見出し画像

『盤上に君はもういない』読後感。

最近は将棋を題材にした作品をよく書店でみかけるようになった。以前から作品はあったが「平積み」されるようになった、ということもあるのだろうか。多かれ少なかれ藤井二冠の「インフルエンサー」的な恩恵もあるかもしれないが。

観る将な私が本作品を手に取り何気なく出だしを「立ち読み」(すみません)したら、あっという間に1章の最初の段落を読んでしまった。
こういう作品は、経験上「外れない」と確信しているので即購入といきたかったが、持ち帰る為の鞄を所持していなかったので書店さんには申し訳無いがKindleで購入した。

さて、素直でない擦れ枯らした観る将のおっさんが「将棋」「奨励会」「病弱」とくれば否応なしに村山聖贈九段と彼をオマージュした作品群を想起せざるを得ないし、タイトルや「女性」「病弱」からは「四月は君の嘘」を思い出す。
その「系譜」なのだろうと当たりを1章を読み終える頃にはつけていた。「予想」が当たったとしてもそのラインなら楽しめる。

だがしかし。擦れ枯らしとはいえ素人の「読み」なんぞ当たるわけなく、まぁある程度「下地」にはしているのだろうが全く別物。よしよし。

本作品は数人の主たる登場人物の群像劇の体裁をとっており、各章は各登場人物の一人称視点で同時間軸を切り取っていくスタイル。『嗤う伊右衛門』みたいに物語に厚みがふくらんでいく。
登場人物に「記号」でなく、「人生」を感じられていく。すきなスタイル。よいよい。

ただし物語は一人の登場人物の人生に収斂していき、最終章の独白のボリュームはそれまでの各章が助走であったことを知る。『こころ』の如く。

ネタバレはしたくないので、感想らしい感想も書いていないが1つだけ。
選択の基準が一貫しているが、誰しも選択出来るわけではないというで1点で智嗣が一番好きだった。

「盤上に君はもういない」。
盤上には、いない。しかし確固として「君」を認めることができる。

なかなかのおっさんが、夜中に純愛小説よんで号泣する痛々しさを消化するために書きなぐりました。
良い物語を堪能できて幸いでした。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?