【杉並区】全国自治体DX推進度ランキング10位も課題は山積【区長交代1年】
「全国自治体DX推進度ランキング2023」が発表され、市区町村ランキングで杉並区は全国10位と評価されました。
社会全体でDX(デジタル・トランスフォーメーション)が求められている中、総務省「地方公共団体における行政情報化の推進状況調査」の結果をもとに自治体の取組状況を時事総研が5つの観点から評価したものです。
詳しくはリンク先で確認することができます(時事通信 iJAMP Times)
https://portal.jamp.jiji.com/times/pdf/iJAMP%20Times_Vol_0.pdf
「DX推進度」というところがミソですね。必ずしも業務改革の達成度が評価されているわけではないことに注意が必要ですが、総務省の調査結果に根拠があることから現状を把握するうえで一つの指標にはなります。
ランキングそのものは一過性で重要ではないものの、DXを実現する過程において必要な取組を進めているか否か(全国約1,800の自治体の取組状況を含めて)確認することには意義があります。
■もはや避けられないDXの推進
生産年齢人口の減少が顕著となる中で進む高齢化(働き手の減少)、これに伴う社会保障の拡大、戦後大量に整備した公共施設インフラの老朽化など、自治体が抱える課題の解決は困難度を増しています。
日本は世界有数の長寿高齢化国で2025年には「団塊の世代」全員が75歳を超えますが、さらに人口動向から将来を見通すと、2040年には従来の半数の職員数で地方自治体の機能を維持することになりかねない可能性が指摘されています(団塊ジュニア世代全体が65歳を超えるのが2040年です)。
このような社会の構造変化に対応するには、好むと好まざるとにかかわらず、デジタルの力で課題解決を図るDXの実現は避けられないところです。
2025年、さらには2040年を見据えた業務改革(自治体DX)は、全ての自治体に共通する大きな課題です。
杉並区においてもデジタル化推進基本方針・デジタル化推進計画に基づき取組が進められており、議会にも「DX」を冠した特別委員会が設置されるようになっています。
現状では、定型データ入力業務の自動化・効率化(RPA・AI-OCRの活用)などにより、超過勤務の縮減や本来業務への注力が実現しはじめている段階に過ぎませんが、区民のみなさんの利便性向上を図る実質的な取組(AIチャットボットの導入やオンライン申請の拡大など)についても少しずつ実を結んできているところです。
例えば、チャットボットを導入している基礎自治体は現在11%です(総務省:窓口業務改革状況簡易調査6月現在)。
杉並区でも粗大ごみ受付チャットボットは使いやすく好評ですので、ぜひ利用してみてください。
■杉並区長交代1年 DXに向けた取組を振り返ると
杉並区は、2022年7月に区長が交代し、ちょうど1年が経過しています。
DXの推進は社会全体の課題ですが、経営トップのリーダーシップが欠かせないことから組織体による差が顕著です。
自治体の場合は、国全体で「住民情報系システムの標準化」の取組が進行していることもあって無関心ということはありませんが、DXはそもそも仕事のやり方を大きく変える構造改革であることから、その受け止め方には差があります。
杉並区でも、区長交代により進むようになったこの分野の取組がある一方で、以前として従来と変わらないままの業務遂行もあります。
まず、キャッシュレス決済(コード決済)の導入は23区最後発とはなりましたが、この間に進展しました。2022年10月から税・保険料の納付でau PAY、d払い、J-Coin、LINE Pay、PayPayが利用可能になっています。
デジタル化に向けた取組のいくつかも、デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ)の対象事業に採択されるなど特定財源の裏付けが得られました。実現済みのチャットボットなどと同様に着実な実施が期待できます。
①区役所窓口でのキャッシュレス決済導入事業は、今後、証明書窓口でのキャッシュレス決済の実施が予定されているものです。②遠隔手話通訳システムは、さっそく2023年7月に導入され、活用が始まりました。
③区立保育園・子供園向けICTシステムは、スマートフォンなどから双方向で連絡帳の確認・更新ができるほか、登園降園の管理(入退室の自動記録や遅刻欠席連絡)などが可能になるアプリの導入が予定されているものです。
④図書館ICタグシステムの導入においては、まず中央図書館から自動貸出機を設置することなどが予定されています。
IPv6への移行も、杉並区デジタル戦略アドバイザー(外部人材)の提言により動き出しており、本年度は、区立校全校のインターネット接続回線の設定変更が進められます。実測値としても通信速度の向上が確認されている旨の報告を受けているところです。
仮想空間(メタバース)を活用した新たな不登校支援として東京都が提供するバーチャル・ラーニング・プラットフォームの活用も動き出しています。バーチャルなサードプレイス(第3の居場所)から社会につながる拠点となることを期待しています。
他自治体で導入実績のある「書かない窓口」の実現に向けても検討が始まりました(来庁者が申請書に記入することなく各種証明書の発行や届出などを完了させることのできる新たな窓口サービス)。
前区長時代にはペーパーレス化さえ思うように進まず懸念していましたが、議会対応を含め法令上の規制も撤廃されてきている今、より前向きに取り組むことが必要です。未制定となっているe-文書条例の整備も不可欠です。
これらは単なる行政手続だけでなく、各種情報の迅速な提供・公表・公開にも繋がる取組です。今後より実質的な取組を拡大させる必要がありますが、ここにまだまだ問題があります。
■知ってました? 杉並区の「公布」「告示」とは、本庁舎前の門前掲示板に「紙を掲示すること」
まず見過ごせないのは公告式です。「公布」手続が完全に形骸化しています。
杉並区議会で制定改廃された条例のほか、これらに基づき区長や教育委員会等が定めた規則などは「公布」しなければならないことになっています。
例えば、条例については、条例の成立後、区長が「公布」しなければなりません(地方自治法16条2項)。
しかし、公告式条例によれば、この「公布」とは、本庁舎前の掲示板に掲示することになっています。
それでは「門前掲示板はどうなっているか?」といえば、確かに紙の掲示物が並んでいますが、鍵がかかっており、外からはほぼ表紙しか確認できません。高所に掲示してある紙ともなると、表紙を読むことさえ苦労します。
鍵もかかっていますので、掲示内容の詳細について読めないケースが多いこともわかります。このため、立ち止まって読んでいる人もほとんどいません(掲示板前に立ち入る人もほぼいません)。
総務課(東棟4階)に出向けば内容を確認することができるものの、土日休日夜間などは当然のように未対応です。それでも「公布」されたことになっているのです。
「告示」「公告」などについても、同様です。
告示も、公告も、本庁舎前の「門前掲示版に掲示すること」により公示されたことになっているためです。
しかし、詳しい内容を把握することのできないような門前掲示板に張り出すだけで公示したことになるのは、およそ現代的でなく理解できないルールでしょう。具体的に不利益も発生しています。
■「紙ベースのみでの急な通知」が現場に伝わらず混乱した事例も
例えば、4月の杉並区議選では、ポスター掲示場の設置場所が一部変更となり、各候補者に事前配付されていた地図との違いから混乱を招きました。
ポスター掲示場は区内に529カ所ありましたが、変更は複数箇所で発生しました。やむを得ない変更が多く、変更したこと自体は責められません。
しかし、現在の告示方式が「本庁舎前の門前掲示版に紙で掲示すること」であるため、その一部について現場レベルへの周知が間に合わず混乱を招くことになったのです(現場周辺でポスター掲示板を探す人が相次ぐことになりました)。
例えば、西荻北に設置された選挙ポスター掲示場「43ー1」は、選挙直前、急に設置場所が大きく変更(かなり離れた場所に移設)となりました。
事前配付されていた地図に記載のあった西荻わかば公園(西荻北2)からマイルドハート西荻(西荻北1)へと徒歩約5分かかる場所に急に移設されたのです。
その理由は、西荻わかば公園にポスター掲示板を設置した後、近隣の方から「掲示板が大きく遊具の近くに設置されているため危ない」との連絡があり、移設を希望する旨の連絡があったためでした。
選挙ポスター掲示場の設置については「直ちに、その掲示場の設置場所を告示しなければならない。」と定められており(公選法144条の2第4項)、選挙管理委員会も「告示」はしています。
告示さえしていれば、移設は違法ではなく、選管の落ち度ともいえません。
しかし、この「告示」は、杉並区においては「鍵のかかった本庁舎前の門前掲示版に紙を張り出すこと」であるため、多くの人がその内容を速やかに把握することができなかったのです。
結果として、多くの候補者が選挙初日(立候補届出の受理直後)に移設を知ることとなり、現場への指示が円滑に進まず混乱を招くこととなりました。
■DXは全ての分野で必要 公告式なども改善を
この件は、紙ベースで業務を遂行していることで少なくない人が振り回された典型例です。
現地でポスターを持って周辺を探し回る人が少なくなかったとの報告を受けています。業務改善を図る必要があります。
GIS(地理情報システム)の有効活用は大きな課題です。
特に区のデジタル化推進計画においては選挙管理委員会にみるべき取組がないのですが、これからは選管を含め全庁でDXの推進が不可欠です。
簡易な方法としては、Googleマップを用いるなどして選挙ポスター掲示場の設置場所を内外に明確にし、仮に急な変更があっとしても、ただちに誰もが確認できるよう改善を図る方法もあるでしょう。
「公布」「告示」など公示の方法についても、社会の変化に対応した取組が必要です。
先に紹介した公告式条例についても、そもそも公告式という古めかしい用語自体、地方自治法からも消えており、その現代化が必要です。
これは「まずは情報公開の徹底」を掲げて当選した岸本区長の公約を実現することでもあるのです。
鍵のかかった門前掲示板に紙を形式的に何枚も掲示していても、2ページ以降は全く読むことができません。現在の「公布」手続きは完全に形骸化しているのです。
公告式についても、事務作業の効率化を図るとともに、利用者ベースで利便性を向上させるためにも、①杉並区公報として公式WEBページに掲載する方法などに原則変更するか(東京都公報方式)、②ほぼ同じ内容を区公式ページに同時掲載するなどにより「公布」の実質を確保していくことが必要です。
■DXは単なるデジタル化ではなく、社会の変化に適合するように仕事のやり方を変えていくこと
杉並区はこのたび「全国自治体DX推進度ランキング」で全国10位との評価を受けました。
基礎自治体は全国に約1,800存在していますので、堂々の上位と評価することができます。多くのみなさんのご努力の反映です。ありがとうございます。
しかし、このDX推進度は、必ずしも業務改革の達成度を表しているわけではありません。あくまでDXを実現する過程において必要な取組を進めているか否か表しているに過ぎないものです。
DXは単なるデジタル化ではなく、社会の変化に適合するように仕事のやり方を変えていくことです。その受け止め方には個人差もあるようですが、社会の構造変化を踏まえれば、遅かれ早かれ全ての分野で必要不可欠な取組ばかりなのです。
ここから真に必要な業務改革を前進させることができるか、まさに2025年に向けて(さらには2040年に向けて)正念場を迎えています。