大人【おと-な】
いつの間にか「私が子供の頃は〜」と言っても「今も子供でしょ!」と言われなくなった。お年玉も貰えなくなり、バイトを始めてからは月のおこづかい制度もパッとあっけなく消滅してしまった。
いつか自分の財布の中身から「おこづかい」が消えて「給料」ばかりになることは高校生くらいの頃にはわかっていたけれど、いざその時が来てみると何だかぼんやりと寂しい気がした。多分今後、財布の中に「おこづかい」がある日はない。これから何度財布を開いても、出迎えるのは「給料」だけ。そっか、大人になったんだと思った。
思えば最近、天気の話題が増えた。バイト先の人と控室でばったり出会っても「お疲れさまです。今日も暑いですねえ」とか言っている。向こうからも「お疲れさまです。ほんと暑いですねえ」とか返ってくる。自分が天気の話題をするなんて、昔は思ってもみなかった。でも今はもう、挨拶プラスアルファとして普通に使っている。あ、大人になったなと思った。
ふとしたときに、大人になったと感じる。七夕の短冊に1分悩んで「家内安全」と書いた。中学の同級生の中に結婚する子が出てきた。ニュースの容疑者に同世代が増えてきた。労働や結婚、子育て関連の政策があるとつい見てしまう。年金手帳が届く。今戦争が起こったら同世代の男性が真っ先に徴兵される。美容師さんが同世代になった。そのうち友達の数より払っている税金の種類の方が多くなる。二十年後には親が高齢者になっている。
こういう気持ちを抱えながら、家族も大人になっていったのだろうか。私の物心がついた頃には、母はもう母で、祖母はもう祖母だった。そのときには母は母にとっての祖父母を、祖母は祖母にとっての祖父母と父母を看取った後だった。私はまだ、祖父母も父母も看取っていない。これから少しずつ少しずつ、泣き別れていく。私はきちんとお別れできるだろうかと心配するときも、大人になったなと感じている。
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