教科書を読む「ごんぎつね」①
可愛い姪っ子が春から小学校の先生に🌸
緊張して教科書を音読する姪の姿を思いながら
気づけばアナウンサー歴24年の叔母なりの
「ごんぎつね」
どんな風に読むのか綴ってみます。
こちら教科書にも載っている有名な「ごんぎつね」の冒頭です。
これは、私が小さいときに、村のもへいというおじいさんからきいたお話です。
むかしは、私たちの村のちかくの、中山というところに小さなお城があって、中山さまというおとのさまが、おられたそうです。
その中山から、少しはなれた山の中に、「ごんぎつね」という狐がいました。ごんは、一人ひとりぼっちの小狐で、しだの一ぱいしげった森の中に穴をほって住んでいました。そして、夜でも昼でも、あたりの村へ出てきて、いたずらばかりしました。はたけへ入って芋をほりちらしたり、菜種がらの、ほしてあるのへ火をつけたり、百姓家の裏手につるしてあるとんがらしをむしりとって、いったり、いろんなことをしました。 ー青空文庫よりー
難なく読めますよね(笑)
読むと30秒ですが…
もし私がこの文章を誰かにレッスンするなら
3時間は欲しいです。
でも子供達でもわかるように
なるだけ簡単に紐解いていきたいと思います。
ではでは…始めさせていただきます…。
「これは、私が小さい時に・・聞いたお話です。」
「ごん」が出てくる前のむかーしむかしみたいなプロセス。この一文だけでゆっくり物語に引き込みます。跳び箱を飛ぶ前の助走ですね。昔話を聞く時、母の「むかーしむかし」にはなんとも言えない秘事と期待感がありました。だからこの2行はとっても大事です。
文頭、一番はじめに声に出す「これは」。あえてここでは「こ」は音を明瞭に出すのではなく喉止めし、喉と口腔内で曇らせ響かせる「こ」。その方があやかし感が出てきます。もっとおどろおどろしくしたいなら、「これは、わたしが小さい時に、むらのもへいというおじいさんから、きいたお話です」太字のところでどんどん音を下げていきます。岸田今日子さんの音の下げ方などは秀逸です。「もへいおじいさん」も「も」を曇らせて母音の「もオ」のオを強めにうねるように声を出せば、もへいさん自身が不気味な存在になったりもします。
今回は怪談でもないので、「これは、わたしがちいさい時に、むらのもへいというおじいさんから、きいたお話です」太字のところで高さを変えてみます。
普段の会話でも、強調したいところは強めに出ますよね。例えば「わたしは、TBSの ドラマが すきです。」という文。あなたでもあの人でもなく、このわたしがすきなんです。という時は「わたしは、TBSの ドラマが すきです。」とわが高くなりテンションがかかります。日テレさんでもフジテレビさんでもなく、TBSのドラマが好きという時は「わたしは、TBSの ドラマが すきです。」バラエティでもニュースでもなく、ドラマ好きという時は「わたしは、TBSの ドラマが すきです。」嫌いでも普通でもなく、好きなんだ!という時は「わたしは、TBSの ドラマが すきです。」となったりします。
という事は「これは、わたしが小さい時に、むらのもへいというおじいさんから、きいたお話です」も自分が印象づけたいところを強めにだすと表情が全く違ってきます。楽しいですよ。小学校で習った音読は、みんなで一緒に読んだりするので、どうしてもある一定のリズムと、文頭は同じ高さの音で出る事になってしまいますが、もっと自由に音の出しからもスピードも変えていくのです。わたしの場合、「これは、わたしが小さい時に、むらのもへいというおじいさんから、きいたお話です」の「こ、わ、む、も、き」でミ→ミ♯♯→ミ→ミ♯→ミ♭と変化し「わたしが」で一番高くなります。きっとわたしが聞いた話なんだけど…という事をアピールしたいのです。
あ...たった2行だけでこんなになってしまいました。
あと200行あるので…こんな事していたら、あっという間に子供も成人です。
このあと、ごんが出てきます。最初はとっても天真爛漫で、邪気もなくて、いたずら好きなごん。
次の4行で野原を駆け回るごんの姿をどう音で表現していくかも楽しみな作業です。
誰でも簡単に読める教科書のお話。
でも読み取り方がわかれば音は無限に広がります。
2020・3・18 TBSアナウンサー 堀井美香