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“上手さ“から“衝撃“に変わった時〜大友克洋全集第5巻「Fire-Ball」

大友克洋全集の第5巻は、1978年の後半から1979年初にかけ発表された作品が収録される。

第4巻「さよならにっぽん」について書いた私の感想文を見返すと、“様々なテーマで作品を生み出そうとする大友がいる“と書いていた。

そして、本巻においては、さらに磨きがかかり、各作品が高い完成度を示している。何十年振りかで読んだわけだが、多くの作品は記憶に残っていた。それだけ、印象が強かった〜よく出来たマンガだったのだと思う。

絵の完成度も、脂が乗ってきて、こちらも頭に刷り込まれていたカットがいくつもあった。本巻の作品の多くは、雑誌掲載時にリアルタイムで読むようになっていた。

そうして登場したのが、本巻のタイトル作「Fire-Ball」だった。

大友克洋は、デビュー以来、双葉社の「漫画アクション」(含む増刊)に作品を掲載してきた。それが、本巻収録の「ヘンゼルとグレーテル」は、「ヤングコミック」(少年画報社)上で発表された。「解説」によると、アクションに毎月発表しながら、一人でコツコツと書き上げ、ヤングコミックに持ち込んだそうである。このように、発表プラットフォームの変化が生まれ始める時期である。

一方の漫画アクションだが、1979年1月27日号として「アクションデラックス」が創刊される。前年、小学館「ビッグコミック」からは、豪華な執筆陣を並べた「ビッグゴールド」が創刊された。おそらく、これを意識したのだろう。バロン吉元・長谷川法世・上村一夫・モンキーパンチなど、大御所が並ぶ中、大友克洋が名を連ねた。

その特別な舞台で発表されたのが「Fire-Ball」。政府の進めるATOM計画、超能力を持った警官、彼に施される人体実験、そしてその男の覚醒。最後の数ページは、まさしく“衝撃“であり、私はとんでもない作品が世に出たと思った。

私は「アクションデラックス」を分解し、「Fire-Ball」の部分を抜き取り、ファイルに保存していた。友人にも回覧したかもしれない。

「解説」で本作の経緯が書かれている。「アクションデラックス」創刊にあたって50ページ埋めてくれと言われた大友、それならSFをと描きたいと。<当時は劇画ブームの絶頂期で、少年マンガでも『巨人の星』とか『あしたのジョー』が人気だったし、SFなんかウケないから駄目>(「解説」より、以下同)と言われたが、最後には編集者が折れた。 (「巨人」は1971年、「ジョー」は1973年に終了しているので、ちょっと記憶違いではないかと思うが)

SFを描きたかった理由としては、<もう少しちゃんマンガを描こう><少年マンガの王道に戻ってみようと>。

「Fire-Ball」について、大友克洋は“失敗作“とし、本巻でも<それまで蓄えてきた基礎的なマンガ力を試したくて、少し長い話に挑戦したわけですが、結果失敗しました>としている。

確かに、「童夢」「AKIRA」と比べると、消化不良に終わっているのだが、私にとってはそれが無限の可能性と感じたのだ。

“失敗作“ではなく、“衝撃“を与えた偉大なる習作、それが「Fire-Ball」である


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