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天才監督と言われた山中貞雄の遺作〜山下達郎も絶賛する「人情紙風船」

昨年10月以来の小林信彦「日本映画ベスト50」クエスト。まだ続いている。

今回は、山中貞雄監督の「人情紙風船」。1937年、戦前の作品である。

小林さんのコメントは、<天才山中貞雄の遺作。破滅してゆく長屋の人々をとらえたハリー三村こと三村明のキャメラの明るさにぞっとする。山中貞雄、翌一九三八年、中国大陸で戦病死。二十八歳。 >

長屋で首吊り自殺が発生する。長屋の住人、髪結新三は大家にお通夜を催すよう掛け合う。部屋を清めるためにも、酒を振る舞って弔おうというのだ。お通夜は、賑やかなどんちゃん騒ぎと化す。この場面が大好きだ。

自殺という出来事を逆手にとって、ただ酒を飲み、日頃のうさをはらそうという、新三を始めとする長屋連中のたくましさ。この映画は1937年の8月に公開されたが、その前月に盧溝橋事件が発生、日中戦争へと突入している。

映画は、落語歌舞伎になっている「髪結新三」をベースに作られているが、新三と共にドラマの中心となるのが、浪人の海野又十郎。彼もまた貧しく、長屋に住んでいる。なんとか、稼ぎを得ようと、父親が世話をした人間の下を訪ねるが、冷たい扱いを受ける。

この二人に絡んでくるのが、質屋の娘のお駒(霧立のぼるが妖艶である)と、恋仲になっている店で働く忠七。

不器用を絵に描いたような又十郎と、手練手管で世渡りをする新三のコンタトラストが良い。演じるのは、前進座を創設した河原崎長十郎と中村翫右衛門。

髪結新三のバイタリティと、又十郎の生真面目さ、戦争に突入する日本で生きていく人たちを象徴しているようでもある。

そして、小林信彦が書いている通り、徴兵・出征することになった、“天才“山中貞雄は夭折する。さぞかし無念であったろう。

2年前、日本映画専門チャンネルで、本作の4Kデジタルリマスター版が公開された。その際には、この映画を絶賛する山下達郎が、なんとTV出演し熱く語った。

Amazon Primeなどで、本作は観られるが、日本映画専門チャンネルでも同放送の再放送してくれないかと思っている



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