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横浜ロースタリーの3つの特徴

前回までの記事を通じ、堀口珈琲は、スペシャルティコーヒーの根幹である “クリーンな風味” を重視して生豆を選び、無理のない焙煎を施すことで “生豆由来の特徴を取り出す”、とお伝えしてきました。

今回は焙煎の現場である「横浜ロースタリー」で、実際にどのようなことを行っているかを紹介します。


ロースタリー とは

 ロースタリーとはロースト(焙煎)する施設を意味します。といっても、横浜ロースタリーでは、ただ焙煎をしているだけではありません。堀口珈琲のこだわりを目一杯詰め込んだコーヒー豆をみなさまの元へ送り出すため、焙煎前の準備から仕上げ、品質確認まで様々なことを行っています。

 それでは、まず横浜ロースタリーでの工程の流れを確認しましょう。下の図をご覧ください。

特徴は、「生豆の温度調整」「3段階の選別」「2回の風味確認」の3つ。それぞれが「焙煎の安定」「風味のクリーンさの向上」「焙煎豆の品質保証」に寄与しています。ここまで徹底しているロースターは稀有ではないでしょうか。

 ここから、3つの特徴についてもう少し詳しく解説します。ちょっと長くなりますが、コーヒー片手にお付き合いください。


生豆の温度調整

 焙煎は生豆を加熱していく工程です。前回(No.2) “取り出す焙煎” の記事でも触れましたが、無理な加熱は風味のバランスを崩します。安定的に適切な熱を加えていくには、開始温度の設定と安定が欠かせないのです。
横浜ロースタリーでは、生豆を受け入れた後、定温室に一定時間保管し、温度を調整してから焙煎にかけます。こうすることで、季節や天候による初期条件のばらつきを減らし、意図した焙煎が持続的に実行しやすくなります。


3段階の選別

 最高品質の生豆を仕入れているなら、選別の必要はないのでは、と思われるかもしれません。もちろん並品と比較すればスペシャルティな生豆は非常にきれいです。しかし、それでも多少の異物や不良豆は混入しています。そこで、堀口珈琲では、「 生豆の “機械”選別 」「焙煎豆の “機械” 選別 」「焙煎豆の “手” 選別」の3つの選別を施し、生産者から引き継いだコーヒーに磨きをかけています。
 といっても、やみくもに選別すれば良い訳ではありません。生産者が丁寧に作ってくれた生豆はできるだけ使い切るべきです。そのためにも、ロースターは異物や風味上除去すべきものだけを “的確に” 取り除く努力・工夫をしなければなりません。

 堀口珈琲の3段階選別は、「たくさん取り除いています!」とアピールするためではなく、適切な労力配分で、的確な選別を目指し、設計したものです(非効率な人海戦術は品質の安定性とコストの両面で望ましくありません)。

 この他に、どの段階でも取り除きにくいものとして “虫食い豆” が挙げられます。これは、産地側も含め、各段階を通して、少しずつ取り除いていくしか方法がない、やっかいな不良豆です。

では、3つの選別について詳しく見てみましょう。


1回目:生豆の“機械”選別

焙煎してしまうと見分けにくくなる異物と不良豆を、そうなる前の段階で重点的に取り除きます。良品との差が明らかなため、機械選別でも精度高く選別できます。処理スピードも機械の方が圧倒的に速く、人の手を本当に必要な工程に重点的に振り分けられます。

1回目の機械選別で取り除かれるもの


2回目:焙煎豆の“機械”選別

焙煎すると見分けやすくなる不良豆があります。その中でも違いが顕著なものを重点的に機械で取り除きます。他にも、欠けた豆や焦げた豆など、見た目の差がはっきりしているものを除去します。

2回目の機械選別で取り除かれるもの


3回目:焙煎豆の“手”選別

風味に影響を及ぼすにもかかわらず機械では判別しにくい微妙な違いのものを、人が見て判断し、手で取り除きます。この部分を機械に任せてしまうと、多くの良品も一緒に取り除かれてしまいます。また、機械をすり抜けてしまったものがないか再チェックする役割も果たします。

左が良豆、右が生豆の生育がやや不十分で焙煎してもやや色つきが悪い豆


2回の風味確認

 横浜ロースタリーでは、焙煎ごとにサンプルを採取し、ペーパードリップで風味を確認します。ペーパードリップを採用しているのは、この抽出方法がお客様の手元や店舗で最も多用されているからです。この風味確認は時間を空けて 2 回 行っています。

1回目:お客様の手元に届く前

お客様の手元に届く前に、焙煎に問題がなかったか確認するのが目的です。次回の焙煎をより向上させられるかの検討も同時に行います。

2回目:お客様が楽しむタイミング

焙煎 7 日後を目安に行います。お客様が実際に楽しむタイミングでの状態やおいしさを確認することが目的です。焙煎直後よりもこの時点での状態やおいしさが優先されます。焙煎直後がおいしいだけでは、実際に召し上がっていただくときの風味が必ずしも保証されないからです。

このように、2回の実践的な風味確認を通して、お届けするコーヒーの品質を確実にすること、焙煎を安定・向上させることを追求しています。


 今回は横浜ロースタリーの3つの特徴を紹介しましたが、衛生管理など他にもこだわりがたくさん詰まっています。ブランドサイトで詳しく紹介していますので、ぜひご覧になってみてください。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は「スペシャルティコーヒーの風味 」と題し、堀口珈琲が目指す “クリーンな風味” とはどういったことかを解説していこうと思います。


Profile
若林 恭史(わかばやし たかし)
1980 年埼玉県秩父市生まれ。2005 年堀口珈琲に入社し、焙煎・ブレンディング・生豆調達の担当者として経験を積む。生豆事業と焙煎豆製造・流通の各部門の統括者を経て、2020年7月より現職。
コーヒーを仕事にしてしまったので、趣味と呼べるものはないが着物が好き。

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このコラムは2021年5月23日配信のニュースレターHORIGUCHI COFFEE Letter No.3」を再編集したものです。