最後に勝ったのは…【ソウルの春】
史実なのでこの結末は知ってる。でも悔しい。観客なのに何故か強烈に敗北感まで感じる。それでもうっすら、「まだ敗けてねえ」という気持ちも起きるのはこれ、いったい何でしょう。
ひとつはやはりこの作品そのものの力が凄まじいこと。変に時系列をいじったりせずに、その日数時間を一方向に追うシンプルなストーリーや、日本の昭和実録物のような字幕による人名所属アシストによって観客を迷子にさせない配慮があるという優しさ設計。そこに乗せてくる、韓国映画界が誇る層の厚いおっさん俳優陣の演技力がまたすごい。今作の二枚看板のうちの一人、チョン・ウソン演じる、真面目で堅物でだけどスイッチ入ると首都に野砲をぶち込むことも厭わないというとんでもない将軍(コップは食べません)をはじめ、非常時でも実直な軍人や、逆に保身のため数分ごとに手のひらをパタパタ返しまくるおじさん、ひたすら無能でイラッとさせるお偉いおじさんなどのキャラクターが妙に身近でリアルに感じられます。ファン・ジョンミンはもう何か別のゾーンに入ってますね。なんとなく「アシュラ」の市長みたいな感じなのかなって思ってたけどいやいや、あの市長のような人間臭さを全く感じさせない見事な全斗煥っぷり。映画史に残るであろうあの高笑いは、いつものファン・ジョンミンの声ではなくてやばい何かが乗り移っちゃってる感じでゾワゾワしましたよ。
そしてもうひとつ、ラストシーンが訴えるメッセージ。最後はアホ面さげたおじさん達の集合写真なのですが、その写真にだんだん色がつき始めて結局、いわゆるセピア色になる。韓国は歴史にきっちりと向き合って過去のものにしたってことか。この物語のあと、韓国はこのクーデター一派による軍事政権がしばらく続くのですが、映画で言うと「弁護人」やら「タクシー運転手」(どっちもガンホさん…)やらの時代を経て民主主義を取り戻し、いまや世界的なエンタテインメントの発信地となるカルチャーを作り上げた。「最後に勝ったのはお前じゃない」と言えるクリエイターたちによる真のエンディングは現在。胸糞どころか胸熱な一本でした。
東アジアの国の仲間として、私たちもまず、きっちり歴史を正視するところから始めたいところですね。
劇中、全斗煥モデルが言う「人間という動物はだな、強いものに導かれたいと思っている」は、現在の日本でも詐欺師成分が多い政治家などがよく言いますが、それは強く否定しておきます。