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ただ一点だけに限り、憲法改正をしてはどうでしょうか?

はじめに

 憲法改正の是非や内容についての議論はいろいろありますが、ここで一つ、与野党を問わず、あまり異論がなさそうな憲法改正案を提案してみましょう。

 それは、国会の自主召集を認めるようにするという改正です。

今の憲法では、国会は自分では召集を決められない!

 日本国憲法では、国会を召集するのは天皇の権能とされています。厳密にいうと、摂政と、臨時代行を担当する皇族も、国会の召集を行うことができますが、これも天皇の権能を代わりに行使するものです。

 もちろん実際には、天皇が自分自身の独自の判断で国会を召集するわけではなく、内閣の助言と承認が必要ですから、実質的に国会の召集を決めるのは内閣です。

 ここで注意が必要なのは、現在の日本国憲法では、国会自身による自主的な召集は認められていないということです。内閣が召集を決めて、天皇が召集を行ったときに、初めて国会の会期を始めることができるのです。

国会の会期には3種類ある

 実際に開催される国会の会期は、常会(通常国会)、特別会(特別国会)、臨時会(臨時国会)の三つに分けられます。

 常会は毎年1月に召集することとされており、国の来年度予算を1月中に国会に提出しなければならないことから、予算審議が行われる重要な会期です。

 特別会は、衆議院の解散による総選挙が行われた日から30日以内に行われる会期で、ここで従来の内閣は総辞職し、新たな内閣総理大臣を国会で指名することになります。(もちろん選挙の結果次第では、前の内閣総理大臣だった人物が再び指名されることもあるわけです。)

 臨時会は、必要に応じて内閣が召集を決定するものですが、それだけでなく、衆議院か参議院のいずれかの議員の総議員の1/4以上の議員の要求があれば内閣は召集を決定しなければなりません

内閣が国会を召集しなかったら?

 それでは、内閣が国会を召集することをいつまでも決めなかったら、どうなるのでしょうか。個々に場合を分けて考えてみましょう。

 常識的に考えると、国会で内閣提出法案や予算案が審議できなければ内閣自身が困ってしまうので、内閣提出法案や予算案を審議する必要がある場合は、内閣が召集を決定しない事態は考えられないでしょう。特に予算を審議する常会の場合は、心配はありません。

 特別会の場合、従来の内閣が召集を決定しないと、新たな内閣総理大臣を指名することができず、理屈の上では、従来の内閣がいつまでも居座り続けることになりますが、そのようなことをすれば総選挙の結果を無視するのと同じで、クーデターを起こしたようなものですから、これもさすがに想定はしにくいでしょう。

 問題は臨時会の場合です。とりわけ既に予算が成立して、特に急ぎの審議を要する法案や懸案もないような状況になっている場合、内閣としては臨時会を召集するメリットもモチベーションもないのが普通でしょう。

野党が要求すれば、内閣は臨時会を召集する義務があるが・・

 ただし先ほど触れたように、憲法53条により、いずれかの議院の総議員の1/4以上の要求があれば、内閣は臨時会の召集を決定する必要があります。

 しかしここで注意しなければならないのは、憲法の条文では「要求があれば、内閣は国会の召集を決定しなければならない」とされてはいるものの、「要求があれば、国会が(当然に)召集される」という規定にはなっていない点です。

内閣が召集する義務を果たさなければ、そのままどうにもならない

 つまり内閣は、臨時会の召集を決定する義務を負ってはいますが、その義務に違反して召集しなかった場合、自動的に国会が召集されることになるわけではありません。単に内閣が義務違反をおかしたまま、国会が召集されない状態がいつまでも続くだけなのです。

 (現実の例としては、2017年6月22日、野党が臨時会の召集を要求したのに対して、安倍内閣が約3ヶ月間放置した事案が知られています。)

緊急事態が起こって内閣が動けなくなったら?

 これはもう一つ、災害や感染症や戦争などの緊急事態が起こった場合にも問題となります。

 世の中の憲法改正についての議論の中では、緊急事態が生じて国会が動けない場合に備えて、内閣が国会の立法機能を代行できるようにするべきではないかという論点があり、この発想は自民党の憲法改正案にも明確にあらわれています。
 しかし(人数の比較からいえば)、国会が機能できず内閣だけが機能できる事態よりも、内閣が機能できず国会だけが機能できる事態が起こる確率の方が、はるかに高いのです。

内閣が動けなくなったら、誰が国会の召集を決めるの?

 内閣総理大臣が死亡または執務不能になった場合、憲法の規定では、後任の内閣総理大臣を国会で議員の中から選出するしかありませんが、そのためには、そもそも国会が開会されていなければなりません。
 緊急事態が起こったのが国会の会期中なら何とかなりますが、閉会中に起こった場合は、まずは召集手続が必要となります。内閣が壊滅などして動けない状態だとすると、誰が召集の判断をするのでしょうか。

国会が自主召集できることこそが危機管理!

 国会が、内閣の意思とは無関係に自主的に召集できる規定を作っておけば、こういう場合、内閣が動けなくても国会が自分で対応することが可能になります。

まとめ - 内閣強化ではなく国会強化のための改憲

 以上みてきたとおり、現在の日本国憲法では、国会が自主的に召集して会期を行うことを認めておらず、内閣が召集について決定しなければどうにもならない構造になっています。

 これでは、内閣が義務に反して召集を怠った場合や、緊急事態が起こって内閣が機能できない場合には、国会を開いて審議することができないことになり、特に後者の場合には国政に深刻な支障を起こす恐れがあるので、憲法を改正して国会に自主召集権を与えるのが望ましいと考えられるわけです。

 内閣の権限を強化する憲法改正ではなく、国会の権限を強化する憲法改正ということで、「国会が自主召集できるようにする」というただ一点だけ、憲法を改正してみてはどうでしょうか?


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