D2 終盤の進捗報告

この記事は 社会人博士 Advent Calendar 2021 の 23 日目の記事です。この記事では、私 horiem の D2 終盤における進捗報告をします。D 進したさまざまな経緯は 去年の記事 に書いたので、気になる方はそちらを参照してください。今回は、去年からの差分を雑多に報告しようと思います。あまり専門的な話はせず、どちらかというとお気持ち寄りな話をします。

ICLR に論文が通りました

私が主著の論文 が ICLR 2021 に通りました。内容は、物理シミュレーションの結果を高速に、かつ信頼性高く予測するための機械学習モデルを提案したというものです。ただ、わりと汎用的なモデルだと思っているので computer vision などにも適用できる気がしているので、やってくれる人がいたらとても嬉しいです (私ができる手助けは惜しみませんので、ご連絡お待ちしています)。

去年の記事を書いていた段階ではこの ICLR 2021 のリバッタルが終わって最終結果を待っている段階でしたが、査読結果があまり芳しくなく、わりとヒヤヒヤしていました。全体的に「書き方がわかりにくい」「実験が足りない」というレビューだったので、リバッタル直前に実験を回しまくったのを覚えています。書き方に関しても、メッセージやストーリーといったところももちろんですが、私自身国際的な学術論文を書くのが 2 本目で、かつ 1 本目は物理のジャーナルだったので、機械学習界隈のノリがあまりわからなかったというところもありました。いろいろな論文を読んで書き方を真似てみたつもりではありましたが、いろんな流派が混ざってしまってかえって読みにくくなってしまったというのもあるかもしれません。あとは、モデルの性質上多次元配列が多く出てくるのですが、そのあたりのノーテーションがいろいろわかりにくかったのかなと思います。わかりやすいノーテーション、難しい。

一方で、「内容はわかりにくいけどアイディアは面白いと思う。この論文には成功してほしいからちゃんと直したら評価上げるよ」といった旨の査読コメントをいただいていたので、モチベーションは保てました。リバッタルのときはこの査読者をメタる気持ちで論文の修正と実験の追加を行いました。その結果、はじめは査読の平均スコアが 4.67 ("Ok but not good enough - rejection" と "Marginally below acceptance threshold" の間) だったのが、平均スコアが 6 ("Marginally above acceptance threshold") になって無事にアクセプトされることができました。

まだ機械学習分野でのアクセプトは 1 つだけなので、この体験を一般化するのは早すぎますが、論文の見せ方、書き方の勘所は徐々に見えつつある気はします。これに関しては、論文執筆にあたっていろいろディスカッションしていただいた方々にも感謝したいです。ありがとうございました。

あと、ICLR は名前の通った国際会議だと思いますが、そこに受かったからといって必ずしも論文がバズるわけではないんだな、というのも面白い発見でした (と同時に、自分の目に入っていた論文たちは多かれ少なかれバズれていたんだなと)。やはり色々な人の興味を引くためには、手法が十分シンプルかつ強力であるとか、有用性が誰の目にも明らかにわかるとかいった要素が必要なのかもしれないですね。私の件の論文はなるべくいろんな人に刺そうとして汎用的に、誤解が生じないようになるべく数理的にといった方向で書いてしまいましたが、もうちょっとシミュレーションの人向けにしたほうが結果的には届くべき人に届けられたのかもしれません。個人的にはとても気に入っている手法なのでバズらなかったのは悲しいですが、今後の糧にしようと思います。

さきがけに採択されました

JST さきがけ「複雑な流動・輸送現象の解明・予測・制御に向けた新しい流体科学」に「機械学習と数値解析を融合した流動モデリング」という題目で 採択されました 。私自身ももともと流体の数値解析に興味があり (まだあまりよくわかっていないのですが)、会社としてもこれから流体分野に力を入れていこうということで、渡りに船的な感じで申請したところ、うまくハマってくれて採択していただくことができました。

この公募については大学の所属ではなく (学生だったというのもあり)、企業の研究者として申請しました。ちゃんと調べてないですが、D 持ちでない企業の研究者がさきがけに採択される例はかなり稀 (おそらく初?) なのではないでしょうか。これは私がどうこうというより、きちんと内容を評価してくださった評価者の方々のおかげだと思います。ありがとうございます。

こちらも応募に際してさまざまな方にお力添えいただきました。特に、今のボスや、修士の頃のボス (さきがけ採択経験あり) に申請書を見てもらったり、面接前にはプレゼンのレビューをしてもらったりしました。ここでもストーリーの組み立て方や、わかりやすい見せ方の大切さがちょっとわかった気がします。

なんとなく今まで、まだ D も持ってないしというので、あまりプロの研究者としての自覚はあまりなかったのですが、公的な研究費で研究しているという立場上そう甘えたことも言っていられなくなってきました。かと言って何かが劇的に変わったというわけではないんですが、なるべく間違ったことは言わないようにしようとか、わからないことはきちんとわからないと言って調べようとか、そういったことを前以上に強く意識するようにはなったかもしれないです。人間なので (?) 間違いゼロということは難しいですが、なるべく信頼に足る人間になろうという気持ちが出てきています。肩書きを持ち始めると、肩書きで信用してもらえるようになることもある一方で、テキトーに言ったことが無条件で信じられてしまって世の中がよくない方向に進んでも困るので、(考えすぎかもしれませんが) 発言には責任を持てるようにしていきたいなと思っています。

あとは、公的な研究費をいただきながら研究をしているので、やはり自分のやっていることが何らかの形で人類のためになるといいなと思っていますし、なると信じて進めています。今までも公的なお金でプロジェクトをやった経験として 未踏アドバンスト がありましたが、やはりどちらも独特の緊張感とというか義務感みたいなのがあり、個人的にはそういうのもやる気が出る要因のひとつなので、よいです (普段から人類のためとか考えている人間なわけではないので、こういうタイミングにでもちょっとでも恩返ししたい)。金額の大小で語るべきではないかもしれませんが、さきがけみたいに個人で数千万円レベルの研究費が動かせるようなチャンスはそうそうあるわけではないので、しっかり研究を進めていきたいと思います。

研究者的なアクティビティがちょっと増えた

いろんなところに呼ばれて講演したり、(ハゲタカでない) 査読依頼がきたり、徐々に一部のコミュニティには認知してもらえているかな? という感じになってきました。査読も、される側からする側に回ることで、論文のどのポイントを押さえるべきなのかといったことが別の視点からも見えてきました。私の認知度については、もちろんまだ全然これからなので、特に海外できちんと私の研究を認知してもらえるようになりたいですね。

今後はどうするのか

今研究を進めているので、これを論文化してどこかしらに投稿しようと思っています。英語論文でいうと 1 年 に 1 本と、若干スローペースではありますが、その分明確な新奇性を出せればいいなと思っています (本当にできる人は両立できるんでしょうけど、、)。

ICLR で出した論文は、博士課程に入学する前後くらいに思いついたアイディアのものなので、次に出すものが D の期間での主要な研究成果になってくれたらいいな、という感じです。私の場合はたまたまアイディアを思いついて運良くトップカンファレンスに採択されたのでよかったですが、どこか一つでも道を踏み間違えていたらと思うと、背筋が凍りますね。私は特に何も気にせず突っ走ってしまいましたが、(社会人) D 進するときは、論文ネタ (もしくは D 論に関連する研究でのアクセプト) を少なくともひとつ持っておくといいのかもしれません (が、私はそうしていないので本当にそれがいいのかはわからないです)。

また、ちょうどうちの会社の資金調達がありました。いわゆる研究開発型スタートアップということで、研究にもスピード感が求められていろいろ大変ですが、社会的に明確なニーズをもとに研究が進められて、自分の研究が会社の成長や顧客の課題解決に役立っていることが実感できるというのはとてもありがたいことです (そうでもしないとすぐ脱線したり興味が変わってしまうので、、)。採用も強化しているみたいなので、もし気になったら私に声をかけていただければ嬉しいです (もちろん直接応募していただいても大丈夫です)。

あとは、D 論をちゃんと書かないとですね。入学当初やりたかったストーリーの半分もできている気がしないですが、ひとまず自分のこれまでの集大成として、考えてきたことややってきたことをまとめたいと思います。

最後に、私を支えてくれている、会社の人、大学の人、家族、すべての人に感謝します。ありがとうございます。ある研究者の方が「研究で忙しいと家族に迷惑がかかるかもしれない。家族は大切にしてください」というようなことをおっしゃっていましたが、確かにそのとおりだなと思いました。これからもがんばりますので、何卒よろしくお願いします。

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