息抜きビジネスホテル

二ヶ月に一回、時期によっては一ヶ月に一回ほど、地元のビジネスホテルに一人、泊まる。

子どもたちのテストの点が異様に悪かった時、ちょうど時間の無い時に行われる主人のボディタッチ、会話の噛み合わない母とのいざこざなどが重なると、手が勝手に宿泊サイトを開いている。

十五時チェックイン。一応の母業をこなし、夕飯は作ってから出る。

以前はラブホテルだったその場所に、ビジネスホテルはある。チープなアイボリーの壁に、これまたチープな赤字で「朝食付き4800円」税抜だ。

しかしこれは安い。下手にネットカフェなんかに泊まるよりずいぶん良い。

愛想はないがかろうじて失礼ではない女性に受付をしてもらい、チェックイン。

来てすぐに荷物を下ろし、貴重品だけ持って近くのコンビニへ。部屋にレンジは無い。ジャンクな麺を温めてもらい、ホテルへ帰る。

ここからは自分の世界だ。全て脱ぎ捨て、ガウンに着替えたら、立膝で椅子に座り、麺を啜る。

しかし楽しい。この時点で満点。

腹を満たしたら、次は風呂だ。

ガス代も水道代も気にしない。後に入る人間もいない。

たっぷりとしたお湯に浸かり、浴槽内で全身を洗う。リンスインシャンプーは髪が軋むが、荷物を減らしたいのでいつも備え付けを使う。

普段は歯磨きを入浴中にするが、今日はまだしない。入浴後にブラックサンダー抹茶味が待っている。いちごみるくだって飲みたい。

ゲーム動画を見ながら、濡れた髪を乾かして、やはり立膝でブラックサンダーを齧る。

他人がいればできないことが、ここでは満遍なく出来る。

明日は休みだから、まだ寝なくてもいいはずなのに、整えられた寝具は眠気を誘う。

流石に歯磨きはして寝たい。ベッドに放り投げていた体を起こして、充電器にスマホをさしておく。

歯磨きは丁寧でなくていい。明日の朝家に帰って、電動歯ブラシで磨くから。硬い歯ブラシで簡単に磨き、フラフラとベッドへダイブする。

ああ最高。この瞬間がとにかくいい。

子どもの登校班も、主人の弁当も、車を縦列駐車できない母のために動かしてやるあの面倒な作業だって、明日の朝は無い。

暖房を二十七度に設定し、眠りにつく。

明日の朝には、熱くなり過ぎた部屋と、乱れたガウンに包まれて目を覚ます。朝食バイキングが楽しみだ。

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