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手刻みができる職人に出会えたこと「役割」 ♯3

私が今回、大工職人の大野さんについて記事を書いたのには、理由というか、心に留めておくことができない何かがあったからです。

♯1の方でも書きましたが、昨今は、建築材料となる木材を工場であらかじめ加工するプレカット工法と呼ばれる建て方が主流となってきました。これは、大工職人の高齢化や担い手不足という課題への対策ともいえます。

プレカットであれば、長い修行を経なくとも、手刻みができなくとも、部材の組み立て方を覚えればできますから、現場の人材確保という意味では、だいぶ助かる建て方です。ハウスメーカーも地域の工務店も生活がありますから、安定した材料が入ること、安定的に現場を回せるというのは大事な観点です。

しかし、そういった経済活動の裏側で、今回紹介したような大切な技術が失われていっていることも忘れてはいけないように思うのです。

技術も需要がなければ、供給することができません。
供給できなければ、食べていくことができませんから、その職を全うしていくことが難しくなってくるのです。
そうして、技術を持った職人がより減っていくのです。

寺社の建築で使われた木材の種類や割り付けを説明してくれる大野さん(お父様)
昔手がけた数々の仕事の写真を見せてくれた。それぞれに深い思い出があるようだった。

たしかに、住宅を新築する一般の人からしたら、ハウスメーカーのパンフレットは分かりやすく、綺麗で心躍るものがあります。家を建てた後の家族の暮らしがキラキラと輝いて想像できるでしょう。
営業さんが細かく丁寧に対応してくれますから、自分で動く手間も省け、ローンや保険の書類関係も楽に進めることができます。
時間の無い現役世代の人にとっては、とても助かるシステムです。
時短、タイパを重視する時代にはマッチしているともいえます。

私が移住した勝浦においてもハウスメーカーの住宅が少しずつ増えてきました。私はこう思ってしまうのです「勿体ない!」
こんな身近に、こんな貴重な技術を持った職人がいるというのに!と。
しかも、将来を見据えて細部まで丁寧に考え、地元の職人として責任を持って建ててくれて、更に、その後のメンテナンスや困りごとの相談までずっと逃げずに面倒を見てくれるのに……
(将来も逃げずに…というのが大きなポイントだったりします)

打合せの時はいつも真剣で、あまり笑顔は見せない大野さん。

新築においてはそのような状況が続いていますが、中古住宅の改修となると話しは変わります。ゼロから建てるよりも、既に建っている中古住宅の改修は難易度が高く、大野さんのような大工職人の技術が必要となってきます。

長年の歳月を過ごしてきた中古住宅が抱えている問題は様々。
建っている場所の環境や、住んでいた人の維持管理の度合いなどで、建物のコンディションも変わってきます。
雨漏り、蟻害、結露などにより、木材が著しく腐食してしまっている住宅もあります。そういった場合、腐食している一部の木材だけを新しく取り替え、元々持っていた建物の耐力を蘇らせるという改修を行います。
そんな時に、手刻みの技術が必要になってくるわけです。

♯1でも書きましたが、大野さんのような職人は、どの木材をどういう向きでどう使うか、どう刻んで既存の部材と繋ぐか繊細に考えながら、更にその地域の気候も踏まえて改修を行っていきます。

最近では、「空き家問題」、「中古住宅の流通」、「既存ストックの活用」なんてキーワードをよく目にしますが、どちらかというと不動産流通のノウハウばかりが注目されていて、改修の技術についてはまだあまり注目されていないように感じます。

これからの時代だからこそ、今回紹介したような手刻みができる「本物の職人」の技術が不可欠だし、大切な役割を担っていくのだと私は思うのです。

最後にお願いして撮らせてもらった大野さん親子の写真。


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