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本屋と人生と

 両サイドを本棚に囲まれながら書店をぶらぶらしていると、もう縁のない「高校学参」コーナーが目に入った。気まぐれに入ってみると、視界が一気に真っ赤になってギョッとした。懐かしいもの、憧れたもの、固執したもの、繰り返したもの、あの時は視界にも入らなかったもの。まるで異世界に来たような心地だった。でも、覚えている。私は確かにこの世界に生きていた。あの頃は、狭い本屋のもっと狭い通路一本分の世界が私の全てだった。

 本屋は人生そのものだと思う。人生とは本棚と本棚の間を、歩いたりしゃがんだりすることだ。一つの通路を歩き終わったら、また別の通路に入って行く。空っぽの本棚に挟まれて立ち尽くすこともあれば、好奇心を満たす本に囲まれて笑顔でその場に座り込むこともある。輝かしい人生を語る本棚の裏側が犯罪ルポや病気の本棚であることもその逆も。

 複数人で本屋に行くとはぐれやすい気がする。近くにいるはずなのに、ちょっと別の通路にいるだけでお互いの位置がわからなくなってしまう。私たちはその通路にいる人しか認識できない。近くにいる人が大きいせいで、遠くの人が見えないこともある。そういうところも人生に似ていると思う今日この頃。

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