YasuhiroHorie

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最近の記事

お前は関係ないから大丈夫【貴公子】

この作品、観始めの印象と観終わったときに感じているものが絶対に違っているはず。それもきっと良い意味で。 登場人物たちが騙し騙され殺し合いつつ考える暇もない速度で展開するストーリーに、観客も大いに騙される。序盤には冷酷無比に見えていたあの人やあの人が、いつしかとても人間臭いキャラクターに見えてくる頃にはもうこの作品にハマっているでしょう。どのくらい騙されるかって、アシュラを観に行ったらブルース・ブラザースだったというくらい…ってわかるかな。いやわかりづらいか。 またパク・フ

    • 亡霊恐るに足りず【12日の殺人】

      先日観た「落下の解剖学」は今のところ私的今年ベスト映画の文句なし暫定1位ですが、今回観た「12日の殺人」は暫定2位。この2作、舞台は同じグルノーブルという田舎の町で、マッチョな司法の男達から見る女という構図も同じ。そして何と言っても話の落としどころが両者とも素晴らしく、差と言ったらまあパルムドッグを獲得したメッシさんの存在ですかね。止まらないグルノーブルの勢い。もはやグルノーブル派。 実は「女の子だから殺された」「すべての男性が殺したようにも感じる」というセリフを感想サイト

      • 死で罪は償えない【我、邪で邪を制す】

        前情報がなければないほど、急激な展開に振り回されるのを楽しめるタイプの作品なのであまり語るのも気が引けるところだけどね。 めちゃくちゃ泥臭いアクションから始まってすっかりバイオレンスアクションものだと思い込んで観ていたら、『悪魔を見た』や、まさかの『オカルトの森へようこそ』のようなやり過ぎ感のある展開まで、一体この映画はどこへ行ってしまうのかって観ているこっちがドキドキと心配してしまうほどですが、最終盤ではトーンが全く変わって「ああ、この話は全てそこに持ってくるものだったの

        • 幸せじゃないことはしなくていい【ネクストゴールウィンズ】

          いま、フットボールも社会もハイプレスショートカウンターだ。相手のチャンスは芽を出したそばから刈り取り、奪ったら一切の無駄を省いてゴールや利益をゲットする。大きな相手の戦術が“ポゼッション”だった頃はそれもまたエキサイティングだった。でも今ではすでに持っていた者がさらに資金や人材を漁り、一分の隙もない効率的な戦いを目指す。そうしたらもうすでに弱いとされた者はどうしたらいい?マンチェスターシティが卒なく勝ったところでそんなグロいフットボールを見ておれは幸せか…げふんげふん、いやな

        お前は関係ないから大丈夫【貴公子】

          手に汗握るってこのこと【梟】

          面白かった! 権謀術数渦巻く宮中の出来事だけに、誰が敵か味方かもわからず、そこに暗闇と光の切り替わりが加わり、主人公の立ち位置が二転三転。「ああ、次はそう来るよね〜」なんてサスペンス物を観ている時にありがちな思いを絶対にさせてくれない、全編緊張感まみれの展開。 なにより、世の中の不正義に対面した時、弱い者って生き抜くためには見て見ぬふりをしなければならないのか。そうか、ほんとにそうか、それでいいのか。そういうアツいところを必ず入れてくる韓国映画、好き。 衣装もかっこよか

          手に汗握るってこのこと【梟】

          右拳に全体重をのせ、まっすぐ目標をぶちぬくように打つべし【犯罪都市 No Way Out】

          日本の中高年としてはもはや往年のトラック野郎やドリフを思い起こすほどの安定感を醸し出すこのシリーズ、しかし今作は武器や総合格闘技に対抗する術として「殴る」ことの純度を上げて、安定さえも打破していく。爽快。 エンドロールが終わったあと、隣の女子が「面白かったぁ」とつぶやいた。どストレート(フックやアッパーも多用)で貴重な作品でした。

          右拳に全体重をのせ、まっすぐ目標をぶちぬくように打つべし【犯罪都市 No Way Out】

          おそれずに言えば面白いんですよ、この映画【ボーはおそれている】

          『ヘレディタリー』というホラー映画史上最高傑作(当社調べ)が長編デビュー作で、その後も臆することなく『ミッドサマー』というさわやか青春ラブコメディの傑作を放ってきた化け物アリ・アスターの、早くも集大成といった今作、全くわけがわからないという感想もたくさん見られるし、いつも何か不安な方は躊躇してしまうかもですがいや大丈夫、「前2作がなんかわからんけど無性に好き」といった面々には必見、むしろ見ないと損というのが今作です。 ちょっと前に観た『哀れなるもの』とは全く正反対の世界観。

          おそれずに言えば面白いんですよ、この映画【ボーはおそれている】

          すごいけど【アフターサン】

          すごいという話を度々聞いていたので、遅ればせながら配信で観たけど…うーん、ちょっとなあ… お父さんと過ごした休暇の思い出。話はただそれだけだけど、何かずっと違和感があったり不穏であったり。その違和感が何かは演出やら編集やらによってわかるようになっていて、またそれが何かわかったときの感情の揺さぶられ感はすごい。これだけ無駄に語らずに映像でわからせるのってこれはまたすごい作品だなとは思ったものの、でも何か乗り切れないところがあるんだよなっていうのが観た直後の感想。あえて率直に言

          すごいけど【アフターサン】

          誰が無邪気だって?【イノセンツ】

          昨年劇場で見逃したので配信(Amazonプライム)で鑑賞。 大人が子供を守るべき無垢の存在だと決めつけている間にも、そこは子供といってもひとりの人間なわけで、大人が知らない間に日々、時には命をかけて戦いながらも学んで行く。それが成長するということなのか。そんな子供たちの好奇心が悪意に変わるその境目って何だったか、踏みとどまった者と突き進んでしまった者を分けたのは何だったかにぜひ注目。 と、わかったようなことを書いてみたけど、AKIRAやストレンジャーシングスなどとは全く異

          誰が無邪気だって?【イノセンツ】

          Poor things とは【哀れなるもの】

          幼い子には本を読んでかわいがり、やがて外を見るようになったらできるだけ早く手放そう。そういえば日本にも、いまや既に忘れられた古の言い回しである「可愛い子には旅をさせろ」ってのがあったな。 人を束縛することがどんなにその人の可能性を潰すことになるのかということを自分のまわりに起こるあれこれで感じている昨今ですが、まさにこの映画。なんの事情があるんだかオッペンハイマーはいまだに観せてもらえてない日本ですが、とはいえ、個人的に2024年のアカデミー作品賞はこれで決まりでよいです。

          Poor things とは【哀れなるもの】

          ポップなゴア【サンクスギビング】

          ジョージAロメロは、ものを考えないただの消費者になった人間を、屍になってもショッピングモールに押し寄せてしまうゾンビとして風刺したとも言われるが、イーライ・ロスはそれを直接的に人間で描いた。パンクか。ブラックフライデイの売る側の狂気、買う側の狂乱とそこにある格差。人間も一皮剥けば皆ゾンビ。人間グロい。グリーン・インフェルノやホステルで見せた鋭いメッセージ性がオープニングからフルスロットルで、このまま最後まで突っ走るのかと思いきや… 舞台がその狂乱のブラックフライデイの1年後

          ポップなゴア【サンクスギビング】

          遠い国のごく身近な物語【ニューヨークオールドアパートメント】

          思春期ホモサピエンス♂のアホ面と中高年ホモサピエンス♂の嫌らしさって普遍なのかな… 「不法移民」というわかったようなわからないような概念によって性や労働や尊厳を搾取される社会をちょいちょい意識させてげんなりするものの、あくまでその中で強かに明るく生きる兄弟の生活を描いており、また場面時間の操作により結局はホッとする展開となっているので、鑑賞後は爽やかな希望を感じるほどの作品としてのさじ加減の良さ。 なんとなく、何故か隠れた名作「マイスモールランド」っぽい話かなと思って観に

          遠い国のごく身近な物語【ニューヨークオールドアパートメント】

          2023年の私的ベスト映画

          さて、ふと気がつけばもう2024年。2023年公開の作品で見逃しているものもまだ多いけれどまあそれはそれとして、2023年に劇場で観た映画の中で一番のお気に入りを決めてみました。 大スター共演の鉄板、「非常宣言」から始まった2023年、全人類必見の「SHE SAID」、アイデアが秀逸で鑑賞中ずっと変な汗が出ていた「Fall」、まごうことなき大傑作のアツいエンタテイメント作品「Everything Everywhere All at Once」…など前半からこれ。悩ましい。

          2023年の私的ベスト映画

          牛の目ってかわいい【ファースト・カウ】

          観ている最中はずっと「ドーナツ食いてえ」という思いがひたすらぐるぐるまわり、最後のシーンは「え、これで終わった?」と唖然としてしまったというくらいピンときていなかったんだけど、映画館を出てエスカレーターを降りている頃にやっとじわじわと「ああ、いい作品だったな」と感じてきたというこの作品。 そもそも、メッセージをガンガン突きつけてくる作品に対して全部受けきってやるぜ!と応じる鑑賞スタイルが基本なので、こういう作品は得てして苦手なわけですが… 開拓時代の社会の隅っこでひっそり

          牛の目ってかわいい【ファースト・カウ】

          青春ホラーってジャンルはあり?【TALK TO ME】

          考えてもみてよ、人生初の出来事が怒涛のように押し寄る毎日を、何とかかんとか必死で切り抜けようとする思春期って。本人はいつも誠実に対応しているつもりだけど当然失敗もよくする。そんな子供たちに対して、それよりもあれはしたのか、まだこれをしてないじゃないか、いやそれは嘘だろう、と常に追い討ちプレッシャーをかけまくる大人たち。 劇中では子供の話を一切信用しないジェイドのお母さんや、何年も“良かれと思って”隠し事をしていた主人公のお父さんがまさにそう。子供に何かあったときだけ、今まで

          青春ホラーってジャンルはあり?【TALK TO ME】

          Nothing in Particular【The Killer】

          途中から「あれ、ギグワーカーの話?いやまさか…」という感じで観ていたけどやっぱりデビッド・フィンチャー流のケン・ローチ。なにしろ個人請負契約の稼業、報酬の代わりに多大なリスクを背負い、常に身も心もすり減らしながらきっちり仕事をこなしているのに、何かひとつトラブルがあれば事情もくそもなくさっくり切り捨てられる。結局最後に全部持っていくのは上位1%という労働者の悲哀。でもせめて爪くらいは立てて行こう。ツボる。 そもそもいつもスミスを聴いている殺し屋という設定が絶妙だし。どうして

          Nothing in Particular【The Killer】