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あえて問う:憲法で改正した方が良い点は?

あえて憲法で改正した方が良い点を問う

 このnoteの記事では、世間の改憲議論について批判的なことをこれまでいろいろ書いてきましたが、今の憲法がもちろん完全無欠とか不磨の大典だと言いたいわけではありません。
 今回は、筆者自身が現時点であえて憲法で改正した方が良いと考える最低限の点を簡単に紹介することとします。

 まず先に結論をいうと

ポイント1:「9条」には手をつけないが、憲法全体の末尾に新たに「附則」を追加して、防衛力保持を「9条の原則に対する、やむをえない当面の例外」として明確に位置づける

ポイント2:国会が天皇(実質は内閣)の召集がなくても、自主的に開会できるようにする

ポイント3:参議院の緊急集会が、衆議院の解散後だけでなく任期満了後でも開会できるようにする

以上の三点です。

いわゆる「9条」の問題は「附則」で解決

 まず「9条」がらみのポイント1について。これは以前の記事で詳しく書いているので、ここでは簡潔に触れるにとどめます。詳細は次のリンク先の記事をご参照ください。

【提案】憲法9条の問題は「附則」で解決を!|弁護士ほり|note

 さて、政府は自衛隊は合憲である(9条に違反しない)という見解で一貫していますが、これはある意味当然で、「違憲だが自衛隊を保持して整備する」などと主張できるわけがありません(「違憲だがやむをえないので保持する」という見解でもありません)。
 しかしながら自衛隊違憲論も昔ほどではないにしてもまだ存在しており、「・・・陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という9条2項の解釈との関係で問題を残していることは否定できません。

理想と現実の間をつなぐということ

 一方、9条の理念や理想そのものは非常に重要なものであり、現実の国際社会では「正義と秩序を基調とする国際平和」が実現できていないにしても、そういう国際平和を将来の目標として求めるスタンス自体まで捨てて良いことにはならないでしょう。
 そうなると、現実と理想との間をつなぐ理屈を憲法の中に盛り込むのが妥当なのではないでしょうか。

具体的には

・9条はそのままで、一切手をつけない
・憲法全体の末尾に、「『正義と秩序を基調とする国際平和』が実現するまでの当面の間、9条の原則に対する例外として、必要最小限の防衛力を保持する」という趣旨を明記する「附則」を新たに付け加える


 

 という案になります。
 9条そのものには何も新しいことを書き加えず、憲法全体の末尾に「附則」を作るべきと考える理由は、やはり9条は重要なものとして維持し、あくまでその原則に対する例外として、また将来の理想達成までの経過措置として防衛力を保持するというスタンスなので、例外は例外らしく、最後に「附則」として記載するべきという考えによるからです。
 将来の理想の平和が達成された時には、例外の状態が終わって9条の原則に戻り、防衛力も廃止すべきということになりますが、もちろん理想の平和が達成できるのがいつのことになるかはわかりません。50年後か、100年後か、500年後かはわかりませんが、いずれにしてもそれまでは防衛力を保持しつつ、同時に9条の理想達成のための努力を怠らないということになります。
 ある政治家は「自衛隊はいずれ解消すべきだが、理想の平和達成までは自衛隊と共存し、自衛隊を活用しなければならない」という趣旨のことを述べましたが、そうだとすれば、そのことまでも憲法の中に織り込んで明確にするべきであると考えます。

緊急事態には何が問題になるのか

 一方9条とは別に、緊急事態に備えた条項を憲法に盛り込むべきではないかという議論も盛んになっています。この問題についても、これまで折に触れて、いろいろな角度からこのnoteで私の考えを紹介してきましたが、ポイント2とポイント3はこの点に関係しています。以下、具体的に考えてみましょう。

 まず大規模な災害や感染症、戦争、怪獣、異星人などの緊急事態(と呼ばれるような、多数の人命や社会の機能をおびやかす異常な事象)が起こった場合、問題となるのは
 ①国家の統治機構の機能の維持
 ②緊急時に人命保護などの対応業務を遂行する上で必要となる国民の権利の制約(コロナ関係の議論でも「私権制限」と呼ばれたもの)

の二点と考えられます。
 
 このうち②は、基本的には必要な法律によって対応すべきであり(現に、例えば災害対策基本法などがあります)、法律ぬきで国家が勝手に国民の権利や自由を制限して良いわけがありません。
 もちろんぎりぎりの状況で、法律の根拠がなくても人命救助などのためにどうしても何らかの措置を政府や自治体が行わねばならない場合もありうるでしょうが、そのような場合は緊急避難などの考え方で対処するのが筋と思われます。

 一方①の方は、いざというときに内閣や国会の機能がマヒしないようにするという意味では、憲法上の対応が必要な場合も考えられます。以下、具体的に考えてみましょう。

内閣が全滅したらどうする?

 まず内閣については、緊急事態で壊滅した場合はどうすれば良いでしょうか。生き残った閣僚がいれば、その中から内閣総理大臣の臨時代理を何らかの方法で選任して対応することになりますが、問題は内閣が全滅した場合です。このような場合は、国会で、その時点で健在の国会議員の中から新たな内閣総理大臣を指名することになるでしょう。

国会を誰がどうやって召集するのか

 問題はその国会です。国会の会期中であれば良いのですが、閉会中に緊急事態が起こってしまった場合、誰が召集するのでしょうか。
 以外と知らない人がいるようですが、日本国憲法上、国会を召集するのは衆参議長ではなく天皇です。もちろん天皇が自分の判断で勝手に召集できるわけではないので、実施的に決定するのは内閣とされています。
 これはつまり、仮に緊急事態で内閣が全滅したり機能マヒした場合、国会召集の判断ができる者がいないことになり、内閣だけでなく国会まで機能停止してしまうリスクがあるということを意味します。

国会の自主開会制度を作れば良い

 これを防ぐためには、国会が天皇や内閣とは関係なく、必要に応じて自主開会(自主召集)することができる制度を設けるのが解決策ということになるでしょう。
 (以前、野党が必要な議員数を集めたうえで臨時国会の召集を求めたのに安倍内閣や菅内閣が召集しなかったという問題がありましたが、国会の自主開会制度を作れば、このような問題そのものが起こらなくなります。内閣の判断なしで国会が自主的に開かれるようにできるわけですから。)

参議院の緊急集会の機能を強化

  一方、衆議院議員の任期が満了した後の段階で緊急事態が起こったらどうすれば良いでしょうか。原則論としては総選挙を行うべきですが、それがどうしてもできない場合は、参議院だけで対応するしかないでしょう。
 現在も憲法54条2項により、衆議院解散後に緊急の必要がある場合は、内閣が参議院の緊急集会を求めて決議を行うことができるようになっています。
 これを衆議院解散後だけでなく任期満了後にも可能として、さらに内閣の求めがなくても緊急集会を開会できるようにしてはどうでしょうか。

参議院には国会のスペアとしての機能がある

 参議院議員は任期が6年で、しかも選挙は全員一斉ではなく、半数ずつ3年おきに互い違いに行うようになっています。これは緊急の場合に、最悪、参議院議員の半数だけでも、国会全体の機能のスペアとして対応できるように想定されたと考えられるので、この点をさらに充実するような改正をすれば良いわけです。

緊急事態には内閣より国会の方が生存確率が高い

 これも以前に別な記事で書いたことですが、内閣はせいぜい10数名であるのに対して、国会は衆参あわせて700人強です。戦争や災害などの事態になった場合、内閣より国会の方が生き残る確率が高いのは明らかであり、内閣よりも国会の機能を強化することが重要だといえるでしょう。

物理的問題は物理的対策で

 なお緊急事態で国会の開会そのものが物理的に困難になったらどうするかという疑問があるかも知れませんが、そういう物理的困難はまさしく物理的対策(オンライン国会とか、堅固な防御施設やシステムの構築など)によって対応すべきであり、憲法改正で緊急時には国会不要にするような発想をするべきではありません。現に戦争中のウクライナでも、議会は開会されているのですから。 

よろしければお買い上げいただければ幸いです。面白く参考になる作品をこれからも発表していきたいと思います。