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【座・高円寺「芸術監督」公募で演劇界に一石】新たに公募74名から選ばれた杉並区立杉並芸術会館「芸術監督」の誕生

2023年7月1日、杉並芸術会館(座・高円寺)の芸術監督が交代します。

制度創設から16年にして初の交代です。悲願であった候補者公募も実現しました

「芸術監督の位置づけ」は施設によって異なりますが、杉並芸術会館(座・高円寺)の芸術監督は、杉並区の特別職公務員です。変化する時代に対応しつつも「公務員」に相応しい公正な選考を実現することが必要でした。

しかしながら、その募集、選考、就任、任期更新、退任(交代)などの手続は、これまで透明でも公正でもなく、結果として16年にわたり同一人物がその地位を占めていました。

これを背景に数々の問題も発生していたのです。


全国的にも珍しい今回の「芸術監督の公募」には74名の応募がありました。

応募者全員の選考結果が(落選者の個人情報を除き)公表されています。このような事例も私が確認する限り全国初です。

芸術監督の役割や候補者選考のあり方はまだまだ発展途上で課題は尽きませんが、このような初の取組をご理解くださった関係者のみなさんにまずは深く感謝申し上げます。

座・高円寺2009年発行のパンフレットから
杉並芸術会館(2009年発行)開館時のパンフレットから


選考の公正・透明性の実現は長年の課題


初代の芸術監督は、施設竣工前(16年前)に就任していましたが、その就任の過程は必ずしも詳細に公表されておらず、極めて不透明なものでした。

当時そもそも運営する施設さえ存在しない中、芸術監督や指定管理者を先に指定し、そこに公金が支出されたこと自体にも不透明感がありました(施設の竣工は14年前)。

その後も、①都に提出されている報告書と区に提出されている報告書の間に矛盾がある、②基本協定の規定どおりに事務事業が遂行されていない、③わざわざ文化庁に照会しなければ必要な情報が出てこない(情報を隠す)、④このような点について公正かつ透明な審査が行われないまま漫然と芸術監督の任期などが更新されているなどなど、数々の問題を発生させてきたのは、この間にもお知らせしてきたとおりです。


透明性・公正性の向上は、長年の課題でした。

初となった「公募」「交代」については専門メディアだけでなく日経も注目し、記事にしています(「座・高円寺、芸術監督公募で演劇界に一石」日本経済新聞4月17日)。


選考経過


芸術監督の公募には74名の応募がありました。

その応募資格は、

「演出家や脚本家など舞台芸術関係の実務経験が10年以上あること」
「直近3年度に納付する義務がある住民税(区市町村民税及び都道府県民税)等に滞納または未申告がないこと」

などでした。

応募資格を含む公募要項は、杉並区文化・芸術振興審議会(3月9日)の議を経て決定されています。なお、初代芸術監督は、当該議題の審議の際、除斥されています。

■選考経過
・4月1日 選考委員会設置
・4月10日~5月10日 公募
・5月11日~5月29日 第一次選考(書類審査)
・6月7日 第二次選考(プレゼン・ヒアリング)
・6月9日 次期芸術監督の決定
・6月15日 議会報告・結果公表

選考委員会は6人で構成されました。①委員6人中4人が外部委員であること、②初代芸術監督が審査から除外されていること、③担当部長も過去の事業運営に直接の利害関係がないこと(4月に教育委員会から異動)、④男女半々の構成であることなどに留意されていることがわかります。

■選考委員会の委員構成
・岡室美奈子 早稲田大学教授
・小林由利子 明治学院大学教授
・宮﨑靜子 杉並区町会連合会副会長
・吉本光宏 ニッセイ基礎研究所研究理事
・齊藤俊朗 杉並区区民生活部文化・スポーツ担当部長
・林田信人 杉並区総務部参事(人事課長事務取扱)

選考結果


選考は、第一次選考(書類審査40点)の後、第二次選考(第一次選考を通過した4名を対象としたプレゼンテーション及びヒアリング60点)が実施され、その合計点により候補者が選定されました。

この審査結果は、杉並区公式ページに74人全員分が公表されています(各審査項目別の配点を含む)

審査結果

芸術監督の選考結果について、このような形で公表した事例は、私が確認する限り日本初です。

最終的な合計点は、1位「90.4点」、2位「89.2点」、3位「88.6点」など、極めて僅差であったことがわかります。

応募された方で、自己の審査結果を知りたい方は、委員6人それぞれが付けた点数を含めて「自己情報の開示請求」をされるとよいでしょう。

区が保有管理している自己の情報は、杉並区個人情報の保護に関する条例に基づいて開示請求をすることができます(当然ながら他人の情報は開示されません)。

公の施設は「区民みんなのもの」


杉並芸術会館(座・高円寺)芸術監督初の「交代」「公募」の実現には長い道のりがありました。

それは芸術監督制度が未成熟であった影響もありますが、この施設が「公の施設」である事実が軽んじられていたことにも大きな原因がありました。

地方自治法
第十章 公の施設
(公の施設)
第244条 普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設けるものとする。
 2 普通地方公共団体(次条第三項に規定する指定管理者を含む。次項において同じ。)は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない
 3 普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない

公の施設は「区民みんなのもの」。杉並芸術会館は、地方自治法244条に基づく公の施設なのです(杉並区立杉並芸術会館条例)。

芸術監督の交代を伝えるプレスリリース

新たに就任するシライケイタ芸術監督には風通しのよい事業運営の実現を願わずにはいられません。

演劇界は何かと情実が左右していると聞くことがありますが、杉並区立杉並芸術会館(座・高円寺)の芸術監督は「公務」を担う立場であり、形式のみならず実質的にも公の施設に相応しい事業運営を進める義務があります。

私たちも杉並芸術会館の今後に引き続き注目していきましょう。新たな門出にあたり、関係者のみなさんのご多幸とご健勝をお祈りいたします。

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