見出し画像

映画「ヤクザと家族The Family」感想

描かれるのは1999、2005、2019の3つの時代。時代が産み出す良い流れもあるけれど、一方で不要と判断されたものは排除されていく。

共通しているのは、その時に見過ごされてしまう人達なのではないかと思う。経済的問題などから家庭環境が壊れた子供達は行き場を失い、そこからグレーな世界で生きていくしかなくなることもある。

映画では「ヤクザ」という存在に置き換えているけれど、この物語は一般社会から何らかの事情で外れて、その環境で生きざるを得ない人々を描いているのだと思った。


映像には、工場から排出される煙が何度も映し出される。1999・2005年は戦いの狼煙や、経済が動いている象徴に見えた。普通の人々が消費する中にヤクザのシノギは隠れていて、それが煙として可視化され立ち昇っているようにも見えた。

2019年になりその描写は減ったのは、ヤクザの存在や人権が表面化できないものに変化して、煙として可視化出来なくなったのかなとか色々想像した。

20年間に渡る三世代の人間関係を描いているが、血縁関係がある登場人物の繋がりはごく一部。自分に与えてくれた小さな優しさや思いが家族のような繋がりとなるエピソードが散りばめられている。その思いが、新たな世代に不要な連鎖を断ち切るところが非常に良かった。


(以下はネタバレを一部含むので、未鑑賞の方は気をつけてください)

・心理学的には分化的接触理論を感じずにいられない展開が。あの翼君が!母の愛子さんは翼の変化をどう見てきたんだろう。あと、食堂名はオモニ食堂なので、おそらく韓国出身なのかな。

・女性は愛子さんと由香と彩しかほぼ出てこない。3つの時代の変化を見ながら生きてきた愛子さんの感情をもっと見たかったな。時代を生きるのは男性だけではないから、その視点を描くことは大事な気がする。

・時代の変化の描写で好きなのが車。黒塗りのセダンが2019年には黒のプリウスに!柴咲組の経済状況が一発でわかって秀逸。あと食事の変化。1999年には高級そうな寿司で賢治を迎えていたのが2019年には仕出し弁当になっていて裏寂しさの表現が凄い。

・海の中で始まり海で迎えるエンディング。賢治の父も海で…なんだよね。賢治、翼、彩ともに父が不在故に思いが大きい。家族の不在は、子の心を大きく動かすという当たり前のことを改めて実感。最後の翼と彩の出会いが、上の世代が作ってきたような新たな繋がりになるといい。

・俳優さんがみんな素晴らしかった。館ひろし演じる柴咲の変化に不安を感じる2019年最初の声の音量、豊原功補さん演じる加藤のイヤ〜な感じ(あの人も小さいお子さんいたな…)、北村有起哉さん演じる中村の嫉妬心とか、エンタメとしても本当に面白く観れた。綾野剛さんは勿論のこと、磯村勇斗さんの最後の眼と表情が素晴らしすぎて忘れられないよ。

・舘ひろし演じる柴咲が「ヤクザをやるしかなかった人間の家族でありたい」という意味合いの言葉を言っていた。この言葉、本来は社会全体が背負わなくてはいけない言葉だなぁと思った。情としての繋がりを社会が担うのは難しいかもしれないけれど、物理的な環境整備や経済的支援によるベースがあることが第一だよね。

・新聞記者もそうだったけれど「今だからこそ観なくてはいけない映画」でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?