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憲法改正して天皇制を廃止するにも、天皇が必要である件

仮に天皇制廃止の改憲をすることになったら?

 今回は「仮定」の話をしてみましょう。仮に何らかの理由で天皇制を廃止することになったとします。革命とかクーデターとかではなく、あくまでも憲法の改正で、第1条から第8条の天皇関連の条項を削除や変更することによって、象徴天皇制を廃止し共和制に移行することになった場合、どのような手続になるでしょうか。

国民投票だけでは憲法改正は終わらない

 「憲法を改正するんだから、国民投票をすれば良いに決まっている」という声が出てくるでしょう。正確にいうと、衆議院と参議院の各議員の総議員の2/3以上の賛成多数決で憲法改正案を発議し、国民投票を実施して、過半数を得られれば、天皇制廃止についての憲法改正が承認されたことになります。
 これですぐに天皇制はなくなるのでしょうか。実はそうではありません。

「公布」をしなければ憲法改正は完成しない

 改正された憲法が効力を持つためには、国民投票によって承認されるだけでなく、「公布」という手続が必要です。

 改正憲法の公布は、どのように行われるのでしょうか。憲法の条文を見てみましょう。

第96条2項 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

 そう、改正された憲法を公布するのは、天皇の役割なのです。内閣や国会では公布はできません。天皇制廃止の憲法についても、天皇が公布することになるわけです。この場合、天皇制を廃止する改正憲法を公布するのが、最後の天皇の仕事ということになるでしょう。

天皇・皇族が先にいなくなったらどうする?

 ここで一つ問題が出てきます。憲法が現状のままであるうちに、仮に天皇や皇族が先に継承者不在でいなくなってしまったら、どうなるのでしょうか。
 天皇・皇族が不存在になったら、天皇制を廃止して共和制に移行する話が当然持ち上がるでしょう。しかし、そのための憲法改正をしたくても、改正された憲法の公布をする人物がいないことになってしまうのです。

 この場合、最後の手段として「摂政」を就任させて、天皇の代わりに公布の手続を行ってもらうしかないでしょう。

第5条 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行う。

 このように、摂政は天皇を代行する職であることが、憲法5条によって定められているのです。誰が摂政になるかは、憲法ではなく皇室典範が決めています。
 現在の皇室典範では、摂政に就任できるのは皇族(皇后や皇太后なども含む)だけになっていますが、リスク管理のため、最悪、皇族でない人物であっても摂政に就任して、憲法改正の公布の仕事ができるように制度を変えておく必要があります。

 ちなみに皇族でない人物(一般国民)でも摂政になれるようにするには、憲法改正は必要ありません。皇室典範を国会決議で改正するだけで可能です。
 具体的には以下の過去の記事をご覧ください。

天皇制廃止の憲法改正は、改正の限界を超えるのか?

 なお最後に、「今の憲法は、天皇制廃止をそもそも想定(許容)しているのか」という疑問を抱く人もいるかも知れません。言い換えれば「憲法改正の限界」の問題であり、「天皇制廃止の憲法改正は、憲法改正の限界を超える、いわば反逆のようなものではないのか」という疑問です。

 この点は、第1条で天皇の地位を「国民の総意」に基づくものとしていることから、国民の総意次第では天皇の地位がなくなる場合もありうることが最初から想定されている、と考えるのが妥当でしょう。

 これに対して、例えば国民主権を廃止するような憲法改正は、前文で

 そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

 と定めており、国民主権原理に反する「一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」としていますから、憲法改正によっても国民主権に反することは認めていないことになります。

 また、基本的人権を否定するような憲法改正は、97条で

 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

 としていますから、「永久の権利」であるからには、基本的人権を否定するような憲法改正は許されないことになるわけです。



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