にならないような事情のある結婚に対してはお金を出したくないと感じることもあるでしょう。

 ここではっきり述べておくと、世間に広がっているこの考え方は、とんでもない勘違いです。
 女性皇族が結婚する場合に一時金額が支給されるのは、結婚のお祝いの趣旨などではなく、皇族の身分を離れることに対しての生活補助の趣旨なのです。

皇族の身分を離れるということ

 皇室典範第12条を見てみましょう。

第12条 皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる。

 このように、女性皇族は、「天皇および皇族以外の者」、つまり一般国民と結婚した場合、皇族の身分を離れて、一般国民となることが定められています。逆に男性皇族にはそのような定めはなく、結婚しても皇族の身分のままで、逆に相手の一般国民の女性の方が皇族となるだけです。(このような男女の扱いの違いに納得性があるのかどうかはまた別な議論ですが…)

結婚以外の理由で皇族でなくなることもある

 ところで皇族が身分を離れるのは、このような女性皇族の結婚の場合だけではありません。

第11条1項 年齢十五年以上の内親王、王及び女王は、その意思に基き、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。
    2項 親王(皇太子及び皇太孫を除く。)、内親王、王及び女王は、前項の場合の外、やむを得ない特別の事由があるときは、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。

 このように、結婚以外の理由でも、一定の皇族は(男女問わず)、自分の意思や、やむを得ない特別の事由により、皇室会議が認めた場合に限り、皇族の身分を離れて一般国民になることも想定されているのです。

皇族身分を離れたら生活の問題が起こる

 理由がなんであれ皇族身分を離れるとなると、生活上の問題が起こってきます。それまで「ご公務」を務めたことはあっても、自分で生活費を稼ぐような生活を前提とした教育も準備も受けてこなかったのですから、なかなか大変でしょう。
 また皇族の身分を離れるといっても、皇室の親族であることには変わりはないわけで、「元皇族にふさわしい品位のある生活が維持できないと、皇室としても困る」という判断もありうるでしょう。
 いずれにしても皇族身分を離れる人には、一定の金額を支給して生活維持のサポートを行うことが想定されているわけです。

 「皇族女子が祝福される結婚をするなら、お祝いの意味で一時金を支給する」などという意味はまったくないことに注意してください。
 世間に祝福される結婚だろうと、嫌がられる結婚だろうと、無視される結婚だろうと、結婚以外の理由による皇族身分離脱だろうと、いずれにしても生活の補助は必要ですから、一時金額が支給されるのです。

皇室経済法に一時金額の根拠があった

 ここで今度は、皇室経済法という法律が関係してきます。国の予算に計上される皇室の費用は、「内廷費」「宮廷費」「皇族費」の三つに大別されるのですが、このうち皇族費の役割には、先ほど述べたように、皇族の身分を離れる時に支給する一時金額も含まれるのです。(これ以外にも皇族費の用途はいろいろあるのですが、ここでは省略します。)

第6条1項 皇族費は、(中略)皇族であった者としての品位保持の資に充てるために、皇族が皇室典範の定めるところによりその身分を離れる際に一時金額により支出するものとする。その(中略)一時金額は、別に法律で定める定額に基いて、これを算出する。
(中略)
   7項 皇族がその身分を離れる際に支出する一時金額による皇族費は、左の各号に掲げる額を超えない範囲内において、皇室経済会議の議を経て定める金額とする。
     一 皇室典範第11条、第12条及び第14条の規定により皇族の身分を離れる者については、独立の生計を営む皇族について算出する年額の十倍に相当する額(★)
     二 皇室典範第13条の規定により皇族の身分を離れる者については(以下略)

 これが一時金額の法的根拠で、「皇族であった者としての品位保持の資に充てるため」とされています。
 女性皇族が一般国民の男性と結婚して身分を離れる場合は、先ほどみたように皇室典範第12条が根拠だったので、その一時金額は、上記の(★)印の「独立の生計を営む皇族について算出する年額の10倍」ということになります。

 それでは「独立の生計を営む皇族について算出する年額」とはどういう金額なのかと言えば、眞子内親王の場合は、同じ皇室経済法第6条3項三号の、次の

三 独立の生計を営む内親王に対しては、定額の二分の一に相当する額の金額とする。

 という金額が関係してきます。「定額の二分の一」とありますので、後の手順としては、まずこの「定額」を確認し、その1/2の額を出して、最後にそれを10倍にすれば一時金額が決まります。

具体的な金額は?

 この「定額」の具体的な額については、さらに皇室経済法施行法という別な法律で基準を定めていますので、そちらも見てみましょう。

 第8条 法(=皇室経済法)第6条第1項の定額は、三千五十万円とする。

 これで「定額」が決まりました。つまり、「定額=3050万円」であり、内親王が独立して生計を営む場合の年額は、3050万÷2=1525万円。内親王が皇族身分から離れる場合は、この年額1525万円の10倍、つまり1億5250万円が一時金額の基準となります。

 この1億5250万円という額が必ずちょうど支給されると決まっているわけではなく、この額はあくまでも上限であって、この上限を超えない形で皇室会議の議により決定されることになります。

「結婚祝い」とは意味が違う

 この金額が高いか低いかという議論はありますが、先も述べたようにこれはあくまで皇族の身分を離れて一般国民として生活することに対する支援の資金であり、国民が結婚をおめでたいと思ったことに対する結婚祝いという意味ではないことを思い出しましょう。
 「国民の中にはこの結婚をめでたく思っていない人もいるから、一時金額は辞退するべきだ」という主張は、筋が通っていないように思われます。 おめでたい結婚と思われようと思われまいと、皇族の身分を離れた場合、何の支援もなければ生活の困難が予想されるからです。

 なお本記事のテーマについて興味を持たれた方は、私の著書『13歳からの天皇制』も是非お読みください。この本は、皇室の結婚については第7章、皇室の経費予算については第8章、そして皇族の人々の現代のあり方については第11章でくわしく論じています。



 

 



 




 

 


 

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