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安倍首相は「君主っぽい首相」だったと言われる件

イメージから見た安倍首相は君主っぽい?

 安倍首相が8月28日に辞意表明してから2週間以上が経過し、これまでの安倍政権の政策や路線を振り返った記事なども出るようになりました。

 ここでは、これまでの安倍政権の政策の評価や善し悪しはとりあえずいったん措いて、安倍首相が世間に与えた印象とかイメージという面について振り返ってみようと思います。

 安倍首相について「まるで君主っぽい首相だ」とか「天皇や皇族みたいな首相」と言われることがありました。このような印象を感じる人がそれなりにいたとすれば、その要因は何だったのでしょうか。大雑把に言って、次のように分類できると思います。

1 「名門」の出身であること

 安倍首相の祖父は岸信介元首相、大叔父は佐藤栄作元首相で代々政治家の家系ですから、政界の「名門」といえば名門であり、それなりに育ちの良さそうな雰囲気があったことは否定できないでしょう。大げさではありますが、王侯貴族もどきとでもいうべきイメージを持つ人がいても不思議ではありません。

2 日本の「威信」を高める(ような)イメージを与えることを重視したこと

 安倍政権の政策について前向きに評価する論者の表現を見てみると、「内政についてはいろいろ課題が残ったが、外交や安全保障では成果を上げた」「日本の国際的地位を向上させた」という言い方をする例が目立ちます。このような評価が正しいのかどうか、またどの程度実質的な成果が上がったのかはここでは立ち入りませんが、安倍首相が「外交」に熱心であり「外交」をやっていることを強くアピールしたのは事実でしょう。

 また、第一次政権の頃から安倍首相は「戦後レジームからの脱却」とか「美しい国」「歴史への誇り」などの言葉を繰り返しており、さらに東京五輪に取り組んだのも、改憲をやろうとしたのも、ある意味、国の威信にかかわることだったということができます。

 このように「国の威信」をことさらに重視する姿勢は、「君主っぽい」という感じにも捉えることができるでしょう。

3 支持層の中で利害や意見の対立が激しく起こる課題には深入りしなかったこと

 さらに安倍首相は、少なくとも政権与党の支持層の間で激しい利害や意見の対立が起こるような課題は、実はあまり自分では立ち入ることはなく、やむなく手をつけるにしても大臣任せにして、自分はあまり語らないようにしていたということができます。

 例えば、経済政策面での安倍政権評価で「アベノミクスは金融緩和で一定の成果をあげたが、労働規制の緩和や各種保護の撤廃など、岩盤規制の改革はできていない」というエコノミストが見受けられます。これは、安倍政権は金融緩和による株価上昇などで政権与党支持層に恩恵を与えたものの、労働規制緩和(労働法による規制を緩和するなど)などの具体的な各分野の構造改革等については、それらの政権与党支持層にも痛みを与えることになるので、深入りを避けたとみることができるでしょう。(小泉純一郎首相と比べてみると、違うことがよくわかるはずです。)

 深読みすれば、憲法改正を押し通さなかったのも、改憲については政権与党支持層の中ですらあまりコンセンサスができていなかったので、当初言われていたほどは力を入れないようになったということかもしれません。

 このように、国民(のうち支持層)の中で異論がいろいろ出てくるような具体的な政策にはできるだけ触れず、先に述べたような外交・五輪などの「国威」を高める(ように見える)案件は熱心に関与する、という態度も、「君主」や「天皇・皇族」っぽいというイメージにつながってきたと思われます。近代国家の君主というのは、個々の利害がからむ具体的な政策課題には立ち入らず威信や儀礼にかかわることを重視するという存在だからです。

まとめて考えてみると

 このように「名門」「国の威信を高める(ように見える)行動」「個々の利害が問題になることには深入りしない」ということで、どこか「君主」のようなイメージを安倍首相が与えることになったとすると、そのことが支持率向上・維持にも何かしらプラスに働いたのではないかと思われます。特に保守的な支持層にとっては、精神的な安定感(?)を与えてくれる、それこそある種のシンボルのような存在という面もあったのではないでしょうか。(もちろん不支持層にとっては知ったことではありませんが・・)

今後はどうなる?

 このように、「君主」「王侯貴族」を思わせるような感じだった安倍首相とはまったく違うタイプの菅義偉氏が今後の首相ということになりそうですが、そちらについては今後、様子を見てまた検討していくことにしましょう。

 ただ、歴代の内閣総理大臣の中では、安倍首相のようなタイプこそが、おそらく例外的な少数派というか、特殊だったとはいえると思われます。

よろしければお買い上げいただければ幸いです。面白く参考になる作品をこれからも発表していきたいと思います。