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映画 「殺さない彼と死なない彼女」 逆光みたいに射し込むもの

完全に“舐めてた案件”でした。「高校生の胸キュンラブストーリーね」とスルーしていましたが、評判が尋常ではないため調べてみたら埼玉で2カ所しか上映していない…車で1時間かけて観てきましたが、この作品を上映していないってどうかしてるよ?


何だか妙に白っぽくて、現実味が薄い逆光気味の不思議な画面。小坂と鹿野、きゃぴ子と地味子、撫子と八千代君の3組の場面が交互に入れ替わりつつ物語が進みます。

撫子さんは八千代君が大好き。会うたびに「あなたが好きよ」と伝え続ける。「大好き」と伝え続けることの出来る撫子さんの大きな愛はどこから来ているのか。撫子さん宅近くの農道のシーンは逆光と共に会話する相手への焦点が特に目立っていた。“逆光の中でもあなただけは焦点を絞って見えている”という思いを映像で感じる場面だった。

愛されていないと不安なきゃぴ子は本当に可愛かったなぁ。いつも冷静にそばにいる地味子の常松祐里ちゃんとの並びは神。

留年した小坂と死にたい鹿野が「死ね」「殺すぞ」「うざ」「ブス」と感情が伴わない淡々とした会話を交わしながら過ごす。不思議だけど、その様子を観ているだけでも何だか幸福な気持ちになるのです。少しずつ言葉の裏にあるお互いの感情が見えてくるから。

どうやら3組が通う高校で何か事件があったらしいことを匂わせつつ、途中まではエピソードが淡々とつなぎ合わされているように見える。けれど、物語が加速した以降に判明する何層にも組み込まれた構造と感情の移ろいは圧倒的でした。とにかく最後の場面まで涙が流れっぱなし。

登場した3組には、さりげなく誰かが隣にいる。隣にいる人への思いを何と表したらよいのか。私の知っている言葉の中から探し出すと、陳腐だけどそれはやはり愛。巡り巡る圧倒的な愛の物語。素知らぬ顔で隠しているけど、この物語には愛が逆光みたいに射し込んでいるんだ。

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