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1984年の萩尾望都〜世界が広がるターニング・ポイント(その4)

(承前)

宇宙の次は、古代のような架空の世界です。<海に二つの虹のかかる美しい王国>、ヴァルー・ファルーの若者が旅の途中で、神への生贄として捧げられた“贖罪者“と呼ばれる男と出会います。ボロボロの衣をまとった年老いた男は、自分はヴァルー・ファルーの王だと若者に告げるのでした。「偽王(にせおう)」と題されたこの短編の舞台は、現実から遠く離れ幻想的ですが、物語の本質はリアルにも感じます。

10月号は「プチフラワー」から離れ、集英社の「ぶ〜け」に登場します。SFマンガ「ハーバル・ビューティー」は、革命前夜、美形揃いの“夜来香星“を訪れたネモ船長と、この惑星を脱出しようとする若者ルゥの出会い。ルゥを宇宙船に乗せる対価としてネモが求めたのは、<若がえりと美顔の美容香草>、“ハーバル・ビューティー“。この香草の正体、“夜来香星“の真実とは。。。。

掲載誌の性格も反映してか、物語のタッチはこの年発表の多作に比べると軽いのですが、SF性は結構深い作品になっています。

11月号は「プチフラワー」に戻り、「天使の擬態」。萩尾作品には珍しい、典型的な“少女マンガ“フォーマットの作品です。主人公は女子大の1年生、有栖川次子。その大学に赴任してくる男性教授、織田四郎。この二人の関係を中心に展開する作品ですが、次子の背後には重いものがぶら下がっています。またもや親子関係がチラリと、しかもこの作品では母と娘という現実的な状況が登場します。

有栖川次子というキャラクターは、男性としては気になります。彼女の将来はどうなったのでしょう。萩尾望都の対談集「マンガのあなた SFのわたし」という本の第1章は手塚治虫との対談で、手塚さんは男性として萩尾マンガに惹かれる要素の一つとして、<あなたの女性の線から生まれるエロティシズムだと思う>と話しています。そう、次子は色っぽく、魅力的なのです。

そして、「プチフラワー」12月号、1984年の最後を飾るのは「船」という作品です。実は、新書館の「グレープフルーツ」誌に「砂漠の幻影」が掲載されますが、こちらは4ページの小品。「船」をこの年のラストとしましょう。

家出少年がたどり着いた海辺の家には男が一人で住んでいました。モデルシップが並び、男は打ち上げられた難破船の木屑を使って模型を作っています。少年は男と交流するのですが、男には謎めいた存在でした。これも親子の物語ですが、少年と両親の問題は背景としておぼろげに流れ、重点は男と妻、彼らの息子の関係性に重きが置かれ、24ページの短編は余韻を残しながら終わっていきます。

「萩尾望都作品目録」によると、後年この家出少年は少年時代のメッシュであることが公式に確認されたそうです。「メッシュ」の単行本は3巻までありますが、この「船」は第2巻に収録されています。

この作品で明らかになったメッシュの少年時代の体験は、どのように本編へとつながっているのか。ループのように、“メッシュ“シリーズの冒頭に戻りたくなる一作です。

こうして、萩尾望都の充実した1984年は終わっていきます。

これから、彼女はどこに向かうのでしょうか



おまけです。本稿を書くにあたり、色々調べたり確認する中、YouTubeの日本漫画家協会公式チャンネルで、萩尾望都インタビューがアップされているのを発見しました。聞き手は、「はじめの一歩」の森川ジョージと、同じくマンガ家のきたがわ翔。マニアックな話が沢山聞けます



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