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“取り出す焙煎” ー 堀口珈琲の焙煎の考え方

前回(No.1)は、素材 = 生豆を通して弊社のスペシャルティコーヒー観をお伝えしました。今回は「焙煎」。生豆を高温で加熱し、コーヒーらしい風味に加工する工程です。その中でも「スペシャルティコーヒーの焙煎」を取り上げます。

堀口珈琲の焙煎の考え方

 スペシャルティコーヒーはその成り立ちから、〇〇農園産など生豆の産地情報に目が行きがちです。しかし、全く同じ生豆でも加熱の仕方によって味わいは大きく変わります。焙煎は、我々ロースターの腕の見せ所でもある、非常に大切な工程なのです。

この投稿を通して、弊社の焙煎に対する考え方の独自性を少しでもお伝えできればと思います。


 堀口珈琲の焙煎に対する考え方はとてもシンプルです。
“スペシャルティコーヒーの焙煎は、スペシャルティな素材から、その特徴を素直に取り出してあげれば良い”
 こういったイメージをもって施す焙煎を一言で表現すれば「取り出す焙煎」となるでしょうか。

堀口珈琲 横浜ロースタリーでの焙煎の様子


付加的焙煎と演出的焙煎

 「取り出す焙煎」の対極にあるのが、「付加的な焙煎」や「演出的な焙煎」です。
 「付加的な焙煎」とは、生豆由来でない要素を楽しむための焙煎です。例として炭焼きが挙げられます。これは生豆から派生する風味とは別の風味を外から付加する、もしくはその様式自体を楽しむ焙煎です。スペシャルティとは異なるコーヒーの世界の楽しみと言えるでしょう。
 一方、「演出的な焙煎」とは、味わいの一部の要素を際立たせる焙煎です。例として、コーヒーの特徴を演出しやすい要素の「酸」「香り」にフォーカスし、特にその「量」を重視する焙煎が挙げられます。

 こうした焙煎は、2010 年代に流行した「サードウェーブ」というムーブメントにおいて顕著に見られました。浅い焙煎(ロースターによっては極めて浅い焙煎)で、「酸」「香り」を強調し、わかりやすく演出する。このアプローチは、特徴的な風味(個性)を評価するスペシャルティコーヒーにおいて一つの回答と言えるのかもしれません。

 ただ、酸や香りを強調する焙煎で往々にして行われるのは、加熱時間全体を無理に短縮する、あるいは焙煎過程のある部分で加熱を極端に強める、といった手法です。どちらも生豆に過剰な変化を加えます。酸の面では、その量(強さ)を増す効果はありますが、心地良くない酸を引き出してしまい、質を下げる可能性が高まります。副次的に、加熱の偏りにより生じる、焦げにも似た不要な香りが付加されてしまう、口当たりがラフになる、といったリスクも高まります。


取り出す焙煎

 堀口珈琲の「取り出す焙煎」は、「付加的な焙煎」ではもちろんありませんが、生豆に過剰な変化を加える「演出的な焙煎」とも異なります。それは、それぞれの生豆が持つ特徴的な要素や可能性をイメージできた上で、「味わいとして、無理なく、そっと、取り出す」といった感覚でしょうか。

 「取り出す」といっても、施すべきことはきちんと施します。例えば、浅煎りの場合でも加熱は「きちんと」します。加熱が不足すると生豆由来の青臭い香りや穀物臭が残ってしまうリスクが高まるからです。
 全体的にバランス良く加熱し、無理なく焙煎を進めてあげる。スペシャルティな素材は、これができれば、あとは素材から自然と特徴的な風味が浮かび上がってきてくれます。

 堀口珈琲の焙煎はこれに尽きます。言葉にしてみると、あまりに普通すぎますね。しかし、これを実行するには、日々、様々な生豆に向き合い、焙煎という工程に向き合い、仕上がったコーヒーを口にし続けることが欠かせません。もちろん無理なく焙煎を進めるには相応の技法も必要です。

珈琲の生豆。淡い緑色をしています。
コーヒーの味わいや香りを確認するための"カッピング"の様子。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、焙煎の概念的な話でした。次回は具体的に、原料(生豆)から商品(焙煎豆)まで、どういったことを行っているかを紹介したいと思います。


Profile
若林 恭史(わかばやし たかし)
1980 年埼玉県秩父市生まれ。2005 年堀口珈琲に入社し、焙煎・ブレンディング・生豆調達の担当者として経験を積む。生豆事業と焙煎豆製造・流通の各部門の統括者を経て、2020年7月より現職。
コーヒーを仕事にしてしまったので、趣味と呼べるものはないが着物が好き。

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このコラムは2021年3月4日配信のニュースレター「HORIGUCHI COFFEE Letter No.2」を再編集したものです。