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女系天皇がダメだという主張には説得力がない件

女系天皇と皇位継承議論

 皇位継承問題でたびたび議論にあがるのが、「女系天皇」の問題です。

 この「女系天皇」という言葉の定義も細かくいうといろいろな議論になるのですが、ここでは「母親の方でしか天皇・皇族に血がつながらない天皇」「父親の系統(男系)を遡っていっても過去の天皇につながらない天皇」という意味で使うことにします。(「非男系天皇」という方が正確かも知れません。)

 わかりやすくいうと、女性天皇が一般男性と結婚して、その子が天皇になるとしたら、この意味での「女系天皇」ですが、この意味での女系天皇は、過去に一人も存在したことはありません。

 また現在の皇室典範でも、

第一条 皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。

として、さらに女性皇族が一般男性と結婚したら皇族の身分から離れることとしているので、女系天皇は認められていないことになります。(それ以前に、女性の天皇も現在の制度では認めていないことになりますが。)

 (ちなみに、8世紀初期の女帝であった元明天皇は、自分の娘である元正天皇に皇位を継承しましたが、元明天皇の夫(元正天皇の父)は草壁皇子という皇族だったので、元明天皇も上記の意味での女系天皇ではないことになります。)

女系天皇に賛成?反対?

 さて現在、眞子さんが結婚で離脱したため、皇族の数はわずか17名になりました。仮に皇室典範を改正して女性も天皇になれるようにして愛子内親王が皇位についた場合、江戸時代以来の女性天皇となるわけですが、さらに一般男性と結婚して子が生まれたとしたら、その子が皇位についた場合、今まで前例のなかった女系天皇ということになります。

 冒頭で述べたように、この女系天皇を許容するかどうかで、議論が分かれているのです。世論調査では女系天皇許容派の方がかなり多いようですが(2019年のNHK調査では賛成71%、反対13%)、これは「女性皇族も天皇になって良い。当然、その子も天皇になって良い」という自然な発想が根底にあると思われます。

 さて、女系天皇反対派の論拠もいろいろあるのですが、私が目にした限りでは

①女系天皇の前例がないから
②女系天皇になると、伝統が途絶えるから
③女系天皇になると、新王朝になるから
④女系天皇は神武天皇のY染色体を引き継いでいないから
⑤女系天皇になると、父親(一般人)やその実家に皇室を乗っ取られるから

などというものがありました。以下、個別に検討してみましょう。

女系天皇には前例がない・・・のは事実

 このうち①は確かにそのとおりであり、「前例がないことはやりたくない」という心理自体は理解できなくもありません。ただし天皇家の歴史はある意味、前例がないことを繰り返してきたとも言えるでしょう。例えば現上皇が皇太子時代に美智子さんと結婚したときも「平民(という言い方ももうおかしいのですが)と結婚するのは前例がない」などと言われたものです。

女系天皇になると伝統が絶える?

 ②は①の変種のようなもので、「天皇はこれまで男系で継承してきたのに、女系の継承が入ると、伝統が途絶える」という主張です。しかしこれに対しては「天皇は男系で継承してきた」という命題を「天皇は(男女問わず)血筋で継承してきた」と言い換えて解釈しなおせば、伝統は相変わらず続いていることになります。

 実際、「天皇は血筋で継承してきた。それが伝統だ」という言い方をするなら、この命題は長い歴史に照らして100%正しく、何一つ間違いはないわけで、しかも女系天皇もこれで説明がついてしまうのです。

 身も蓋もない話ですが、伝統が続いてるのか途絶えたのかは、「伝統」の定義次第でどっちにでも判断できるということになります。何が「伝統」であるのかを定義するのは、常に「今の人間」でしかありません。(「先人」ではありません。死人に口なしです。死んだ人が定義してくれるわけではないのですから。)

女系天皇になると新王朝になる?

 ③は、理由と結論を逆にした主張でしょう。「女系天皇になると新王朝になるから、女系天皇は認めない」のではなく、ホンネは「女系天皇は認めたくないから、女系天皇になったら新王朝になったものと見なす」といっているだけです。(「女系天皇になると皇室が終わる」という論者もいますが、この③の特殊バージョンとみてよいでしょう。)

 逆にいえば、「女系天皇を認める」という人は、「認める」と言った時点で、過去からの天皇の系譜にそのまま女系天皇もつなげて、皇室がそのまま続いているものとして考えているわけですから、別に新王朝でも何でもないわけです。

神武天皇のY染色体? 

 ④は、皇位の継承に「染色体」という科学的概念を持ち込む時点で破綻しています。仮に神武天皇のY染色体の継承が本当に天皇にとって重要だというのなら、それは遺伝学的研究をして検証しなければならない重大事(?)であり、現在の皇室についても神武天皇との遺伝学的な関連性を調べなければならないでしょう。女系天皇か男系天皇かどころの騒ぎではなくなります。
  そもそも神武天皇と遺伝的につながりのある人間は、日本全国に無数に存在するかも知れません。
  もちろん神武天皇は神話上の人物であり、こんな話は馬鹿げたことです。

女系天皇になると皇室を乗っ取られる?

 ⑤についていうと、「女系天皇の父親である一般人やその実家に皇室を乗っ取られる」という理屈が成り立つなら、いまの(男系の)天皇でも、母親である一般人やその実家に皇室を乗っ取られていることになります。
 乗っ取り(?)に男も女もありませんから、いずれも同じことです。

 しかしそんなことを言い出したら、もう天皇・皇族は一般人とは結婚することができなくなってしまうので、古代のように皇族同士で結婚でもするしかなくなってしまうのではないでしょうか。ちなみに天智天皇も天武天皇も、姪と結婚したことが知られています。

  以上見てきた以外に「女系天皇になると皇室が終わるから」とか「天照大神の意思に反するから」などという主張もありますが、意味不明であり検討するに値しないでしょう。

男女差別意識があるのでは?

 以上のとおり考えると、女系天皇反対の論拠として多少なりとも納得性があるのは、①だけのように思われます。「前例がないことはやりたくない」という心情だけでしょう。

 最後にいうと、それでも女系天皇に違和感を持つ人がいるとすれば、おそらく「父から子には伝統を継承することができるが、母から子には伝統を継承することができない」みたいな感覚がどうしても拭い取れないからでしょう。これは何の合理的説明もつかない感覚ですが、根底は漠然とした男女差別意識のようなものとしか言いようがないと思われます。


 

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