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遊び心を忘れない。半径5キロ圏内に愛されるビールづくりを【HOPPIN’ GARAGE ブリュワー紹介 Beer++ 山腰洋一郎さん】

東京都北区にある十条駅。南口を出て踏切を渡ってすぐに、ログハウス風のお店「Beer++ 」(ビアプラスプラス)があります。Beer++は、お店でビールを製造しているブリュワリーで、2014年12月にオープンしました。

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提供するビールは、カレーやキウイ、夏みかん、金柑など、ビールからは連想しづらいような食材を使っているのが特徴です。

醸造長である山腰洋一郎さんは、IT業界で15年勤務する会社員だったそうです。

なぜビールの原料としては珍しい食材を使おうと思ったのか。そして、山腰さんがビールづくりを始めたきっかけとは?

「ビールの民主化」を掲げるHOPPIN’ GARAGEでは、全国でビールづくりに取り組むブリュワー・ブリュワリーをご紹介していきます。今回は山腰さんに、ブリュワーとしての思いや「ビールの民主化」についてお聞きしました。

IT業界15年から転身し、醸造長に。ビールづくりの世界へ飛び込んだ理由

これまで仕事ではビールと縁のなかった山腰さん。ビールづくりに関わるようになったきっかけは、何だったのでしょうか?

「大学卒業後、IT企業でシステムエンジニアとして15年働いていました。

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30代後半になり、順調にキャリアを積んで次は管理職というタイミング。しかし『このまま会社にいてもいいのかな……?』という気持ちが芽生えてきたんです。ずっと同じ会社にいるのかな、もっと何かチャレンジしたいことはないのかなと迷っていた時期でした。

システムエンジニアとしてプログラムを書いて、物を作るのが好きだったので、『何かを作る仕事をしていきたい』という気持ちがありました。次第に『自分の好きなビールにまつわる仕事はできないだろうか』と考えるようになったんです。

大人になってからビールを飲むのはずっと好きでしたし、キャリアに迷い始めた当時、クラフトビールのお店が増えてきて、お気に入りのお店に週1回以上は通っていたんです。

とはいえ、いきなり何かできるわけもないですし、知識もありません。まずは遊ぶ感覚で月1回程度ビールの勉強会に参加したり、工場体験やイベントなどに行ったりしていました。

ビールの勉強会に半年ほど通った頃、勉強会の講師から『ある会社の社長がブリューパブを始めたくてスタッフを募集している』というメールが送られてきました。その会社が緑化事業や水質調査、土壌汚染調査などの事業をしている水研クリエイト株式会社でした。

当時、水研クリエイトの社長は無農薬で野菜を水耕栽培していて、『作った野菜を多くの人に食べてほしい。しかし普通にお店を開いても面白くない』と考えていたそうで。そのときに小さな敷地でビール醸造をするお店についての新聞記事を読み、ブリューパブを自社でも開きたいと、ビールづくりに興味がある人を探していたんですね。

僕も小規模のブリューパブをやってみたいと考え始めていたので、『今がチャンス』と考え、メールが来た日の夜に長文の自己紹介メールを書いて、次の日の朝には社長に速攻で送信しましたね。あのときの決断が今につながっているので、本当にタイミングが良かったです」(山腰さん、以下同)

小規模だからこそ、つくりたいビールを“大胆”に試せる

2013年末に話が持ち上がり、2014年2月に山腰さんは会社を退職。同年4月から本格的にブリュワリーの立ち上げに入ります。

「お店は木をたっぷりと使ったログハウス風ですが、もとはただの一軒家だったんです。1階のカウンターと階段以外は全て自分たちで作りました。

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壁も全部剥がして、屋根も閉じていたんですが天井を広くとるために引き剥がして。木は角が丸くなるように削ったり、ネジ穴を埋めたりと、細かい作業をしていました。

また、一軒家を改造してお店と醸造所を作ったので、狭いのも大変です。保存用、熟成用冷蔵庫の置き場所は元お風呂場だったり(笑)。

作業を進めつつ、私自身は経験を積むために別のブリューパブでアルバイトをしていました。2014年秋には料理ができるスタッフも必要となり、勉強会で一緒だった大内久人が参加し、同年12月にBeer++をオープンしました」

念願だったビールづくり。しかし、最初はトラブルも多かったようで......

「最初はいろいろなトラブルが起きました。税務署の方を呼んで、つくったビールを破棄したこともありました。徹夜で仕込みをしたときは、ものすごく時間がかかり、仕込みが終わった明け方、大内さんと王子神社に『うまくできますように』とお参りに行ったこともありましたね。

トライアンドエラーを繰り返しながら、仕込みの手順を変えたり、レシピを少しずつ変えたりして、ビールの味も良くなってきたと思います。

小規模でやれないことも多いですが、小ロットなので、失敗してもダメージが少なく、思い切ったチャレンジができる。

例えば、一般的に柑橘のビールというと「ほんのり感じる」というイメージになりますが、僕たちは「柑橘そのものだ!」と感じるほどがっつり入れて、ビールをつくることができます。試してみたいことを思いっ切りでき、それをお客さんに提供できるんです。やりたいことはやりながら、ビールづくりに取り組めていると日々感じていますね」

遊び心を忘れない。意外性のあるビールが生まれる理由

カレーやキウイ、金柑など、山腰さんがビールに使う食材を聞くと、「えっ!?」と感じる人も多いかもしれません。

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「『この食材とビールを組み合わせてみると、どんな変化が起きるんだろう?』『つくってみたらこうなった』といった、面白さを大切にしているんです。

僕たちが考えるだけではなく、まわりの人たちからきっかけをいただくことも多いですね。

例えば、カレーのビール。東十条にカレー粉工場があって、スタッフの大内がバイクで工場の前を通るといつもいい香りがするので、ここは『一体なんだろう?』と思い、直接話を聞きに行ったんです。そこからご縁がつなががりました(笑)。

また、お客さんの中に長野でとうもろこしをつくっている人がいて、『とうもろこしのビール、やってみない?』と言ってもらったり、福岡で果樹園を営む友人が『うちでつくったキウイを使ってみる?』と声をかけてくれたり。お店でお客さんと話しているうちに『次はこんなのどうですか?』とアイデアをいただくこともあります。

こんなふうにご縁が自然と広がっているからこそ、さまざまなビールづくりができていますね。

身近な人たちが僕たちのビールづくりを面白がってくれているんです。その人たちが次のビールになるアイデアをくれるので、僕たちのビールはいつも、想像もできない方向へ広がっています。

ビールをはじめフードメニューにも、ワクワクした『遊び心』をずっと抱いていたいです。常に新しいチャレンジをしていきたいですね」

山腰さんに、数あるクラフトビールの中からおすすめの商品を伺ったところ、根強い人気を誇る「アンバーエール」を挙げていただきました。

写真5※商品ラインナップは、6月下旬時点

写真6ローストした麦の風味がしっかりと感じられ、苦味も少なくゴクゴク飲める一杯でした!

まずは「半径5キロ」圏内から

HOPPIN’ GARAGEがテーマとして掲げる「ビールの民主化」。最後に「ビールの民主化」のために山腰さんが果たす役割を聞きました。

「うーん……難しい質問ですね〜。

僕は自分の目が届く範囲の仕事をしたいと思っていて、半径5キロ圏内に住んでいる人たちにもっとビールを定着させて、提供できたらいいなと思います。

『いろいろなビールをつくれるんだ』というのを、お店に来て知ってもらえるだけで嬉しいんですよね。

なので、クラフトビール文化をもっと広めたい、地域活性化に貢献したいといった、かっこいいことは言えないかなあ(笑)。

うちは雑多で手づくり感が強いお店ですが、近所のお客さんがわいわいビールを楽しめるような空間でありたいですね」

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「今度、杉のオイルを使ったビールを、いくつかのブリュワリーでそれぞれつくる予定です」と教えてくれた山腰さん。杉のオイルを使ったビール……一体どんな味わいになるのか完成が楽しみです。遊び心があるビールが気になる方、十条へ行ってみてはいかがでしょうか。

次回のブリュワー紹介もお楽しみに!

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HOPPIN' GARAGE(ホッピンガレージ)は、「できたらいいな。を、つくろう」を合言葉に、魅力的な人々の人生ストーリーをもとにしたビールづくりをはじめ、絵本やゲーム、ラジオにイベントなど、これまでの発想に捉われない「新しいビールの楽しみ方」を続々とお届けします。