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「上手ね」と褒められていたこと

 つい先日、母方の親戚と東京で会う機会があった。そのとき小学2年生の女の子も一緒についてきていた。彼女は照れ屋で始終ママにべったりだったから積極的にコミュニケーションを取ろうとはしてこなかったけど、ホテルの一室に集まっていた時ふいにその子がみんなに絵を見せはじめた。
「上手ねえ」
「上手に描けてるねえ」
 見せられた大人たちは皆口々にそう言っていた。
 へえ〜どんな絵なんだろう。
 少し興味がわいてきて遠くからそっと盗み見た。部屋に備え付けられているメモ用紙に引かれた何本もの鉛筆の線。
 正直、子供の絵だなとしか思わなかった。
 そんな時急に、その子が昔の私に見えてきた。私も昔はいろんな絵を描いて家族中に見せて回っていた。私が
「なあ見て〜〜〜!!」
と声を掛ければみんな忙しい手を止めて振り向いて、絵を見て必ず
「とっても上手ねえ〜〜」
と言って褒めてくれた。だから、絵を描くことが好きになった。そんなことを急に思い出して、あのときの大人たちの気持ちを理解した。
 大人になったからわかる、大人は良いものをたくさん知っていると。「上手」というのも所詮、「子どもの」上手であることも。
 ただ、私もかつて子どもだったからわかる、褒められると嬉しくて、自分はすごい力を持っているんだと思えたことを。大人に「上手」と言われるのが同年代に言われるよりずっと嬉しかったことを。
 そして、大人に褒められたことを何十年経っても覚えていることを。
 
 ベッドに横になりながら、その人にとって初めての「上手ね」をあげられる大人になりたいと思った。

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